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天翔ける龍のごとく  作者: 香月薫
第6章 双龍 前編
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第177話

「リキ。外事軍のやつらは、都に入ってきた?」

「……ああ。いつものように、検問所を通って、中に入ってきていたぞ」

「そう。やっぱり、入ってきたんだ」

 口角を上げている沖田だ。


 密かに、検問所のシステムを操作し、検問所のレベルを上げ、厳しく、検問されるように仕掛けていたのである。

 だが、沖田自身も、それだけで、外事軍を止めることができないと、踏んでもいたのだ。

 ただ、嫌がらせ程度に、仕掛けていたのだった。


「で、その外事軍たちは、何か、荷物を持っていたのかな?」

「疑いがあるものは、いくつかあった」

「場所は、把握してあるんでしょ」

「勿論だ。ただ、定期的に、場所を変えられると、厄介だな」

 考える素振りをみせる、リキである。


「リキが、信用できる者を、見張りにつけているんでしょう?」

「ああ。だが、深入りは、するなって、命じてある」

「それで、いいよ」

「助かる」


 リキ一人では、対応ができないと、自分が信用できる人物を、都に入ってきた外事軍につけていたのである。

 そして、逐一、報告が来るようにしてあった。

 沖田の下で、働くようになり、自分が信用できる部下を、何人も抱え込んでいたのだった。

 一時期、他の者と組むことがあっても、正式に、自分の下で、動かす者を雇っていなかったのだ。


「花街にも、顔を出しているの?」

「見張りを数人置いて、よく遊びに、出かけている」

 上がってきている報告を、口にしていた。

 勿論、リキ自身の目で、花街で遊んでいる外事軍を確かめてもいたのだ。

「花街か……」

 思案する顔を、沖田が見せている。


(……兄さんに、探りでも、入れようかな。花街に、知り合い多そうだし……。でも、聞いちゃうと、兄さん、何か、勘付くかもな……。どうしようかな……)


 今後のことについて、沖田は、いろいろと巡らせていた。

 胡乱げな表情のリキが、口が開く。

「光之助たちを、花街に張らせるのは、やめておけよ」

「わかっているって。さすがに、僕が、動いているのが、わかっちゃうからね。当分は、できるだけ、知られたくないし……」


 光之助たちに頼むことも、浮かんでもいたが、すぐさま、その案が消えていたのである。

 光之助たちには、別な件を頼んでいたのだ。

 沖田には、まだ、まだ、彼を助ける駒が、少なかったのである。

 そして、元々、沖田は単独行動を好み、そうした人間を、これまでは作らないでいたのだった。

 だが、これからのことも踏まえると、もう少し、使える者がほしいかもと、過ぎらせている。


 未だに、眉間に寄せている、リキの表情が和らぐことがない。

「……悟られないように、動けよ。あのおっさんのように」

「えっ。それって、凄く、難しいよ」

 眉を下げている、沖田だった。

「その難しいことを、あのおっさんだって、やっていたのだからさ」

「……できるだけ、努力するけど」


「あのおっさんって」

 二人の話を、理解できないククリ。

「芹沢隊長だよ」

 きょとんとしているククリに、沖田の双眸が巡らせている。

「ああ」

 ようやく、納得するククリだ。


 千春たちは、名を聞いても、ピンときていない。

 都に来ていても、見世物小屋から、出たことがなかった千春。

 悪名高い芹沢の名前を、聞いたことがなかったのだった。

 ジルとオリビアに関しては、地方に住んでいたので、知ることもなかった。

 初めて訪れた都に、入った瞬間、足を竦ませているほどだ。


「で、どうする? いつ動くのか、わからないし、すぐにでも、動くか?」

「もう少し、確実な情報がほしいな。動いていないって言うのも、困るし……」

「確かに。警戒されるだけだろうからな」

「助け出さないのか」

 二人の話に、納得できないククリが眉を潜めている。


「出したいと、思っているけど、逃げられる可能性だって、あるんだよ?」

 首を傾げながら、沖田が視線を巡らせていた。

「ソウや私がいるんだ。二手に、分かれれば」

「外事軍を、甘く見ない方が、いいよ」

 少し強い、沖田の声音。


 千春や、ジル、オリビアが、身体を強張らせている。

 雲行きが、怪しくなっていく二人。

 不安げに、見比べていたのだった。


「見ていない」

 口を尖らせているククリ。

 それに対し、沖田の双眸は、不満げなククリに注がれたままだ。

「どういう連絡手段をし、どのくらいの速さで、連絡を取り合っているのか、少し検討して、動いても、おかしくないはずだよ」


 正論に、何も言い返せない。

 けれど、納得もできなかった。

「……」


「はやる気持ちは、わかるけど、急いてしまって、邪魔にされ者たちが、殺される可能性だって、あるかもしれないんだよ」

 指摘を受けるまで、ククリは、そうしたことまで、考えが至らなかった。

 沖田に助けられ、安全圏に移ってから、ククリは、捕まっている半妖を、一人でも多く助けたいと抱いて、気持ちが焦っていたのである。

「……わかった」


 見た目でもわかるように、しゅんと落ち込んでいた。

「動く時は、ちゃんと、ククリにも、活躍して貰うからね」

 顔を伏せているククリを、優しげに見つめている。

「……うん」


「私は?」

 自己主張している、千春だ。

 ここにも、少しでも、役に立ちたいと、願っていたのだった。

 ジルとオリビアも、じっと、沖田を凝視していた。


「三人は、訓練して、大丈夫だと、思ってから」

「……わかった」

 返事を返した千春に対し、二人が、力強く、頷いていたのである。


 信頼されているリキを、三人が、羨望と嫉妬のような眼差しを注いでいた。

 見られているリキは、気にした素振りがない。

 気になることを、淡々と、進めていく。

「ククリたちを、このまま、この部屋にいさせるのか?」

 懸念されることを、リキが問うていた。


 滞在先が、ここでは、いつか、見張っている者たちに、ククリたちの存在が、ばれてしまうと案じていたのだった。

「……そうだね」

 思案しつつ、四人の顔を見比べている。

 ククリは、ここから離れたくないと言う顔を覗かせ、他の三人は、どうでもいいよと言う顔を、滲ませていたのだった。


「外の人たちは?」

「少し減っているけど、頑張っているやつらも、いるぞ」

「そうなんだ」

「ソージが、餌付けなんか、するからだろう」

 呆れた顔を、リキが注いでいた。

 貰った食べ物を、定期的に配っていたのである。

 それ目的で、いつく者もいたのだ。


「だって……」

「特に、ガキらが、居据わっているぞ」

「買収することは?」

「わからない。どういう雇われ口かって、ことだろうな」

「そうだね……。わかっているところは、ある?」


「二、三人なら」

「さすが、リキ」

 賞賛されても、嬉しくないリキだった。


「ダメだって思ったら、違う場所に、移って貰うことになるけど、それまでは、ここで過ごして貰っても、いいよ。光之助たちにも、知らせておくから」

「わかった」

 口角が上がるのを、止められないククリだ。


読んでいただき、ありがとうございます。

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