表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天翔ける龍のごとく  作者: 香月薫
第3章  自負 後編
56/290

第51話  高杉、報告を受ける

 廃墟ビルの中に作ってある高杉専用の部屋で、部下の桐生からの報告を受けている最中だった。専用部屋は、廃墟ビルの中にあるとは思えないほど、豪勢な造りとなっていたのである。


 綺麗に飾られているインテリアは、すべて高杉の好みに合わせて揃えられたものだった。

 集められた少年少女たちが、ここに出入りすることがない。

 そのため彼らが、この部屋を目にすることがなかったのである。

 ここの部屋に入れるのは、限られた人物だけとなっていたのだ。


「少しは、形になってきたようだな」

 訓練に励んでいる少年少女たちのことを指している。

「はい。思っていた以上に、時間がありましたので」

「何をやっているんだろうね、深泉組は」

 楽しげな高杉の呟きに、静かに耳にしている。


「それとなく、私たちだと言う、証拠を散りばめて置いてあげたのに」

 愉快そうな高杉。

 深泉組が自分たちだと嗅ぎつけ始めたと報告を受けていたのである。


 お気に入りのワインを揺らしていた。

 その顔が悦に入っている。


「どうだ?」

 手にしているワインのグラスを掲げている。

 高杉なりに、部下を労おうとしていたのだ。

「いいえ。私はこの後も仕事がありますので」

「そうか」


 グラスにあるワインが、ゆったりと動いている。

 それを楽しそうに眺めていたのだった。

 ただ、そんなご満悦な高杉を傍観していたのである。


(連日、機嫌がいいようでよかった……)


 安堵感が顔に滲んでいたのだった。

 このところ心乱れることが続いていたので、身体の弱い高杉を気遣っていたのだ。

 機嫌を損ねたり、癇癪を起こすたびに、桐生たちが高杉の身体が大丈夫なのかと冷や冷やしていたのである。


「暇を持て余しているようだから、遊んであげようと思っているのに。せっかく勤皇一派の高杉真朔自身が出てきてあげているのな」

 タイミングよく相槌を打つ。

 ますます高杉が高揚していった。


「深泉組は、何をやっているんだろうな、ま、落ちこぼれ集団だから、しょうがないのかな。僕が乗り出してあげているんだから、楽しませてほしいものだ」

 お粗末な、深泉組の後手後手の行動に失笑していた。

 思っていた以上に、深泉組の動きが鈍く、沖田が無能に思えたからだ。


(やはり、私の方が優れているな。きっと、S級ラインセンも何かの間違いだろう。そうだ、あの綺麗な顔で騙したのだろう……)


 そんな高杉の姿を、無言で眺めていた。

 徐々に、黙っていられなくなる。

「……高杉さん。カリスマ性が欠きます。その笑いは控えていただければ……」

 尻下がりで、声音が沈んでいった。


 失笑している姿が、どうしてもカリスマ性がある人とは思えなかったのだ。

 苦慮の末、申し訳なさそうに進言したのだった。


「そうか」

 注意を促され、ようやくいつものカリスマ性がある表情に戻った。

 不意に、もう一つ気になることを思い出す。

「そうだ。リキと言う少年は、どうなっている?」


「頑固に、まだ抵抗しています」

 思案を巡らしている顔を覗かせる。

 口を硬く結び、待ち続ける桐生。


「他は、落ちたのだろう?」

「はい。死んだ者もいますが、リキ以外は落ちています」

 現状を包み隠さず伝えた。

 しぶとくリキ一人だけが、抵抗し続けていたのである。


「あれだけ、薬の量が違ったのか?」

「それは、ありえません」

「では、なぜだ?」

 納得いかない顔を浮かび上がらせていた。


「申し訳ありません。皆目見当もつきません」

 真摯に頭を下げるが、桐生の顔はどこか悔しげだ。

 抵抗するリキに、他の者より多くの薬を打ったにもかかわらず、落ちるどころか、死なずにいたのである。このことは高杉に伏せ、桐生自身が独断でしたことだった。


 忌々しげに、口を結んでいる。

 だが、その仕草に高杉が気づかない。

 いい回答を聞けないことに、消化不良と言う顔を滲ませていたのだ。


「リキを、私の元に置きたい」

 まっすぐ視線の先を、やや伏せていた桐生に傾ける。

「私が、至らないばかりに」

 恐縮している桐生。


「言い訳はいい。できれば、早急に」

「善処します」

「使えなくは、するなよ」

 脳裏に薬の量を倍にして、投与しようかと巡らせていたのである。

 それが瞬く間に高杉の言葉によって、打ち消されてしまった。


「……勿論、承知しています」

「それなら、いいが」

「はい。……随分とリキが気に入った、ご様子ですが?」

 俯き加減の姿勢のままで、高杉の様子を窺う。

 どこか、うっとりしている顔をしていたのだ。


「ああ。あの意志の強い目が気に入った。だから、私の手元に置いて、使いたい。絶対にあれはものになる」

 自信に満ちた声音だった。

 目を細め、リキを処罰小屋で見た光景を、高杉が思い返していたのである。

 気づかれないように桐生が歯軋りした。


(あの少年のどこに、高杉さんは惹かれるんだ。ただの強情なガキを)


 思考を飛ばしていたので、桐生の表情を読むことができない。

「ほしいものだ……」

 気持ちのまま、吐露した。

 リキのことを高く評価している高杉。

 できれば配下の一人として加えたいと抱いていたのである。

 そんな高杉の思惑に、嫉妬を燃やしていたのだった。


「どうにか、できないか?」

 リキを落とすために策がないかと打診をされたが、桐生自身は決して入れたくはない。

 けれど、そんなことを言えば、不審を抱かれ、傍にいられなくなるのは確実なので、妥協して思案を巡らせる。


「薬を増やすことはできないかと。これ以上増やせば、使えなくなる可能性も出てきます」

 内心では、増やせと命じてほしいと抱く。

 そうすれば、死が近づくからである。


「……それは困る」

 上手く行かぬ様子に、歯痒くなる高杉だった。

「でしたら、このまま様子を見るしかないかと」

「そうか……」

 よい案が出ずに、顔を渋面させた。


「よろしいでしょうか?」

「何だ?」

「ここまで来て、落ちないとなると、私は無理かと思います」

 諦めきれない顔を覗かせていた。

 そんな仕草をさせるリキに、ますます嫉妬の渦を大きくしていく。


「……わかった。このまま様子を見よう」

 残念だと滲ませながら、口を開いた。

「……承知しました」

 視線の先を、桐生に傾ける。


「ところで。武市さんの件は、どうなった?」

 戻らせていた勤皇一派の内情を問い質したのである。

 武市の処分が、どうなっているのかも気になっていたが、内情がどれぐらい騒がしくなっているのかも気になっていたのだ。

 武市と坂本の件は、すでに高杉の耳にも入っていた。


「二人とも、処分なしと言うことです」

「随分と、甘い処分だな。何もないのか?」

「はい。何もありません」


(西郷さんも、地に落ちたものだな。処分が一切ないなんて。これでは周りに示しがつかないじゃないか。何を考えているやら……)


 何かしらの軽い処分が、二人に下るものだと信じていたのである。

 拍子抜けが酷く、なぜか小さく笑みが漏れていた。

 そんな姿を黙ったまま、桐生が静観している。


「騒動を起こした二人の様子は?」

「武市さんは、おとなしくしているようです。坂本さんは、いつものように仕事を放り投げ、部下を撒いて飲み回っているようです」

「坂本さんは、変わらないな」

「はい」


「ただ、武市さんが……」

 段々と、険しく目を細めている高杉。

 強硬派の武市が、おとなしくなっているとは思えない。


「……本当に、おとなしくしているのか?」

「岩倉殿が用意した場所から、動いていません」

「あの人にしたら、珍しいな」

 呟きを耳にした桐生も、内心同意していた。


(信念を曲げずに突き進む人が……)


 きちんと再確認も行ったのである。

 チラリと、桐生を眺める。


「一歩も、出ていないのか?」

「はい。そう報告を受けています。勿論、念のための確認も行いました」

「そうか……。動いていないか。動いていなくても、何かしら、種を撒いている可能性もあると……見るべきかもしれない」

「そう思いましたので、慎重に調べるように、命じておきました」

「それでいい」


 痒いところまで気が効く部下を、さすがと言う顔を覗かせた。

 満足している表情を垣間見、ニヤリと笑みが零れていたのだ。


 ワインの香りを味わってから、高杉が口を開く。

「周囲の反応は?」

「坂本さんを慕う部下たち、特に沢村が坂本さんの仕事を片づけているようです。それに、姿を消す坂本さんの居場所を突き止めようと、躍起になっているみたいです」

「ご苦労なことだな」


「はい。そのように思います。他の者たちは、誰も触れないようにしているようです。たぶんですが、西郷さん辺りが、緘口令を敷いたのではないでしょうか」

「だろうな。西郷さんが騒ぎを立てないように、押さえ込んだのだろうな。西郷さんは、そういうのが得意だからな」


 チーズを口の中に入れる。

 ワインと合わせって、口の中で芳醇な風味が広がっていく。

 ゆっくりと咀嚼し、飲み込んだ。


「できれば、深泉組の半分以上をなくしたいと思っているが、可能か?」

「はい。今の人数から考えれば、深泉組を倒すこともできるかと」

 その表情に、揺るぎない自信が溢れている。

「そうか」

 満足いく答えが聞け、不敵な笑みを漏らしていた。


 深泉組の半分以上の力をそぎ取ろうと画策し、そのために人数も集めていたのだった。

 切り捨て要員だ。

 自分が描くシナリオ以上に、ことが進んでいく様子に、嬉しくってしょうがない。


「デザートが食べたくなった」

「そのように」


 そこへ、高杉の元に無線が入る。

 その無線に出ると……。

「わかった」

 短く返事をしてから、無線を切った。

 意識を桐生に注ぐ。


「桐生。草太を呼んでくれ」

「承知しました」


読んでいただき、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ