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天翔ける龍のごとく  作者: 香月薫
第6章 双龍 前編
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第166話

 斉藤班が、情報交換している頃、原田班は、みすぼらしい居酒屋で、酒を飲んでいたのである。

 いつも、飲んでいる場所とは、違う場所だ。

 制服すら、着ていない。

 いつもよりも、酷い格好をしていたのである。


 普段、飲んでいるよりも、治安が悪い場所で、酒を飲んでいた。

 店内は、壁の至るところに、穴や隙間が開いていたのだった。

 その隙間からは、外の人の行き来も、見えていたのだ。

 内から、見ることができると言うことは、外を歩いている者も、店内の様子を窺うことができたのである。


「もう、三件目ですよ」

 ジト目な井上。

 この場を楽しんでいる原田を、睨んでいたのだった。


 だが、井上は、ソワソワして、身体が、落ち着いていない。

 それに対し、睨まれている原田は、飄々と、酒を飲んでいた。

 他のメンツも、同じだ。


「聞いていますか? サノさん」

 グビグビと、飲み干している原田。

「うるさいぞ」


 邪険に言うものの、ここから、井上を、出そうとはしない。

 井上の腕前を、疑ってはいないが、ここの場所に関しては、とても危険な区域でもあったのだ。

 原田自身も、一人で、ここに来ようとは、思わないほど、治安が悪かった。


 そのため、分散しようとはしないで、他の隊員たちも、一緒に行動をしている。

 何があっても、いいようにだ。

 原田たちは、こうした場所の入口付近の場所に、出入りした経験があったが、ここまでの深部に、入り込んだことがない。


「面白い話が、一つもないな」

 やや赤い顔で、鳥居が、零していた。

 違法で、造られた、強い度数の酒を、飲み続けたせいもあり、呂律も、少しだけおかしかったのだ。


 この辺一体で、出されている酒のほとんどが、違法によって、造られた酒が出されていたのである。

 食べ物も、普通の流通で、入ってきたものではない。

 けれど、味は、美味しいと、抱く面々だ。


 原田たちのテーブルには、酒の他に、数種類のつまみが、置かれている。

 とても、こんなボロいところで、出しているものとは、思えないほどの上手さだった。


「ホントに」

 相打ちを打っているロビン。

「次、行くのか?」

 辺りを窺っている、フラードだ。


 店内には、ちらほらと、客が飲んでいたのである。

 一人や、二人でだった。

 外の騒々しさはとは違い、ここの店は、どの客も、おとなしく、酒を飲んでいたのだった。


「なかなか、金儲けになる話が、聞けないな」

 逡巡している、原田だった。


 原田班は、情報収集と酒を飲むため、治安が悪く、あまり、入り込むことがなかった区域にある酒場に、入り浸っていたのである。

 だが、どこを巡っても、情報を得られない。

 皆、口が堅かった。

 話しかけても、無視されたりしていたのだ。


 ここにくれば、何か得られない情報が、入るかと抱いた。

 危険を承知で、危険な区域まで、足を運んでいたのだった。

 ただ、当初から、ここに来ることを、井上が反対していた。

 自分たちでも、手に負えない場所の一つだったからだ。


 客たちの顔は、どの顔も、一筋縄では、いかなそうである。

 粋がっているやつらが、来たのかと言う程度しか、思われていないようだった。


 緩和剤として、井上がいるおかげで、これまで、問題らしきものが、起こっていない。

 起こっていないだけで、これから、起こる可能性もあったのだ。


「一体、どこにいけば、金儲けになる話が、聞けるんだろうな」

「サノさん……」

「いいから、食べていろ」

 ブスッとした顔を、井上が、滲ませていた。


(上手い。なぜ、こんな場所に、上手いものが。沖田さんたちにも、紹介したいが、連れてこられないし……)


 不意に、井上の脳裏に、このところ、一緒にいることが多い、沖田や毛利、水沢の顔が浮かんでいたのだ。

 だが、彼らのことを、考えている場合ではないと思い至り、頭を振って、打ち消していた。

 目の前にある現実を、何とかしないと、意気込んでいたのだった。


「……心配してくれるなら、もう、出ましょうよ」

「それは、ダメだ」

 いたずらな笑みを、原田が、漏らしていた。

 こうした表情を、浮かべている時は、決して、動こうとしないのは、身に沁みてわかってはいたが、いち早く、ここから脱出したいと抱く、井上だった。


「諦めろ」

「後、二、三件は、きっと、回るぞ」

「表じゃ、飲めない酒も、あるしな」

「ロビンさんの目的は、酒ですか」

 目を細め、はしゃいでいるロビンを、見つめている井上だ。


「そうだ」

 ニカッと、笑っているロビン。

 諦めの境地に入り、盛大な溜息を、井上が、吐いている。


 ロビンが、追加の酒を、頼んでいたのだった。

 鳥居やフラードも、新たなつまみを、追加していたのである。


読んでいただき、ありがとうございます。

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