第168話
あけましておめでとうございます。
本年も、よろしくお願いします。
昨年中に、再開させる予定でしたが、
叶わず、新年から、再開させて貰います。
待機部屋では……。
外回りに、出払っていた、一部の隊員が戻ってきていた。
休んで入るごく一部を除き、事務作業をしていたのだ。
窃盗団の被害を受けた、屋敷の状況や、聞き込みしたものを、沖田が、まとめている作業を行っている。
丁寧で、詳細に、書かれていく調書。
誰が読んでもわかるように、細部まで、書かれていた。
斉藤班が戻ってきた時点で、斉藤の姿はなく、安富や牧、保科は、別な仕事をするため、席を外していたのだ。
安富たちも最初は、やると言っていたのだが、それを押して、安富たちの分の事務作業を、引き受けていたのだった。
沖田は一人で、事務作業を行っている。
どこか表情は、憂いを、感じさせていた。
だが、休みなく、働いているにもかかわらず、髪の艶やかな色合いが、色褪せていない。
逆に、輝く光沢が、増しているようでもあった。
部屋にいる数人の隊員が、仕事をこなす沖田に、視線を巡らせている。
ほとんどの者が、心配や気遣う眼差しだ。
長期で、休暇を貰ったからと言って、他の人の分まで、このところ、仕事をこなしていたのだった。
それも、普通の人の、三倍や四倍の仕事である。
事務三人組の一人である伊達が、少し、手伝いましょうかと声をかけても、大丈夫ですと言って、オーバーワークと言える量の仕事をしていた。
見ていられない、毛利と水沢だ。
席を立つ二人。
いつもならば、井上が、一番先に行くところだが、井上たち原田班は、未だに、帰ってこない。
戻ってこないこともあるので、大して、誰も、心配はしていなかった。
黙々と、仕事をしている沖田。
近づき、声をかける二人だ。
「分けてください」
毛利は、言葉にしているが、水沢は、無言で、沖田の仕事を、勝手に取っている。
そして、仕事の内容を、確かめていたのだった。
「大丈夫ですよ」
「ダメです」
「ダメだ」
有無を言わせない。
僅かに、見上げている沖田の眉が、下がっている。
「……ありがとうございます」
二人は、牧や保科の机を借り、仕事をし始めていた。
すでに、二人は、自分たちの仕事を、終えていたのだ。
「見回りの方は、どうでしたか?」
書類に傾けられたままの、沖田の双眸。
喋りながらでも、仕事をこなしている。
「何もないですね」
「同じだ」
どこの班の成果も、得られていなかった。
芹沢たちが襲撃され、殺されたこともあり、待機部屋の雰囲気は、決して、よくはない。
ようやく、仕事が与えられても、上手くできない現状。
近藤や土方は、焦っているようで、待機部屋に、顔を出すことも、少なかった。
独自の情報網を使って、二人は、聞き込みをしていたのである。
「こちらも、同じです」
困った顔を、沖田が、覗かせていた。
「銃器組の機嫌は、悪そうですね」
街の中で、銃器組同士が、揉めている現場を、何度か、見ていた沖田。
その話を、簡単に、二人に、説明したのだ。
話を聞き、二人は、眉を潜めている。
沖田の話に、聞き耳を立てている待機部屋全体に、広がっていたのだった。
どの顔も、顔を顰めていた。
深泉組と言うことで、どの隊員も、八つ当たりされていたのである。
「警邏軍全体が、悪いですね」
「そうだな」
「実は……」
知り合いから、仕入れた話を、毛利が聞かせる。
見回りをしながらも、警邏軍の知り合いから、いろいろな話を聞きまわっていたのだった。
警邏軍の内部でも、ゴタゴタが生じ、この数日、険悪なムードが漂っていることを。
そして、そうした騒動を、深泉組や上層部に、知られないように、押さえ込んでいることを耳にしていたのだ。
「バカらしいな」
ばっさりと、切り捨てる水沢。
「ま、失態ばかりですからね……」
小さく、笑っている沖田である。
「上手く、いきませんね。どこも」
「そうだな。空振りだらけだ」
仕事をし続けていることもあり、毛利や水沢の顔色も、よくはない。
深泉組全体に、疲労が、蓄積されていた。
何か一つでも、情報でもあれば、そうした疲労も、少しは癒えるのだが、情報がない上に、銃器組からの八つ当たりなどもあり、精神的には、相当の疲労が、溜まっていたのである。
「どうなっているでしょうか? これほど、情報を得られないと言うのは、気味が悪いですね」
毛利が、ぼやいていた。
「そう思います」
同意している沖田。
「潜むのは、上手いんだろうな」
「もしかすると、上手い隠れ蓑が、あるのかもしれませんね……」
何気ない、沖田の呟き。
不意に、毛利や水沢の手が、止まっている。
「……それしか、考えられませんね」
「俺も、そう思う」
連日、見回りや聞き込みをし、何も出てこないことに、絶対安全な隠れ蓑が、あるのではないかと、誰もが、抱いていたのだ。
ただ、それは、どこなのかと。
全然、それらしい場所も、見つからないし、情報も、得られていない。
「それも、口が堅く、怪しまれないところですね」
「そんなところ、あるか?」
徐に、水沢が、沖田に、視線を向けている。
沖田の手は、止まらない。
物凄いスピードだ。
その姿に、驚愕でしかなかった。
だからと言って、書かれている文字が、乱れていない。
とても綺麗で、読みやすい文字だった。
「……見逃していたのかも、しれませんね」
「そうなると、沖田さん。もう一度、最初から、やり直した方が、いいのかもしれませんね」
「そうなりますね、毛利さん」
「手間だな」
ボソッと、呟く水沢だ。
三人の話を、耳にしていた三浦や千葉。
勉強している手を、いつの間にか、止めていたのだ。
その形相は、いやそうに、歪めていたのだった。
読んでいただき、ありがとうございます。