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天翔ける龍のごとく  作者: 香月薫
第6章 双龍 前編
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第175話

 深泉組から離れ、単独行動をしている土方。

 制服を脱ぎ、ありふれた人並みに、溶け込んだ格好だ。


 馴染みの酒場に、足を運んでいたのである。

 店内には、多くの客が乱舞していた。

 すました顔をし、土方が、席についている。


 誰も、そんな土方を気にしない。

 ただ、好き勝手に、騒ぎ捲くっていたのだった。

 闇討ちなどが、起こっているにもかかわらず、ここに来る者たちは、気にする素振りもなく、大いに酒を飲んで、この場を楽しんでいたのである。


「竜さんは、顔を出しているのか?」

「いいえ。このところ、いらっしゃらないですね」

「そうか……」

 落胆の色が濃い。


 土方から、注文を取った女が、厨房に下がっていく。

 息抜きのために、訪れた訳ではない。

 坂本に会うため、来ていたのだった。


 自分で注いだ酒を、飲んでいった。

 この酒場で、三件回っているが、いっこうに、坂本と出会うことができない。

 少し話を聞こうと、互いに情報間をしている坂本を、捜していたのである。


「仕事で、出られないのか……」

 小さく呟く、土方だった。

 うるさいほど、周囲が騒いでいるので、誰も、土方の呟きを耳にしていない。


(……困ったな。どうするか……)


 坂本が、顔を出さない可能性も見出していた。

 だが、来ると信じ、捜していたのである。


 巷で起きている闇討ちの件を、坂本から、話を聞きたかったのだ。

 被害者に、共通点がない。

 双方側からも、被害者が出ている状態である。


 どちらの勢力にも、組していない者まで、闇討ちにあっていたのだった。

 闇討ちに、何か意図が隠されているのか、そうではないのかと。

 そういうこともあり、闇討ちの事件に、土方たちは行き詰っていた。

 人知れず、小さく、息を吐いている。


 厨房から、店の主人であるオヤジが、注文した料理を携え、暗い表情の土方の前へ置いたのだ。

 運ぶ女たちは、他の客の注文を受けていて、出払っていた。

 店内は、非常に、賑わっていたのである。

 そのため、厨房から出てきたのだった。


「オヤジ。竜さんは、いつ頃、顔を出していたんだ?」

「……ひと月前ですかね」

 逡巡しながら、土方の質問に答えていた。


 この界隈で、坂本を知らない者などいない。

 ただ、勤皇一派の坂本だとは、知られていなかったのだ。

 どこの店も、酒好きの竜さんで、知られていたのである。


「大変でしたよ。帰ろうとせず、店に泊り込んで、飲んで……。相当、荒れていましたね」

「そうか」

「何度も帰るように、促したんですけど、帰りたくないって……」

 困った顔を、オヤジが覗かせていたのだ。

「あの時は、ホントに、困りましたよ」


「……」

「でも、いつの間にか、消えていたので、帰ったんでしょうけど」

 お客で賑わっている最中に、坂本は店を出ていたのだった。


(何か、あったのか……)


「他に、何か変わったことはなかったか?」

 他の店でも、聞いたことを、ここでも尋ねている。

 いろいろと、情報を集めていたのだ。


 わからないことが多く、情報は、喉から手が出るほど欲していた。

 ただ、こういった場所は、深泉組の制服を着ていると、口を閉ざされることも多く、場所に応じた聞き方をしていたのである。


「このところ、窃盗団が、多いことですかね」

「……」

 微かに、眉間にしわが動く、土方だ。


 今、窃盗団のことで、深泉組も、借り出されていたのである。

 だが、有効な情報を、得ることができていなかった。

 やることが多く、土方たちの頭を多いに、悩ませていたのだった。


「困ったものですね。毎日、どこかの家で、窃盗団に押し込まれたって、話を聞きますし、銃器組も、何なっているんですかね。野放し状態じゃないですか」

 治安が悪いと、眉間にしわを寄せながら、オヤジが憤慨していたのだ。


 これ以上、治安が悪くなると、客の数が減り、生活が成り立たないと、巡らせていたのである。

 けれど、窃盗団は捕まるどころか、逆に、現状は、窃盗団に襲われる数が、日に日に多くなっていたのだった。

 店内に、多くの客がいるが、以前は、もっと、客が溢れていたのだ。


「……」

 耳の痛い話。

 土方の顔が、僅かに歪んでいた。


 だが、次第に、窃盗団の話をしていくうちに、窃盗団や、しっかりと、取締れない銃器組に、苛立ちを憶え始めオヤジ。

 目の前の土方が、見えなくなっていった。

「窃盗団の一つも、捕まえられないなんて、一体、何をやっているんだが、銃器組は。それに、深泉組も、問題ばかり起こし、迷惑極まりないって、こういうことですね。旦那」

 何とも言えない顔を、土方が、滲ませている。


 まさか、目の前にいる土方が、深泉組の副隊長をしていると、知らないので、止め処なく、銃器組や深泉組の不満が口をついていた。

 黙って聞き、時折、そうかと、相槌を打っていたのだった。


「夜も、安心して、眠れない状態ですよ。ホント、銃器組にも、深泉組にも、もっと、しっかりしてほしいものですよね、旦那」

「……そうだな」

 そして、しばらく、聞いていると、厨房から、オヤジを呼ぶ声が聞こえ、土方に頭を下げ、厨房へ戻っていった。


 不満を聞いていた土方が、息をついていた。

 ドッと、疲れが押し寄せている。

 何度か、これまでの店でも、不満を聞いていたが、ここまで、酷い不満を聞くこともなかった。

 改めて、銃器組や深泉組に対する、鬱憤が溜まっていることを、痛切に認識させられていたのだ。


 手をつけていなかった料理に、視線を巡らす。

 話を聞いている間、手をつけていなかったのだった。

 乾いた喉を酒で潤し、ようやく、料理に手をつけ始める土方のである。


読んでいただき、ありがとうございます。

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