第23話 無邪気に突進していく沖田
深泉組専用の休憩室に、近藤が行くと、室内に拳銃の手入れをしている沖田しかいない。
事務的な仕事に追われ、溜まっている疲れを癒そうとしていたのだ。
いつもだったら、賑わっているはずなのにと苦笑してしまう。
「一人か」
「はい」
携帯している拳銃の手入れをしている音が、室内に響いている。
美しいと言っていい程の器用さの上、迷いのない手早さに、見惚れ、感嘆の声が出てしまうほどだ。
「凄いな」
「そうでもないですよ」
話しながらでも、その手が止まらない。
尋常ではない素早さで解体し、掃除し、組み立てていく。
鮮やかで、しかも綺麗な、無駄のない動きに、凝視せずに入られなかった。
拳銃の手入れや、調整は難しく、隊員の多くは、修理部にお願いをしてやって貰っている。
修理部は、それぞれが使う武器の修理や調整などをしている部署だ。
改めて、沖田の大物振りを見たような気がしていた。
「仕事ですか?」
組み立てが終わり、最終確認をしてから、入口で立っている近藤に声をかけた。いっこうに室内に入らないので、仕事なのかと勘違いしたのだった。
「いや」
小さく首を傾げている姿が可愛らしく、とても屈強な男たちを倒していく、人間にはみえなかった。沖田の報告書や、他の者の報告書の内容、稽古をした時の腕前で、実際に見ていなくても、沖田がどれだけ凄いかと言うことが、ある程度把握できたのである。
(愛らしい顔と、次々と敵を倒していく腕前が、ここまで合っていない人間もいないな)
「邪魔か?」
「いえ。どうぞ、こちらに」
「では、そうさせて貰おう」
テーブルを挟んで、沖田の正面に腰掛けると、手馴れている様子で、休憩室にある自販機で、二人分の飲み物を用意する。そして、近藤の前に、缶コーヒーを置いた。
「少し、甘めのコーヒーです。事務作業でお疲れでしょうから」
「ありがとう」
貰ったコーヒーを飲んで、ひと息ついた。
「上に立つと、事務作業が多くって、大変ですね」
「そうだな。でも、そのうち沖田も、こういう作業が多くなっていくのではないか?」
物凄く面倒臭いと言う顔を、前面に出している。
そんな子供っぽい仕草に、笑みが零れた。
「階級的には、やって貰うのだがな」
「だから、少尉の階級は、いいですって、何度も断ったんです。それなのに、上の人たちが、どうしてもって言うから……。いやだな」
その目からも、まったく少尉と言う階級を喜んでいない。
本音としては、面倒を押し付けられたと言う認識しかなかった。
「普通、のどから手が出るほど、ほしいと思うのだがな?」
「そうですか。何かいろいろと面倒なことが多そうで、いやだったのに……。僕はほしくないですね、それに興味もあまりないですし……」
素直な気持ちを吐露した。
今から返上できるなら、すぐにでも返上したいぐらいだった。
(S級ライセンスだけでも、大げさなのに。それなのに、少尉なんて面倒なだけなのにな。ま、多少は役に立つこともあるけど。でも、面倒な割合の方が大きいよな。何か、みんな引いてるっぽいし……。もっと、楽しく、みんなとやりたいのに……)
「だったら、なぜ? S級ライセンスを受けた? 大体、S級ライセンスと、階級はセットのようなものだろう」
S級ライセンスに合格すれば、自動的に少尉と言う階級を貰えたのである。
そのことを知らなかっただけだ。
「そうですね……、上の人たちから、ゴチャゴチャ言われないためですね。どうしても、深泉組に入りたかったものですから。それに、上の人たちから言われるのが、面倒じゃありませんか? それに試しに受けてみたら、受かっちゃいまして。今にして思えば、受けなければ、よかったかもです」
不貞腐れ、僅かに口を尖らせる沖田。
「……。一応、私も上司で、上の者なのだが」
「失礼しました」
素直に自分の失言を謝ったが、考えを改めるつもりはないようだった。
(ちゃんと、考えて行動しないと、ダメだな……。どうも、兄さんと違って、考えなしに、行動しちゃうからな。兄さんにも、よく言われるし、よく物事を考えてから動けって。でも、そういうのって、結構、面倒で、ついつい、その場の勢いで、行っちゃうだよね)
「いい。聞いたのは私だ。沖田はホント、面白いやつだな」
「面白いですか」
「ああ」
「ありがとうございます。近藤隊長」
にこやかな礼を返した。
礼を言われるものではないのだが?と巡らせ、やれやれ今後が思いやられるかなと思いながら、別な話題を降る。
「いつ、拳銃の手入れや、調整を学んだ? 私も自分で手入れも、調整もするが、沖田ほどはできない。あれだけ鮮やかだと、相当前から、している気がするのだが?」
近藤の目から見ても、熟練度が高かった。
「お褒めの言葉、光栄です。子供の頃からですかね……」
何でもないような感じで、父親が持っている本で学び、父親が所持していた拳銃をいじって遊んでいたことを話したのである。
眉間を寄せ、何とも言えぬ近藤の顔に、小さく笑ってしまう。
(そんな驚くような、話でもない気がするけどな。地方だと、結構当たり前の話じゃないかな。みんな、親の目を盗んで、やっていたんだけど)
「研究熱心な父ですので、子供は放任なんで」
「いくら何でも……」
渋い表情が取れない。
「子供が、いじるものではないだろう」
「研究に没頭しちゃうと、周囲が見えなくなっちゃうんですよね」
「……親としては……」
「いるんですよね。ですけど、愛情は父なりにありますよ、言っておきますけど」
まだ沖田の言葉に、納得できない近藤。
「わからないところがあれば、きちんと教えてくれますし……。ただ、時間の感覚が欠けているのでしょうか、食事なんかしないで、研究していることもありましたね。その時は、簡単に食べられるパンを、研究に没頭している父に、渡したりしてましたね」
昔を回想しながら、父親のことを語っていた。
「変わった父親だな」
率直な感想を漏らしてしまった。
「そうですね。子供の僕が言うのも、変ですが、とても、変わっていると思います」
「沖田は、父似なのか」
何気ない近藤の一言に、目をパチパチさせた。
「父似って、初めて言われました」
「そうなのか」
今度は意外だと言う顔を、近藤が滲ませる。
近藤から見れば、沖田は父似でしかなかった。
「えぇ。とても新鮮です」
(父似って言われるの、兄さんだったからな。初めて、僕が父似って言われた。なんか、新鮮で嬉しいな)
今までないぐらいに、頬が緩い表情に、目を見張る。
沖田のツボになるようなことでも言ったのかと首を傾げるが、見当がつかない。
「研究者と言うことは、頭だっていいのだろう? 本を見て、拳銃の手入れや、調整を理解できる沖田の頭も凄い。そうしたところも、父親譲りではないのか」
「……そうなんでしょうか? 僕自身、各地方を転々としていたので、出かける場所も、あまりなかったので、家で過ごすことも多く、本やネットなどで、時間を潰していただけですけど……」
学校にも塾にも行かずに、家だけの勉強だけで、S級ライセンスに合格した沖田に、言葉が出てこない。
学校だけでは足りずに、専用の塾に通ったりして、苦労している人間を何人も見てきたからだ。
それにまったく自覚のない沖田に、嫉妬を通り越して、呆れてしまう。
(頭の造りが違うのか? どうしたら、こういう子ができるんだ? S級ライセンスの話は、ここまでにするか、何か、空しくなるからな)
「知っているか? 隊員たちの多くが、手入れや調整を、修理部にお願いしているのを」
「そうなんですか」
(そう言えば、井上さんが案内してくれた時に、言っていたな。修理部の人たちは、優秀な方々ですって)
「原田や永倉は、しょっちゅう壊すから、修理部から苦情が入っている状態だ」
原田班や永倉班は、他の班と比べると、尋常ではないぐらいに壊したりするので、他の班よりも、頻繁に修理部に出すことが多かったのである。
「それは大変そうですね」
「私と、土方が平謝りをしている」
「ご苦労様です」
簡単に、想像できる光景に苦労を労う。
たびたび修理部に足を運ぶので、修理部の者たちの名前と何を得意としているのかを、すべて憶えてしまうほどだ。
「そろそろ、ここにも慣れたか?」
「はい。みなさん、とても優しくしてくれます。それに楽しいですし……」
「楽しいか……。ま、いろいろと、うちにはあるからな」
近藤が遠い目をしていた。
深泉組に、いろいろな人材が揃っていたのである。
問題児の巣窟とも言えたのだ。
「以前も言いましたが、都にきたばかりの頃、近藤隊長や、土方副隊長のことを見かけたことがあるんです。その際に、この人たちの下で、働きたいなと思いまして。だから、深泉組を希望したんです。山南伍長辺りには、僕のこと、スパイではないかって疑っているようですが」
怒りもせずに、苦笑する沖田。
常に山南の視線を感じ、山南が自分のことを窺っていることを察していたのである。
やはり、その優れた洞察力で、察知していたかと苦笑していた。
「違うと、言ったんだがな」
「気にしていません」
「そうか」
「えぇ。芹沢隊長は、すぐに疑いを解かれたようですが」
山南の視線を見抜いたのだから、芹沢のことも見抜かない訳がない。
これまでは、めったなことがない限りは、待機部屋に芹沢たちが、訪れることがなかったが、沖田が深泉組に所属してからは、何度となく足を運んでいた。
芹沢の気持ちもわからなくはない近藤だったが、芹沢と沖田の間に、何か起こらないかと気が気ではなかった。それに芹沢たちが、深泉組に来るたびに、外で問題が起こらないので、安堵している気持ちもあったのだ。
「芹沢隊長は、少し変わったところもあるが、いい人だ。だが、気をつけろ。あの人は機嫌一つで、自分の部下でも、斬り捨ててしまう人だ」
あまり油断すると、手痛い目に会うと忠告した。
その時の気分一つで、コロコロと変わってしまうのを、この目で見てきたからだ。
「助言、ありがとうございます」
「沖田のことだ、大丈夫だと思うが。くれぐれも刺激するのは寄せ」
「はい」
沖田の内に秘めた強かさを感じ、念のために注意をしたのである。
沖田の腕前で、あっさりと芹沢に負けるとは思ってはいない。
だが、共倒れが考えられた。
優秀な人材を失う訳にはいかなかったのだ。
「剣術は誰に教わったんだ。本だけではできまい」
つい最近、沖田に稽古をつけたばかりだった。
軽やかな剣捌き、力強い剣捌き、変幻自在に剣の動きが変化していたのである。
沖田の剣に、鬼気迫る気迫を感じていた。
隊員全員と、稽古をつけたことがあるが、深泉組、警邏軍の中でも、ずば抜けて剣の腕前を持っていたのだ。
久しぶりに、ヒヤリとする最後の一打を思い返す。
(あれは凄かった。やられると思わせる一打だった……。実戦だったら、相打ちで死んでいたかもな)
手入れ道具をしまいながら、沖田が質問に答える。
「友人です」
「友人?」
意外な返答に、首を傾げる。
どこかの師匠のところで、学んだと踏んでいたからだ。
「えぇ。それに父の仕事の都合で、地方を転々としていたので、各地の道場にも、少し通いました。そのせいもあって、僕の剣って、メチャクチャなんですよ」
「確かに、それは言えるな。どの流派にも似ていて、似てない」
納得した顔を覗かせる。
「話が変わりますけど、近藤隊長の柄って、普通のものより、太いですよね。もしかして、重量もありますか? ずっと気になっていたんですよね」
各自所持している武器は、通常は柄の部分だけとなっている。戦闘になれば、スイッチを入れ、柄の先からレーザーが出て、切れ味優れた剣に変わるのだ。
柄の重さや太さ、レーザーの長さまで、個人それぞれにカスタムできるのである。
何気に近藤が脇に提げている柄を取り出した。
年季が入っているので、ボロボロだったが、丁寧に手入れをしているのが見て取れる。
太さは普通の柄に比べ長かった。
女性はたいてい普通のものを使用したり、コンパクトなものを、使用する傾向が高かった。
そのために、使っているものが気になっていたのだ。
(女性の腕で、あれをどうやって使いこなしているのだろう)
近藤から柄を受け取った。
「重い。普通のものより、二、三倍ありますよね」
「正解だ。三倍だ」
「稽古用よりも、重いですね。これを使って、戦っているのですか?」
目を丸くし、驚愕している顔を近藤にみせる。
(この重量感あるものを使って、僕と稽古していたのか……。凄いな、ますます面白くって、楽しいことが起こりそうだな)
尊敬の眼差しを傾けた。
「これが私に一番しっくりくる。だから、使っている」
愛着ある視線で、沖田が持っている自分の柄を眺めている。
持っていた柄を近藤に返した。
受け取った近藤が、軽く柄を振って、感触を確かめる。
軽々振っている仕草に、三倍ある柄とは到底思えない。
(んー、どう見ても、これが重いなんて誰も思わないだろうな。あんなに軽々振っているところ見ると。近藤隊長はどうして……)
「近藤隊長の方が、凄いと思いますよ」
振っていた動きを止め、愛嬌ある沖田に視線を注ぐ。
「女性で初めて、特殊組に配属されたではないですか?」
昔の話を持ち出され、視線が細くなり、不快感を滲ませる。
思い出したくない過去の一つだった。
近藤は女性で初めて、特殊組二番隊に配属なり、華々しいエリート街道を歩むはずだった。それがしばらくしてから、どういう訳か、深泉組に配属となったのだ。
それでもお構いなしに、沖田が話を続ける。
「凄い出世ですよね。S級ライセンスもなしに。僕なんかよりも、凄いと思いますよ」
「誰から聞いた?」
鬼のような形相にも、沖田は恐れる様子もみせない。
飄々と、楽しげに話しているだけだ。
(近藤隊長、ムッとしているな。でも、興味があるんだよね。出世していた人が、なぜ、堕ちたのか。あれだけ優秀で、仲間や部下たちから評判も悪くなかったのに。それがどうして? 深泉組に左遷されたのか)
「聞いてません。調べただけです。本部のコンピューターにアクセスして見ました。ただ、それ以上のことは、制限が掛かっていて、閲覧できませんでした」
悪びれる素振りもなく、正直に暴露した。
眼光鋭く、無邪気に微笑む沖田を睨む。
「気持ちいいものでは、ないな」
まるで、丸裸にされたようで気分がよくない。
「すいません。少しだけです。土方副隊長は特命組一番隊、斉藤伍長は銃器組五番隊、山南伍長は特殊組四番隊、芹沢隊長は銃器組七番隊から、こちらに配属になったんですね」
近藤、土方、斉藤、山南、芹沢以外の隊員は、警邏軍に入隊した時から深泉組だった。
この情報は、斉藤に本部のコンピューターにアクセスできる話を暴露されてから、近藤以外の情報を見て、知った情報である。
「あまり、よくない行動だ。他人に見られるのは」
嫌悪感を隠せずにいた。
それでも、愛嬌のある表情は変わらなかった。
「すいません。でも、気になっちゃったものですから。そこで聞いてもいいですか。どうして、近藤隊長の情報に、制限が掛かっているのでしょうか?」
ズバズバと、気後れすることなく、突っ込んでいく。
その神経の太さに、感服してしまうが、譲れない一線があった。
「……知らん。そんなものは、上が勝手に決めるものだ」
「そうですか。移動理由って、何だったんですか? 制限が掛かって、見られなかったものですから」
近藤の情報に制限が掛かっていて、少尉でS級ライセンスを持っている沖田でさえ、閲覧することができたかったのである。
近藤の秘密が気になって、好奇心が強い沖田は止まらない。
どう足掻いても、覗けず、これは直接本人に聞くしかないと思っていたのだ。
その絶好のタイミングが訪れ、これを逃す訳がなかった。
「知らん。上からの命令で、移動したまでだ。上の命令に従うのは、下の者として当然だろう」
「そうですね」
先ほどまでの内に秘めた鋭さは、なりを潜めた。
追求したいと言うオーラを、放っていたのだ。
変わり身の早さに、近藤は当惑を隠せない。
「ところで、隊長も地方から来たのですか」
(あれ以上は無理か。残念。まだ来たばかりだし、心証を悪くするのも避けたいし……。せっかくのチャンス、残念)
警戒しながらも、近藤が答えていく。
「……ああ。私よりも、最近までいた沖田の方が知っているのではないか」
近藤は十代の半ばぐらいまで、地方で暮らし、それ以降プライベートで地方に戻ることがなかった。
ただ、仕事で都の近辺にある地方に、何度か行った程度だ。
「確かに、地方は都と違って、どこも妖魔によって、荒れていますね。近藤隊長がいたところでは、どうでしたか?」
地方が荒れている要因の一つは、妖魔によって、街や村が襲われることだった。都から離れれば、離れているほど、壊滅的な街や村が多かったのである。
「凄い惨劇だったよ」
「そうですか。ご家族は健在で?」
「……いや。実の両親も、その後、引き取って貰った親戚も、また拾ってくれた老夫婦も、すでに亡くなっている」
「大変だったんですね」
「そうでもない。何とかなるものさ」
「都に来て、知ったのですが、ここでは見世物小屋がないんですね」
「……」
そういったことに興味があるのかと、辟易した顔を覗かせる。
見世物小屋とは、妖魔と人間の間に生まれた子供が、見世物となって金を取っている場所だ。妖魔の血が流れている子供は、普通の子供とは違い、それぞれいでたちが異なっていた。
そういった子供は、見世物小屋に売られるか、捕まって見世物として働かされる。そして、普通に迫害される対象となるが、最近は地方に行けば、街や村などで暮らしている者もいた。
妖魔の血が流れている者を、半妖と呼ばれていたのだ。
「取締りが、一番厳しいからな」
「地方だと、結構おおっぴらに出していましたよ」
「そうだな。私のとこもあったよ。ただ、いいものではないな」
「えぇ。確かに。友達がいたので、何度か、隠れて会いにいっていました」
「友達?」
目を丸くし、平然としている沖田の顔を直視した。
先ほどまで抱いていた嫌悪感が、薄れていく。
「結構、見世物小屋にいなくても、地方では普通にいましたから。だから、何人も友達でいましたよ」
どこか、変なところがありましたかと、きょとんとしている沖田。
「……変わっているな」
「変ですか?」
「普通、かかわり持ちたくないだろう? それも友達なんて」
妖魔の血が流れていると言うだけで、そういった半妖たちは迫害を受けるのである。
「確かに、容姿は僕たちと違うところはありましたけど、友達でした。とても仲良しでした」
「……友達か」
「えぇ。友達です。彼らって、転々としているから、都にも来ているかなって、思っていたんですけど……」
寂しそうに語る姿に、本当に仲良くしていたんだと思いを馳せた。
「会いたいのか」
「そうですね。最近会っていないので、友達も来ているなら、探そうかなと思って、調べたら、なかなかなくって。思っていた以上に、厳しいですね」
「都では、そういう半妖が増えているってことを、知られたくないのだ。だから、ここでは一番厳しくやっている」
「なるほど。でも、それって、無理がありませんか? 地方では年々増えていますよ、そういった子供たちが」
地方では、年々妖魔に襲われる件数が増え、妖魔の血が流れている半妖の子供が、年々誕生していた。そうしたことも、徳川宗家では隠したいことの一つだった。
「……そうなんだろうな」
どこか他人事のように、近藤が答えた。
「いつまで、隠しておくつもりなんですかね」
「わからない。そうだ、私もよくは知らないが、都でも知られないように、出している小屋もあるらしい。そこを探して訪ねれば、友達に会えるかもしれないな」
不敵な笑みを近藤が零した。
「ありがとうございます」
「ただし、その格好では行くなよ。目立つ。特殊組と特命組には、気をつけろ」
「わかりました」
その頃、山南班は外回りをしていた。仕事をしない連中に惑わされることなく、真面目に苦情を聞き回る仕事をこなしていたのである。
「この辺に、夜盗か」
「はい。お願いします」
この辺で商売をしているリーダー格の男が、山南たちに、この辺の治安が悪くなっている現状を陳情していた。そして、この辺一体の警戒を強めてほしいと、お願いしていたのだ。
一瞬だけ、渋い表情を覗かせる山南。
が、普通の表情に戻る。
「わかった」
「ありがとうございます」
頼んできた男が去っていった。
不安顔の尾形が話しかける。
「大丈夫ですか? この辺一体は銃器組二番隊の管轄。彼らに言っても、警戒はしないかと」
銃器組二番隊は、この辺一体の警戒に力を注いでいない場所だった。報告したところで、警戒しないのは目に見えてわかっていたのだ。
「わかっている。少し、離れてもいいか」
「はい」
「後は頼む」
山南が班から離れていった。
所定の場所へ向かうと、そこに街に溶け込んでいる一人の男が待っていた。
特殊組四番隊にいた時の後輩だった男だ。
そして、山南も目立つ制服を脱いで、普通の格好をしている。
「すまんな。忙しい立場なのに、遅れて」
「いいですよ」
「忙しそうだな」
「嗅ぎ回っているんですが、なかなか尻尾を捕まえられなくって。休みもなく、働き詰めです」
見世物小屋の摘発の仕事をしていたが、情報が集まらないで、停滞していたのである。
都で見世物小屋をやっていると言う情報が入り、探して摘発しようとしているが、あることまでは掴めていたが、そこまでだった。
それがどれくらいの規模で、どこでやっているのかが、掴めずにいたのだ。
「そうか。何かいい情報でも、あればいいのだが、俺の方も、その手の情報は……、お前以上に薄いだろうな」
何か情報があれば、かつての仲のよかった同僚や後輩に情報を流していた。
「気にしないでください。ところで、上の方は、深泉組を潰そうと躍起になっています。足を取られないように、気をつけてください」
後輩の男が、小さく折り畳まれている紙を山南に渡した。
「助かる」
「いいえ。私には、これくらいしかできませんので」
申し訳なさそうな顔でいる。
もっと山南の助けになりたいと思っているのだ。
「それでも、私には助かる」
「あの局長がいなくなれば、山南さんは戻れるのに」
悔しげな表情に、何でもないと言う顔を覗かせた。
「無理な話はするな」
「ですが」
「やめろ」
「悔しいです」
しょうがないやつだと、山南が苦笑する。
「ところで、頼みたいことがある」
「なんです」
「少し治安が悪くなった場所があって、警戒してほしい。銃器組二番隊では当てにならないから、できれば、気づかれずに」
山南も、紙を男に渡した。
「わかりました」
「ありがとう」
「では」
「ああ」
誰にも気づかれないように、二人が別れる。
読んでいただき、ありがとうございます。




