第166話
斉藤班が、情報交換している頃、原田班は、みすぼらしい居酒屋で、酒を飲んでいたのである。
いつも、飲んでいる場所とは、違う場所だ。
制服すら、着ていない。
いつもよりも、酷い格好をしていたのである。
普段、飲んでいるよりも、治安が悪い場所で、酒を飲んでいた。
店内は、壁の至るところに、穴や隙間が開いていたのだった。
その隙間からは、外の人の行き来も、見えていたのだ。
内から、見ることができると言うことは、外を歩いている者も、店内の様子を窺うことができたのである。
「もう、三件目ですよ」
ジト目な井上。
この場を楽しんでいる原田を、睨んでいたのだった。
だが、井上は、ソワソワして、身体が、落ち着いていない。
それに対し、睨まれている原田は、飄々と、酒を飲んでいた。
他のメンツも、同じだ。
「聞いていますか? サノさん」
グビグビと、飲み干している原田。
「うるさいぞ」
邪険に言うものの、ここから、井上を、出そうとはしない。
井上の腕前を、疑ってはいないが、ここの場所に関しては、とても危険な区域でもあったのだ。
原田自身も、一人で、ここに来ようとは、思わないほど、治安が悪かった。
そのため、分散しようとはしないで、他の隊員たちも、一緒に行動をしている。
何があっても、いいようにだ。
原田たちは、こうした場所の入口付近の場所に、出入りした経験があったが、ここまでの深部に、入り込んだことがない。
「面白い話が、一つもないな」
やや赤い顔で、鳥居が、零していた。
違法で、造られた、強い度数の酒を、飲み続けたせいもあり、呂律も、少しだけおかしかったのだ。
この辺一体で、出されている酒のほとんどが、違法によって、造られた酒が出されていたのである。
食べ物も、普通の流通で、入ってきたものではない。
けれど、味は、美味しいと、抱く面々だ。
原田たちのテーブルには、酒の他に、数種類のつまみが、置かれている。
とても、こんなボロいところで、出しているものとは、思えないほどの上手さだった。
「ホントに」
相打ちを打っているロビン。
「次、行くのか?」
辺りを窺っている、フラードだ。
店内には、ちらほらと、客が飲んでいたのである。
一人や、二人でだった。
外の騒々しさはとは違い、ここの店は、どの客も、おとなしく、酒を飲んでいたのだった。
「なかなか、金儲けになる話が、聞けないな」
逡巡している、原田だった。
原田班は、情報収集と酒を飲むため、治安が悪く、あまり、入り込むことがなかった区域にある酒場に、入り浸っていたのである。
だが、どこを巡っても、情報を得られない。
皆、口が堅かった。
話しかけても、無視されたりしていたのだ。
ここにくれば、何か得られない情報が、入るかと抱いた。
危険を承知で、危険な区域まで、足を運んでいたのだった。
ただ、当初から、ここに来ることを、井上が反対していた。
自分たちでも、手に負えない場所の一つだったからだ。
客たちの顔は、どの顔も、一筋縄では、いかなそうである。
粋がっているやつらが、来たのかと言う程度しか、思われていないようだった。
緩和剤として、井上がいるおかげで、これまで、問題らしきものが、起こっていない。
起こっていないだけで、これから、起こる可能性もあったのだ。
「一体、どこにいけば、金儲けになる話が、聞けるんだろうな」
「サノさん……」
「いいから、食べていろ」
ブスッとした顔を、井上が、滲ませていた。
(上手い。なぜ、こんな場所に、上手いものが。沖田さんたちにも、紹介したいが、連れてこられないし……)
不意に、井上の脳裏に、このところ、一緒にいることが多い、沖田や毛利、水沢の顔が浮かんでいたのだ。
だが、彼らのことを、考えている場合ではないと思い至り、頭を振って、打ち消していた。
目の前にある現実を、何とかしないと、意気込んでいたのだった。
「……心配してくれるなら、もう、出ましょうよ」
「それは、ダメだ」
いたずらな笑みを、原田が、漏らしていた。
こうした表情を、浮かべている時は、決して、動こうとしないのは、身に沁みてわかってはいたが、いち早く、ここから脱出したいと抱く、井上だった。
「諦めろ」
「後、二、三件は、きっと、回るぞ」
「表じゃ、飲めない酒も、あるしな」
「ロビンさんの目的は、酒ですか」
目を細め、はしゃいでいるロビンを、見つめている井上だ。
「そうだ」
ニカッと、笑っているロビン。
諦めの境地に入り、盛大な溜息を、井上が、吐いている。
ロビンが、追加の酒を、頼んでいたのだった。
鳥居やフラードも、新たなつまみを、追加していたのである。
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