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天翔ける龍のごとく  作者: 香月薫
第4章 散華 前編
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第74話  待ち伏せ2

 死臭がすると言う通報を受け、壊れかけ寸前の廃墟ビルに、銃器組が訪れていた。

 けれど、現場を見た彼らは、自分たちではなく、特殊組の管轄だと、早急に連絡し、交代したのだった。

 廃墟ビルで、数体の半妖の遺体が、転がっていたのである。

 事件が、庶民に公表されず、秘密裏に処理されたのだった。


 渋面している山南が、廊下を歩いている沖田を、待ち構えていた。

 その隣に、尾形の姿がない。

 珍しく、山南が一人だったのである。


 目を細めている山南の前で、立ち止まったのだ。

「今度は、逆ですね」

「……」

 無言のまま、じっと笑顔を振りまく姿を捉えている。

 変化がなく、笑顔のままだ。

 僅かな違いを窺おうとしても、山南自身、全然読み取れない。


「何か、あったのですか?」

 愛嬌たっぷりに、首を傾げてみせた。

 そんな仕草が、ますます山南の苛立ちに、拍車が掛かっているとわかっていてもだ。


「……見世物小屋が、襲撃された」

 か細く、そして、周囲に聞こえない程度の声だった。

 その声音に、怒気が孕んでいた。

「……」

 微笑んでいた顔が、僅かになりを潜める。

 まっすぐに、ブスッとした山南を、視界に捉えていたのだ。


「生存者は?」

「……いない」

 簡素に、山南が答えた。

「……」

「……お前の仕業では、ないのか?」

 疑るような眼差しを傾けている。

 けれど、表情が変わることがない。


「僕ですか?」

「捜していたのだろう」

「捜していましたけど、友達を襲撃しないですよ」

「……」

 山南自身も、襲撃しなくても、何かかかわっているのではないかと巡らせるだけで、襲撃犯だと抱いていない。

 ただ、何か知っているのではないかと、掠めていたのだった。

 少し、緊張していた肩を降ろした。


「特定できないんですか?」

「ああ。以前から、できていない」

 素直に、山南が吐露した。

 その顔は、どこか悔しげだ。

 特殊組に所属している時から、見世物小屋を襲撃している犯人を、特定することに至っていなかったのである。


「現場は、半妖だけ、なんですか?」

「いや。数人の人間も、混じっていた」

「そうですか……」

 数十秒、逡巡していた沖田。

 ふと、目の前にいる山南を見つめている。


「ところで……」

 何を言いたいのか、山南もわかっていた。

 亡くなっている遺体が、友達かどうか、確かめたいのだろうと巡らせていた。

 以前も、知り合いがいたら、埋葬してあげたいと言っていたからだ。

「わかった。手配する」

「ありがとうございます」

 真摯に、頭を下げる。


「何か、掴めているのか?」

 探るような眼差しを注いでいる山南。

 かつての仲間や、後輩たちが、出し抜かれる形でいる状況に、彼らと同じように、苦々しく抱いていたのだった。

 だから、少しでも情報があればと抱き、沖田に尋ねたのである。


「いえ」

 ニッコリと、微笑んでみせた。

 本心か、どうか見抜こうとするが、読むことができない。


(手強いな、沖田は)


 大きく溜息を漏らした。

 クスッと、小さく笑っている沖田だった。

「では、失礼します」

 軽く頭を下げ、山南の前から立ち去っていく。




 そのまま、訓練場に向かって、足を進めていると、突如、近藤が姿を現したのだった。


(随分と、今日は、待ち伏せされているな)


 苦笑しつつも、待ち構えている近藤のところへ、向かっていった。

 壁に寄りかかっている近藤の前で、立ち止まったのである。

 立ち止まったのを見定めてから、壁から身体を剥がした。


「近藤隊長、何でしょうか?」

 率直に、待ち構えていた理由を尋ねた。

 微かに、顔が渋面していたのだった。

「……山南さんと、何を話していたんだ?」

 同じように、隠し立てすることもなく、ストレートに口に出していた。

「今まで、山南伍長と話しているのを、ご存知だったですね」

「……銃器組が、二人が話していると、喋っているのを聞いた」


 上層部に、頭を下げ回っていた近藤は、廊下で銃器組の者たちが、歩きながら喋っているのを、耳にしていたのだった。

 意外な組み合わせに、何かあったのかと巡らせ、上層部に頭を下げ回ることをやめ、こちらに来たのである。


「なるほど」

 感心した顔を覗かせている。

 山南と話している際に、数人の気配を感じ取っていたのだった。

 その中の人間なんだろうと、巡らせていたのだ。


「で、何を話していたんだ?」

「半妖のことです」

 隠し立てることもせず、話していた内容を、バラしてしまった。

 話を聞きながら、眉間にしわを寄せている近藤。


「気をつけろって、以前、話したが?」

 咎めるような視線を、テへと笑っている沖田に注いでいる。

「特殊組の人を、紹介してほしいと思いまして。その方が早いと、思ったものですから」


 悪びれる様子がない仕草に、頭を抱え込む近藤だった。

 よりにもよって、半妖を嫌っている山南に、尋ねるとは思ってもみなかったのである。

 大胆なのか、何も考えていないのかと、疲れているような顔を滲ませ、ニコニコと笑っている沖田を見入っていた。


 嘆息を、近藤が漏らす。

 伏せていた顔をあげた。


「山南伍長は、悪い人ではないが、今後、気をつけるように」

「はい」

「捜査の方は、随分と、難航しているようだな」

「そのようですね。上に秘密裏にしているせいも、あるんでしょうね」

「だろうな。日常の業務に加え、秘密に捜査していると、なかなか手が回らないんだろうな」


 ふと、以前のことを、近藤が振り返っていた。

 特命組に所属していた際、同じように、上司に内緒で、捜査していたことがあったからだ。

 意識が現実に戻ると、沖田が自分の顔を、凝視していることに気づく。


「何だ?」

「何か、ご存知ありませんか」

「いや」

 目蓋を、パチパチさせている。


(かつての部下でも、知らないのか……。あの人らしいかも)


 なぜ、沖田がそう尋ねるのか、理解できなかったからだ。

「特命組でも、何か把握しているんじゃないかって、思ったものですから」

「ないな。私が、いたところではだが」

「他のところでは、あるかもしれないと、言うことですか?」

「可能性は、ゼロではないだろう。ただ、どこもそうだが、秘密主義なところがあるからな。そのせいもあって、情報がなかなか回らない」

「随分と、面倒臭いですね」

 いやな顔を、沖田が滲ませていた。


 素直な仕草に、クスッと笑みが零れてしまう。

「風通しが、よければいいんだがな」

「ですね。そうすれば、もっと上手く、行くような気がします」

 笑っている沖田に、真面目な顔を傾ける。


「本当に気をつけろ。いくらS級ライセンスを持っているとは言え、ここは都なんだからな。地方にいる時の感覚を捨てろ」

「……はい。気をつけます」

「なら、いい」

 殊勝な姿勢に、ひとまず安堵する近藤である。


「近藤隊長、これから訓練場に、行くところなんですが、稽古、お願いしても、いいですか」

「悪いな。行くところがある」

「そうですか。じゃ、次の機会に、お願いします」

「そうしてくれ」

 互いに、別な行き先に向け、歩き出していた。


読んでいただき、ありがとうございます。

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