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天翔ける龍のごとく  作者: 香月薫
第2章  自負 前編
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第27話  行方不明者が広がる

 報告書も終わろうとした時、ジュジュが沖田に声をかける。

 その手に無線を持っていたのだ。

「沖田さん。面会したいって言う子供が来ているそうです。どうしますか?」

 追い返すか、どうか尋ねたのである。


 深泉組に所属して以来、沖田目当てで訪ねてくる女の子が頻繁で、耐えなかった。その結果、面会せずに、追い返すことを繰り返していたのである。

 けれど、沖田が立ち上がり、外に出ようとしていた。


「今、行きますと、伝えてください」

「行くのですか。女たちが、姑息な手を使ったかもしれませんよ?」

「勘ですが、そんなことないと思います」

「……そうですか。わかりました」

「では、ちょっと出かけてきます」


 あっという間に、待機部屋からいなくなってしまった。

 どういうかかわりがある?と、土方が尋ねるよりも早くいなくなった。

「……」

 訝しげに、沖田が消えた扉を睨んでいる。


「子供……」

「沖田が住んでいる子供たちではないかと思います。どうも、子供たちに好かれているようで、何度か見かけて、私たちとも話したことがあります」

 当惑している土方に向かって、珍しく斉藤が状況説明を行った。

 長文をしゃべっていると、ノールと保科が仰天している。


「そうか」

 斉藤の顔を見ずに、心ここにあらずと言った返事を返した。


(子供に懐かれているのか。ソージ自身、子供と一緒のところがあるからな。しかし、何か、いやな予感がするな。……ソージのやつも同じことを思ったから、あんなに早く行ったのだろうな。ただの杞憂に終わればいいが……)


 書き仕損じた紙を、きちんと折り畳んで、斉藤が下のゴミ箱に捨てながら話を続ける。

「心配ですか?」

「……いや。沖田に伝えてくれ、出て行く時は、きちんと報告してから出掛けるようにと」

「わかりました」




 警邏軍のビルを出て、沖田がキョロキョロと周囲を見渡す。

 すると、噴水のところで、腰掛けている光之助たちの姿を捉えた。

 それぞれの顔を窺うと、いつものはしゃぎぶりはなりを潜め、心痛な面持ちで沈んでいる。


(……あれ? 草太がいない。もしかして、草太のことか?)


 急ぎ足で、光之助たちのところへ駆けつけた。

「光之助」

 沖田の声に、それぞれ沈んでいた顔を一斉に上げた。

 強張っていた顔が緩んでいる。


「ソージ兄ちゃん。こっち」

「こっちだよ」

「早く」

「遅いよ」

 大きく手を振って、葵たちが呼び寄せている。


 光之助たちのところで立ち止まって、どうしたの?と声をかける前に、光之助の方が先に口を開く。

「ソージ兄ちゃん。草太がいなくなった」

「草太が?」

「そうなの。捜してもいないの」

 心配している瑞希が割り込んだ。


 次から次へと、子供たちが話しかけてくるので、収拾がつかない。

 沖田がやれやれと肩を竦めてしまう。


(光之助たちも、どうしたらいいのか、持て余しているのはわかるけど。どうしたものかな……。ある程度まで落ち着くまで話させるか……。でも、時間がそんなにないだろうな。きっと、兄さん当たりが、怒っているだろうし……)


「光之助。僕にわかるように詳しく説明して」

 リーダーの光之助に説明を求めた。

 指名された光之助は目が泳ぎ、どう話せばいいのか戸惑っている。

 草太がいないことだけ考えていて、話をまとめていなかったのだ。


 光之助に成り代わり、落ち着きが戻った葵が前に出てきた。

「私が話す」

 頼むと、頷く光之助。


「草太がいなくなったことに気づいたのが、一週間前。それまで草太、私たちのところに、来ない時もあったけれど、五日も六日も来ないことがなかったから、心配で家にいってみたの。そうしたら、ずっと帰ってこないって、おじさんが言っていたの」


「……ずっと捜していたの?」

 力強く、うんと葵が頷いた。

 打ち明ける前に光之助たちだけで、草太の行方を隈なく捜し回っていたのである。

 それでも見つからなかったから、沖田のところに来たのだった。


「で、見つからなかった」

「うん。おかしいよね? ソージ兄ちゃん」

 訴えかけるような葵の眼差しに、ことが深刻であることを悟る。それに葵の手も、瑞希の手も、高志の手も震えていたのである。そして、光之助と亮は、青ざめているみんなを気にかけていた。


 沖田の予想を、子供たちも感じ取っているようで黙っている。

 巷では原因不明の行方不明が続出している情報が、深泉組にも入っていたのである。


 行方不明者は、みんなバラバラで特徴が一切ない。

 身分の高い子息息女や、中流家庭の子どもたち、貧困に喘ぐ子供たちと何一つとして、つながりがなかったのだ。

 その事件に、銃器組が携わっており、躍起になって情報を血眼になって集めているさなかだった。行方不明者が多く、いっこうに進展が見られない状況が続いていた。


 草太を捜している上で、そういった情報も、光之助たちの耳に届いていたのだ。

 不安で打ちひしがれている葵と瑞希の頭を撫でる。

 今にも泣きそうな二人が、微笑んでいる沖田を見上げた。


「草太を、仕事の合間にも捜してみるよ」

「ホント」

 貧困の子供が行方不明となっても、銃器組が動いてくれないのは、子供でも承知していた。だから、最後に沖田に頼ったのだった。


「ホントだよ」

 いつもの笑顔を、心配顔の子供たちに振りまく。

 持っていたキャンデーを、光之助たちに一個ずつ渡した。


「これ舐めて、落ち着こう」

「「うん……」」

 完全に不安が拭えないが、話したことで気持ちが徐々に落ち着き、葵と瑞希が素直に頷いた。


「俺たちも、捜す」

 決意を新たにした目を、光之助は宿している。

 それにつられるように、亮も賛同していった。

 すると、沖田が首を横に振って、ダメだと促す。


「どうして!」

「危ないから」

「大丈夫。俺が、みんなを危険から遠ざけるようにするから」

 このグループのリーダーとして、自覚がある光之助が主張する。


「そんなことをしちゃ、ダメだ」

「ソージ兄ちゃん!」

「光之助。これは危険だ。ここで手を引くんだ」

「……」

「いつもの情報集めとは、訳が違う」

「……」


 唇を噛み締め、光之助が苦渋の顔をみせる。

 光之助自身、みんなを巻き込むのは、よくないとわかっているのだ。

 それでも、諦めたくない気持ちもあった。

 優しく、光之助を説き伏せる。

「亮、葵、高志、瑞希に何かあったら、どうする?」

「……」


「僕に任せて、待ってて。みんなもいいね」

「「「「……うん」」」」

 弱々しく、亮たちが了承した。

「光之助」

 諭すように声をかけた。

「……わかった」


「光之助、亮。寄り道せずに、葵たちを家まで送っていくんだよ。そして、送ったら、まっすぐに、自分たちの家に帰ること。いいね」

「わかった」

「うん」

 返事をした二人に、よくできましたと肩をぽんと叩く。

「頼んだよ」


 光之助たちの姿が見えなくなるまで、その場で見送っていたのである。

 その間、光之助は何度か振り向いたが、そのたびに首を横に振って諦めさせた。




 警邏軍のビルに入っていくと、前から芹沢と新見、それに芹沢たちを警護している数人の隊員の顔を見つける。

 向こうも沖田の存在に気づいたようで、豪快に笑って近づいていった。

「沖田。外回りから帰ってきたのか?」

「いいえ」

 子供たちに、呼び出された話を語った。


「行方不明な……」

 どこか考える素振りをみせる芹沢。

「何か、いい情報でもありますか」

 首を少し傾げ、情報を求めている沖田に、愉快そうな視線を注ぐ。


「いつの時代も、子供とは、便利なものだからな」

「……」

「それよりも、今度、昼メシでもどうだ?」

「喜んで、ご馳走になります」


「そうか。ところで、今日の夜勤は、誰になった?」

「近藤隊長と、斉藤班が務めます」

 妥当の人選だなとニヤリと笑う。

 自分が想像していたメンバーだったからだ。


「では、戻ります」

「じゃな、沖田」

 新見たちにも軽く頭を下げ、待機部屋へ戻っていった。


 芹沢は沖田の背中を、ただ面白げに眺めている。

 その背中からも感じるただならぬオーラに、これからも伸びていくのをヒシヒシと感じ取っていたのだ。


(将来が楽しみだな。将来……いや、近い未来と言った方がいいかも知れぬな)


「随分と、気に入っていますね。芹沢さん、こちらに芽生えたのですか?」

 茶化してくる新見に、豪快に否定する。

「ハハハ、俺は女好きだ。死んでも、男はごめんだ」

「そうですか」


「沖田を、人として面白いと思わんか? あんなやつ、見たことがない。ゾクッとするような、あの目」

「私には、わかりませんね」

 どこが面白いのかと、新見が巡らせていた。


(面白みがないやつだ。どう言えば、俺のご機嫌を取れるか、考えていることだろうな。それにしても、こいつの頭の中は、幼い男の子しかないのだからな)


 冷たい眼差しで、考えに耽っている新見を捉えている。

 芹沢の方が千両役者だった。

 新見の考えは、手に取るように読めるからだ。

 でも、そんな新見との関係を切ることはしない。

 バカなコマでも、使い方によっては、面白いと思っているからである。


「後、三、四歳若ければ……。おしいですね」

 残念そうな新見が、沖田の尻を見ながら呟いていた。

 沖田の顔は新見好みの顔をしていたのである。けれども、もう少し幼さを残している方がいいと思いながら、残念でしょうがなかった。


「あいつに手を出したら、これだぞ」

 持っている大きめな派手な扇子を剣代わりにし、新見の右肩から左腹部にかけて切ってみせた。

 芹沢の眼光が、妖しげに光っている。

 新見の背中は、ゾクリとする悪寒が駆け巡っていた。


「行くか。新見」

「……えぇ」

 鷹揚な芹沢たちは道楽しに、嶋原へと向かっていった。



読んでいただき、ありがとうございます。

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