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天翔ける龍のごとく  作者: 香月薫
第6章 双龍 前編
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第171話

 外事軍で、地方で赴任しているはずの堀川が、検問所で、足止めを喰らっていた。

 千種には、すでに、遅れる旨を伝えていた。

 けれど、待ち合わせ場所にも、いけない状況に嘆くしかない。


 神経質そうな顔から、嘆息を吐いている。

 遥か後方で、警護している部下や、検問所に文句を言いに、いっている部下たちに、視線を巡らせていた。

「つくづく、このところ、運がないな」

 ふと、担当している地方での出来事を、頭の中で掠めている。


 気づかれないうちに、誰かに、侵入された挙句、メインのコンピューターがハッキングされ、それらの対応を、させられていたのである。

 面倒臭い仕事に、うんざりしつつも、上司からの命令では、背くこともできない。

 部下を総動員し、犯人探しを行ったが、見つかることも叶わなかった。

 また、上司から叱責があり、そのため、地方から出てくるのが、かなり、遅れてしまったのである。


「……誰が、あんな真似を」

 奥歯を噛み締めている堀川。

 部下たちは、誰も、気づかない。


 思考を巡らせているのは、原因を作った犯人たちだ。

 虱潰しに当ってみたものの、それらしい人物を、上げることができない。

 影、形すら、見つかることが、できなかった。

 小さく、息を吐く。


 堀川たちは気づいていないが、犯人は、沖田や聖、ククリだ。

 入念に細工を施し、外事軍が、あたふたするところを楽しもうと、嬉々として仕込んでいたのだった。

 それにハマっていたのが、堀川たちである。


 堀川を始めとして、どの顔も、うっすらと、目の下に、クマができ上がっていた。

 連日の対応で、疲れきっていた。

 けれど、都で遊ぶためだと言い聞かせ、無駄な仕事をしていたのである。

 そして、仕事の成果がないまま、上司から、ようやく許しを得て、都に辿り着くことができたのだった。


「堀川様。もう少し、時間が掛かるみたいです」

 検問所に行かせた、部下から報告がなされた。

 ムッとした顔を、堀川が、露わにしている。


 チラリと、後方にいるだろう部下たちの顔を確かめていた。

 都だと、気が緩んでいる、部下たちの顔。

 後方で、警備している荷は、地方で狩った半妖が、詰め込まれていたのだ。


 視線の先を、目の前にいる部下に巡らせていた。

「何で、時間が掛かる? 身分証は、見せたのだろう?」

「それが……」

「はっきりしろ」

「はい。厳しくなったようで……」

 歯切れが悪い部下だった。


 半眼している堀川。

 溜息しか、出てこない。

 埒が明かないと抱き、自ら検問所に行くことにする。


「もういい。私が行く。お前は、緩んでいる者たちを、窘めて来い」

「はい」

 部下を後方へ行かせ、検問所の方へ、足を進めていった。




 検問所に、睨み聞かせ、どうにか、都に入ることができ、いつものところへ、半妖たちを運び、数人の部下たちに見張りをさせ、残りの者たちだけで、花街に繰り出していたのである。

 先に来ていた渡辺たちと、会うことができたのは、堀川たちが都に入ってから、三日後だった。


「大丈夫だったのか?」

 遅れてきた堀川に、声をかけている千種だ。

 この前の場所とは違い、三人は、花街の奥まったところで、待ち合わせしていたのである。

 会うところは、毎回、違う場所を選んでいた。

 一緒にいるところを、誰にも、見られたくなかったのだった。


「検問所が、厳しくなっている」

 ふてくされた顔を、堀川が滲ませている。

「「検問所が」?」

 渡辺や千種は、いつも通りに、容易く入ることが、できていた。

「お前たちは、問題なかったのか」

 ついつい、ジト目になっている堀川である。


「「なかった」」

 二人の返答に、嘆息を漏らしていた。


「堀川。お前の方で、半妖を狩る際、邪魔する者が、現れなかったか?」

 渡辺の方では、そうしたやからが、出ていない。

 どこまで、そうした者たちがいるのか、確かめる必要性を、感じ取っていたのだった。

「いた」

 胡乱げな眼差しを、堀川が注いでいた。

「まさか、お前たちの方でもか?」


「俺のところもいたが、渡辺のところは、いなかったらしい」

「千種のところに出て、渡辺のところには、出なかった……」

 逡巡し始めていく面々。


 この辺一体に、明かりが少ない。

 微かな明かりだけで、それぞれの表情を、確実に、読み取っていたのである。

 地方で、妖魔と戦っていることだけはあり、夜目が利いていたのだった。


「規模としては、あまり、大きくないのかも、しれないな」

 千種と堀川の赴任場所は、ある程度、離れているが、渡辺ほど、大きく離れていない。

 沖田やククリたちの仕業とはわからず、それなりの規模を持っている組織が動いていると、彼らは読んでいたのである。


「いずれ、俺のところにも、出てくるかもな」

「用心しろ。かなりの手練だ」

「そんなにか」

「部下が、何人か、殺られた」

 苦渋を滲ませている堀川だ。

 使っていた部下たち複数が、襲われ、命を落としていた。


「……うちのところは、死人は、出なかった」

 怪訝そうな顔で、千種が呟いていた。

「どこに、所属していると、踏んでいる?」

 意見を求めている渡辺。


「わからない。だが、どこの組織でも、俺たちが、やっていることを、気に食わないと思っている連中がいるからな」

 千種たちは、自分たちの行為が、他の組織で、疎んじられていることを認識しつつも、手を染めていたのである。

「そうだな。もしかすると、いくつかの組織が、動いている可能性もあるな」

「……複数か。俺は、少人数で、動いているように、思うんだが?」

 渡辺の言葉に、考え込む二人だ。


「まったく、証拠すら残さないなんて、どういう連中だ」

 千種が、首を傾げている。

「証拠を残していても、全部、無駄骨だ」

 忌々しげな双眸を、堀川が巡らせていた。

 証拠が出るたび、動き回され、結果、何も得ることができなかったからである。


「物凄く、頭の切れるやつが、いるのかもしれない」

 渡辺の呟き。

「芹沢か」

「やつは、死んでいる」

 芹沢の名を出した千種を、堀川が睨んでいた。


「本当に、死んでいるのか?」

 睨まれても、なお、問いかけていたのだ。

「まるで、芹沢がしているかのようだな」

 少し投げやりな口調の渡辺である。

「……」


 堀川の眉間は、芹沢の名を、耳にした途端、険しくなっていたのだ。

 彼らの中で、無駄のない筋肉を携えている堀川が、強かったのだった。

 その堀川ですら、芹沢の腕に、敵わなかった。

 何度も、苦水を飲まされていたのだ。


「墓でも、掘り起こすか?」

 何気ない、千種の言葉。

「芹沢の墓としてあるのは、ダミーだろう」

 呆れた表情を、渡辺が覗かせている。

「何で」

「あいつの部下が、許すと思うのか」


「銃器組時代のか」

「ああ」

「だな」


「墓を起こしても、無駄だ。だが、いくつかの証言はあるし、銃器組の時代の幾人かの部下たちが、芹沢を仕留めたやつのことを、探っている」

 これまで、調べていたことを、渡辺が口に出していた。

 彼らと会う前に、できるだけ情報を集めようと、搔き集めていたのだった。

「マジか。で、成果は」

 渡辺が首を振っている。


「……そうか」

 落胆の色を、千種が注いでいた。

「今後のことを考えると、半妖を庇っている連中を、探ることを視野に、入れておくべきだな」

 堀川の意見に、賛同していた。

「だが、行動は、慎重にするべきだ。俺たちが、目立つ動きをすることによって、組織に知られる可能性もあるからな」

 慎重に動くべしと言う渡辺の意見。

 頷いている千種だ。


「悠長なことは、言っていられないだろう? ここまで、してやられているんだぞ」

「だからこそだ」

「……」

 納得いっていない堀川。

 だが、有無を言わせない渡辺の姿勢に、言い返すことができない。


「……。ここで、俺たちが争っても、連中を、活気づかせるだけだぞ」

 一戦交えようかとしている二人を、千種が窘めていた。

「「わかっている」」


「都に残っているやつらにも、頼むべきだ」

「そうだな」

 強張らせていた肩を、下ろす渡辺だ。

「千種の方で、連絡をしてくれ」

「わかった」


「俺は、芹沢の件を、もう少し、洗ってみる」

「深入りして、俺たちの存在に、気づかれるなよ」

 まだ、不満が残っている堀川が、目を細めている。

「わかっている」

「なら、いい」

 静かな攻防を広げている二人。

 千種が、やれやれと、首を竦めていたのだった。


読んでいただき、ありがとうございます。

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