第167話
外に出て、島田班が、都の見回りをしていた。
見た目では、変わらない日常があった。
けれど、確実に、ジワジワと、このところ、起きている窃盗団の影響が、都の中で、浸透していたのだった。
そうした雰囲気を、島田は、肌で感じていたのだ。
ただ、経験の浅い三浦は、気づく様子がない。
真摯に、窃盗団らしき者が、いないかと、闇雲に、目を光らせている。
有間も、毛利も、暖かい眼差しで、窺っていた。
そうした中、窃盗団が出たと聞き、その現場に、向かっていたのである。
すでに、銃器組が来ていて、現場を見て回っている状況だった。
先越されたことに、三浦の表情が硬い。
「近くで、聞き込みをするか?」
苦笑している島田に、肩を叩かれる三浦。
有間や毛利は、いつものことと、割り切った表情だ。
山崎は、いつものごとく、別行動をとっていたのである。
「……はい」
納得いかない顔をしつつも、三浦が、頷いていた。
そこへ、銃器組の男が、島田に、声をかけてきたのだ。
「いいな、深泉組は」
バカにしたような声音だ。
ムッとした顔で、三浦が、睨んでいる。
「休みが多くって。俺たちは、休みなく、働かされていて、ヘトヘトだ。少しは、深泉組も、働いてほしいな」
嘲笑する笑みを漏らしている、銃器組の男。
仲間たちも、嘲りが含まれている笑みを、浮かべていたのだった。
銃器組は、失態が続き、人々から、より冷たい眼差しに晒され、心が荒んでいたのだ。
だから、当たらずにいられなかった。
目の前に、現れた島田たちに、その矛先を向けてしまっていたのである。
それは、ここいる誰もが、同じだった。
「何だと……」
食って掛かろうとする三浦。
島田が、肩を掴み、止めに入った。
強い力で掴まれ、それ以上、動けない。
それほどの圧が、あったのだ。
振り向き、どうしてと言う顔を覗かせている。
「下がっていろ」
穏やかの双眸の中にも、揺るぎない意志を感じ、三浦は口を噤み、下がっていく。
有間や毛利が、これ以上、バカにされ、頭に血が昇っている三浦が、出ないように近くに寄っていった。
嘲笑してきた、銃器組の男たち。
ゆったりとした動作で、島田が、近づいた。
貫禄ある島田の風貌。
思わず、銃器組の男たちが、気圧されそうになるが、銃器組としての矜持だけで、その場に、踏み止まっていたのである。
(ほぉー。下がらないとは)
口角を、僅かに、上げている島田だった。
近づくたびに、ゴクリと、つばを飲み込む銃器組の男だ。
その大きさを、ヒシヒシと、感じ取っていたのである。
すぐ目の前で、立ち止まった。
見下ろすように、島田が、銃器組の男を眺めている。
島田の方が、身長が、高かったのだ。
そして、半端ない圧を、降り注いでいた。
「上手くいかないからって、八つ当たりをするのは、どうかな?」
「……」
「深泉組だって、仕事は、一応していたんだが?」
「……」
「それに、知っていると思うが、銃器組のように、いろいろな権限が、深泉組には、与えられていないんだ。こちらとしても、もっと、銃器組や、他の組の手伝いをしたいと、思っているんだが、なかなか、どうして、仕事が、回ってこないんだ。君たちからも、上の方に、言っておいて、くれないだろうか? もう少し、深泉組に、仕事を回してほしいと」
「……問題ばかり、起こすじゃないか?」
「そうだね。いろいろと、面倒は、起こすけど、仕事は、しているよ。ちゃんと」
「どこがだ?」
「こうして、情報収集を、しているじゃないか?」
「情報を集められては、いないぞ」
「それは、銃器組だって、同じじゃないか?」
「……」
「それとも、何か、情報でも、入っているのかな? そちらは」
微かに、島田の眼光が、光っている。
「……」
「八つ当たりなんか、やめて、手を組んで、巷で、騒がしている窃盗団を、捕まえようじゃないか」
「……断る。何で、深泉組なんかと」
島田から、背後にいる仲間たちに、視線を巡らせる。
「……行くぞ」
先に行く男。
仲間たちは、あたふたとついていき、消えていった。
現場には、島田班しか、残っていない。
「現場でも、見せて貰おう」
「「はい」」
有間や毛利と違い、渋面している三浦だ。
「三浦」
諭すような、島田の声音だった。
「……はい」
島田班は、明け渡してくれた現場を、見て回っていく。
読んでいただき、ありがとうございます。
諸事情により、少しの間、投稿をお休みさせて貰います。
年内に、必ず、次のアップができるように
体の調子を整えるようにいたします。