表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天翔ける龍のごとく  作者: 香月薫
第4章 散華 前編
81/290

第73話  邪魔

 深夜、自宅に戻って、寝ていた沖田。

 突然のリキから連絡を受け、人通りが疎らになっている暗闇を、簡素な服装で目的の場所に向け、駆けている。

 一瞬の出来事に、走っていく沖田のことを、誰も捉えられない。

 何事だと、首を傾げていたのだった。

 徐々に、疎らだった人影が、一つもなくなっていく。




 その頃、見世物小屋から、無理やり連れ出されたリズたち。

 怯えながらも、気丈に連れ出された子供たちを守ろうとしていた。

 逃げ出さないように囲まれながら、何もない殺風景な広い、草むらだけの場所に、連れられていたのである。


 リズと、半妖の子供五人を庇うように、警戒しながら聖とククリが、僅かに前へ出ていた。

 勿論、武器など、所持していない。

 着の身着のまま、連れ出されたのだった。

 周囲の気配を、嗅ぎ取っている。

 団長たち以外の気配を嗅ぎ取り、怪訝そうに窺っていたのだ。


((数人の人間の気配がする。どういうことだ?))


 リズや半妖の子供たちも、気配を嗅ぎ取っているはずだが、これまでにない状況に置かれ、気配に気を配ることができない。

 さらに、神経を研ぎ澄ましながら、少し離れた場所で、立ち止まった団長たちを凝視していた。

 いやらしく笑みを零しながら、立ち尽くしていたのである。


「どういうことだ、団長」

 声を張り上げ、聖が問い質した。

 その背後では、半妖の子供たちが震えている。

 懸命に、リズが子供たちを宥めていた。

「もう、お前たちは、用済みだ」

 口の端が上がっている団長。


 眉を潜める聖たちだ。

「用済み?」

「もう少し、おとなしくしていれば、リズなんかは、人気あったから、残していたが。何かと、うるさいからな。それに新しい半妖も、手に入るし、用済みだ」

「「「……」」」

 恐怖で、半妖の子供たちは、団長の言葉も、耳に入らない。

 リズが困惑しているが、聖とククリだけが、団長たちのことを、眼光鋭く睨んでいた。


 足音など気にしない素振りで、数人の男女が姿を現したのだった。

 その手に、銃を持ちながら、廃墟ビルから出てくる。

 誰の顔も、悦が入り混じっていた。

「そろそろ、いいか?」

「勿論です。お待たせしてしまって、すいません」

 数人の男女のリーダー格の男に、頭を下げている団長。


「何をさせるつもりだ? 俺たちに」

 固まっているリズたちを、さらに守るために、背にする聖だった。

 その隣で、ククリが団長たちや、数人の男女の動きを窺っている。


(糞っ。ソウから聞いていたけど、こんなに早く来るとは)


 いち早く、ククリは置かれている状況を、飲み込んでいたのである。

 唇が切れそうになるぐらい、噛み締めていた。

 けれど、こうなった以上、早くここから脱出することを巡らせている。

 だが、名案が浮かばない。


(どんなことがあっても、リズたちは逃がす)


 見据えているククリの眼光が、鋭かった。

「狩りだ」

「狩り……」

 ようやく、自分たちが獲物になることを、認識する聖やリズたち。

 以前、噂話で、そういった話を聞いていたのである。

 まさか、自分たちに、そういったことが、降りかかるとは思ってもいなかった。


 リズや半妖の子供たちは、顔面が蒼白だ。

 子供たちを抱きしめているリズの手に、力がこもる。

 子供たちを守ろうとする意思だけで、気持ちを奮い立たせている状態だった。


「理解したようだな」

 クククと、侮蔑するように、笑っている団長。

 その脇に、かつて一緒に旅をしていた仲間たちがいた。

 絶句しているリズたちの目は、悲しく、憤りが込められていたのだ。

 これまで別なところに行ったと、聞いていた半妖のすべてを、享楽に楽しむ人間たちに売っていたのである。


「お喋りは、終わりにして貰う。早く、狩りを楽しみたいんでね」

 リーダー格の男が、急かせた。

 そして、立ち尽くしている聖たちに向け、銃を構える。

「いつものように、私が銃を放ったら、始まりだ」

 それぞれに、男の背後にいる者たちが、コクリと頷いている。


 愉悦が止まらないリーダー格の男。

 狂ったような表情を、滲ませていたのだ。

 畏怖した顔を、リズたちが覗かせていることも、狩り側の人間たちを刺激していたのだった。


 引き金を引こうとした瞬間、突如、狩りする者と、狩られる者との間に、沖田とリキが入り込んできたのである。

 瞬く間の出来事に、誰も驚愕していた。


 平然と立ち尽くしている沖田と違い、微かにリキの息が上がっている。

 沖田の双眸は、何も感情がないようだった。

 隣に立つリキは、侮蔑するような眼差しを、狩りする者たちに注いでいる。


 どちらも、瞠目し、その場に立ち尽くしていた。

 彼らは極秘裏で遊ぶため、周囲を警戒する者を雇っていたのである。

 それにもかかわらず、侵入した沖田たちの存在に、驚かされていたのだった。


「そこまで」

 とても、凍えるような声音だった。

 幼馴染とは言え、ここまで冷たい声を、聞いたことがないククリたち。

 聖たちも、沖田の声に、身体が震えてしまっていた。


「どうやって……」

 辛うじて、リーダー格の男が、声を絞り出した。

「邪魔な人は、排除しましたよ」

 愛嬌たっぷりに、微笑んでみせる沖田。

 先ほどまでの無表情とは、違っていたのである。

「「「「……」」」」


 唐突な登場に、見知っているリズたちも、回復できない。

「排除って……」

 信じられないものを見るような双眸だ。

 実際に、信じられなかったのである。

 彼らが雇った人間は、屈強の男たちで知られている、裏の世界で暗躍している者たちだったからだ。


 愕然とした表情を、覗かせている。

 リーダー格の男の背後にいた一人の女が、ようやく沖田の正体に気づく。

「あ……」

 眼光を見開き、微笑んでいる沖田を見入っている。

「知っているのか?」

 振り向くことをせず、問い質した。

 異様な沖田の雰囲気を、肌で感じていたのだ。


「……沖田……」

 最後まで、言葉を発せられない。

 現実に、目の前にいるのかと。


「正解」

 ニコッと、微笑む。

 誰もが、眉を潜めていた。

 沖田と口に出しただけで、巷で、最年少でS級ライセンスを合格した、沖田だと言うことを、誰もが認識したのだった。

 さらに、信じられないと言う眼差しを、注いでくる狩り側の面々。


 業を煮やした団長の側近の男が動く。

 沖田の視線は、ずっと狩り側の者を捉えていたから、隙を狙って、足が動いたのだった。

 襲い掛かる男を、有無を言わず、そして、顔を傾けることなく、一撃で仕留める。

 早業で、何をしたのか見えない。

「……何をした?」

 リーダー格の男が、愕然としながらも、口に出した。

 団長は、突然の出来事に、言葉にならない。


「別に。襲い掛かってきたから、斬り捨てたまでだよ」

 無邪気な笑顔を添えていた。

「「「「……」」」」

 冷静さを取り戻しつつある、リーダー格の男が、物凄い形相で睨んでくる。

 飄々と、口角を上げているだけだった。

 危機を感じたのか、沖田目掛け、銃を構えている狩り側の面々だ。


 銃口を向けられているはずなのに、表情が変わらない。

 そうしたやり取りの中で、細心の注意を払い、密かに動いていたのは、何度も危機を乗り越えてきたリキだった。

 無言のまま、視線だけで合図を送り、少しずつ、狩り側との距離を開けていったのである。


 突如、この状況で、拍手が起こっていた。

 沖田以外の誰もが、その相手を見定める。

 上機嫌な芹沢が、拍手を叩きながら、沖田たちに近づいていった。

 以前、あった時のように、制服ではなく、ロングコートを着たラフな格好だ。


「さすがだな」

「ありがとうございます」

 顔を傾けなくても、気配で、芹沢だと判断したのだった。

「来ていたのか」

「はい」

 チラリと、フリーズしているリキに、目を傾ける。

 ふっくらとしたピンク色した頬が、上気していた。


「いい部下、見つけたな」

「えぇ」

 場違いな会話をしている二人を、誰もが、窺っている。

 芹沢の視線が、倒されている男の遺体に移っていた。

「偽装するのが、厄介だな」


 音が鳴らない銃で、何度も、息の根がない男に、何発も打ち込む。

 遺体が、見るも無残なものへと、変貌していく。

 ほのぼのとする二人のやり取りに、呆気に取られ、誰も動けない。


「それと、周りで警護している者を、手を緩めず、仕留めろ」

「すいません。面倒だったものですから」

 テへと、沖田が可愛く笑ってみせた。

 近くにいた者しか、倒していなかったのだ。

 どうせ、こちらに来るだろうと、安易に巡らせていたのだった。


「もしかして?」

「ああ。きっちりと、始末しといた」

「ありがとうございます」

 真摯に礼を述べているが、芹沢に対し、警戒を解いた訳ではない。

 敵になるか、味方になるか、不明だったからだ。


「ところで、変われ」

 不敵な顔を滲ませ、芹沢が引くように命じた。

 顔色からして、相当な酒を飲んでいることを把握している。

 不意に、沖田が僅かに首を傾げていた。

「大丈夫ですか? かなり飲んでいるようですが?」

「これぐらい平気だ。暴れる前の景気付けだ」


 ふてぶてしい振舞いに、苦笑している。

「わかりました。あのことは、お任せします」

 あっさりと引いた。

「ああ。機嫌がいいうちに、俺の前から、姿を消せ。そうじゃなければ、すべて消す」

「……。了解しました」

 じっと、芹沢を窺っている沖田。


「……何だ?」

「いつも、こんなことをしているんですか?」

 ふと、思ったことを、口に出していた。

「ああ」

「何で?」

「俺より、悪さをするやつが、気に入らないからな」

「……」


「俺自身、真っ当だと思っていない。相当な悪さをしていると、自負している。だが、俺にも、境界線があってな。それより以下のクズが、許せないだけだ」

「なるほど」

「わかったか?」

「はい」

 ニコッと、笑顔を携えた。


「わかったなら、さっさとそいつら連れ、どこかへ行け」

「そうします」

 ようやく、沖田が視線を、当惑しているリキたちに戻した。

「この場を、さっさと離れよう」

「いいのか?」

 これまで黙っていたククリが、訝しげながら口を開いた。


「うん。後は、任せておけば大丈夫。邪魔にならないように、行こう」

 和やかな雰囲気を飲み込めず、呆然としていた狩り側の者や、団長たちが回復していった。

 バカにされた感で、持っている矜持が、さらに刺激される。

 狩り側の服装は、かなりの高級品だった。

 そういったものを身につけられるのは、身分の高いものたちだ。

 彼らの高い矜持を、悉く沖田と芹沢が傷つけていたのだった。


「逃がすと、思うのか?」

 立ち止まらないで、行くよと、声をかける沖田や、困惑している面々に、銃口を傾けようとしていた。

 けれど、ゆっくりとした歩調で、芹沢が彼らに近づいていく。


「お前たちの相手は、俺だ」

「はぁ」

 突然、現れた芹沢の風貌を、上から下、下から上へと眺めていく。

 デップリとした体型に、彼らは、せせら笑っていた。

 当初は、芹沢が遺体を銃で打ち込むところに、萎縮していたが、こんな体型のやつに、負けないと巡らせていたのである。


「今度は、狩る側から、狩られる側だ」

 その間も、沖田は後ろを振り向かず、歩いていった。

「さぁ、パーティーの始まりだ」

 ニタと、芹沢が微笑んでみせた。

 ギリッと歯軋りし、睨みつけ、リーダー格の男は無理やりに口角を持ち上げている。


「泣くのは貴様だ。まず、この男を倒してから、あいつらを仕留めるぞ」

 各々、コクリと頷く。

 そして、団長たちも了承したと、自分たちの武器を、取り出したのだった。

 そうした光景に、芹沢が上気している頬を上げ、歓喜している。


「楽しませてくれよ、少しは」

 不敵な言葉を、楽しげに芹沢が漏らした。

 徐々に、沖田たちの背中が、見えなくなっていたのである。


読んでいただき、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ