第177話
「リキ。外事軍のやつらは、都に入ってきた?」
「……ああ。いつものように、検問所を通って、中に入ってきていたぞ」
「そう。やっぱり、入ってきたんだ」
口角を上げている沖田だ。
密かに、検問所のシステムを操作し、検問所のレベルを上げ、厳しく、検問されるように仕掛けていたのである。
だが、沖田自身も、それだけで、外事軍を止めることができないと、踏んでもいたのだ。
ただ、嫌がらせ程度に、仕掛けていたのだった。
「で、その外事軍たちは、何か、荷物を持っていたのかな?」
「疑いがあるものは、いくつかあった」
「場所は、把握してあるんでしょ」
「勿論だ。ただ、定期的に、場所を変えられると、厄介だな」
考える素振りをみせる、リキである。
「リキが、信用できる者を、見張りにつけているんでしょう?」
「ああ。だが、深入りは、するなって、命じてある」
「それで、いいよ」
「助かる」
リキ一人では、対応ができないと、自分が信用できる人物を、都に入ってきた外事軍につけていたのである。
そして、逐一、報告が来るようにしてあった。
沖田の下で、働くようになり、自分が信用できる部下を、何人も抱え込んでいたのだった。
一時期、他の者と組むことがあっても、正式に、自分の下で、動かす者を雇っていなかったのだ。
「花街にも、顔を出しているの?」
「見張りを数人置いて、よく遊びに、出かけている」
上がってきている報告を、口にしていた。
勿論、リキ自身の目で、花街で遊んでいる外事軍を確かめてもいたのだ。
「花街か……」
思案する顔を、沖田が見せている。
(……兄さんに、探りでも、入れようかな。花街に、知り合い多そうだし……。でも、聞いちゃうと、兄さん、何か、勘付くかもな……。どうしようかな……)
今後のことについて、沖田は、いろいろと巡らせていた。
胡乱げな表情のリキが、口が開く。
「光之助たちを、花街に張らせるのは、やめておけよ」
「わかっているって。さすがに、僕が、動いているのが、わかっちゃうからね。当分は、できるだけ、知られたくないし……」
光之助たちに頼むことも、浮かんでもいたが、すぐさま、その案が消えていたのである。
光之助たちには、別な件を頼んでいたのだ。
沖田には、まだ、まだ、彼を助ける駒が、少なかったのである。
そして、元々、沖田は単独行動を好み、そうした人間を、これまでは作らないでいたのだった。
だが、これからのことも踏まえると、もう少し、使える者がほしいかもと、過ぎらせている。
未だに、眉間に寄せている、リキの表情が和らぐことがない。
「……悟られないように、動けよ。あのおっさんのように」
「えっ。それって、凄く、難しいよ」
眉を下げている、沖田だった。
「その難しいことを、あのおっさんだって、やっていたのだからさ」
「……できるだけ、努力するけど」
「あのおっさんって」
二人の話を、理解できないククリ。
「芹沢隊長だよ」
きょとんとしているククリに、沖田の双眸が巡らせている。
「ああ」
ようやく、納得するククリだ。
千春たちは、名を聞いても、ピンときていない。
都に来ていても、見世物小屋から、出たことがなかった千春。
悪名高い芹沢の名前を、聞いたことがなかったのだった。
ジルとオリビアに関しては、地方に住んでいたので、知ることもなかった。
初めて訪れた都に、入った瞬間、足を竦ませているほどだ。
「で、どうする? いつ動くのか、わからないし、すぐにでも、動くか?」
「もう少し、確実な情報がほしいな。動いていないって言うのも、困るし……」
「確かに。警戒されるだけだろうからな」
「助け出さないのか」
二人の話に、納得できないククリが眉を潜めている。
「出したいと、思っているけど、逃げられる可能性だって、あるんだよ?」
首を傾げながら、沖田が視線を巡らせていた。
「ソウや私がいるんだ。二手に、分かれれば」
「外事軍を、甘く見ない方が、いいよ」
少し強い、沖田の声音。
千春や、ジル、オリビアが、身体を強張らせている。
雲行きが、怪しくなっていく二人。
不安げに、見比べていたのだった。
「見ていない」
口を尖らせているククリ。
それに対し、沖田の双眸は、不満げなククリに注がれたままだ。
「どういう連絡手段をし、どのくらいの速さで、連絡を取り合っているのか、少し検討して、動いても、おかしくないはずだよ」
正論に、何も言い返せない。
けれど、納得もできなかった。
「……」
「はやる気持ちは、わかるけど、急いてしまって、邪魔にされ者たちが、殺される可能性だって、あるかもしれないんだよ」
指摘を受けるまで、ククリは、そうしたことまで、考えが至らなかった。
沖田に助けられ、安全圏に移ってから、ククリは、捕まっている半妖を、一人でも多く助けたいと抱いて、気持ちが焦っていたのである。
「……わかった」
見た目でもわかるように、しゅんと落ち込んでいた。
「動く時は、ちゃんと、ククリにも、活躍して貰うからね」
顔を伏せているククリを、優しげに見つめている。
「……うん」
「私は?」
自己主張している、千春だ。
ここにも、少しでも、役に立ちたいと、願っていたのだった。
ジルとオリビアも、じっと、沖田を凝視していた。
「三人は、訓練して、大丈夫だと、思ってから」
「……わかった」
返事を返した千春に対し、二人が、力強く、頷いていたのである。
信頼されているリキを、三人が、羨望と嫉妬のような眼差しを注いでいた。
見られているリキは、気にした素振りがない。
気になることを、淡々と、進めていく。
「ククリたちを、このまま、この部屋にいさせるのか?」
懸念されることを、リキが問うていた。
滞在先が、ここでは、いつか、見張っている者たちに、ククリたちの存在が、ばれてしまうと案じていたのだった。
「……そうだね」
思案しつつ、四人の顔を見比べている。
ククリは、ここから離れたくないと言う顔を覗かせ、他の三人は、どうでもいいよと言う顔を、滲ませていたのだった。
「外の人たちは?」
「少し減っているけど、頑張っているやつらも、いるぞ」
「そうなんだ」
「ソージが、餌付けなんか、するからだろう」
呆れた顔を、リキが注いでいた。
貰った食べ物を、定期的に配っていたのである。
それ目的で、いつく者もいたのだ。
「だって……」
「特に、ガキらが、居据わっているぞ」
「買収することは?」
「わからない。どういう雇われ口かって、ことだろうな」
「そうだね……。わかっているところは、ある?」
「二、三人なら」
「さすが、リキ」
賞賛されても、嬉しくないリキだった。
「ダメだって思ったら、違う場所に、移って貰うことになるけど、それまでは、ここで過ごして貰っても、いいよ。光之助たちにも、知らせておくから」
「わかった」
口角が上がるのを、止められないククリだ。
読んでいただき、ありがとうございます。