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天翔ける龍のごとく  作者: 香月薫
第6章 双龍 前編
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第164話

 鳴瀬大将の部屋。

 警邏軍の中でも、ひと際、大きな部屋だ。

 窓から眺める光景も、絶景だった。

 そして、休み部屋や、応接室なども、揃っていたのである。


 机の前で、座り込んでいる鳴瀬大将の前に、ガチガチに固まっている部下が、立ち竦んでいた。

 無言で凄んでくる鳴瀬大将。

 部下が、気圧されていたのである。


「……以上です」

 部下の声音が、か細い。

 双眸は、とても不安げだった。


 先ほどまで、沖田に関する報告を、終えたばかりだ。

 その間、何も挟まず、鳴瀬大将は、黙って聞いていた。

 ただ、威圧だけが、増していくだけで。

 その増している威圧感に、部下が、飲まれていたのだ。

 そのまま、部下も、口を閉じてしまう。

 必死に、無言の圧に、絶えていた。


「……いつ、都から、出たのかも、不明なのだな?」

「は、はい」

 背筋を伸ばし、部下が、答えていった。

 また、鳴瀬大将が、黙ってしまう。


 居た堪れず、視線を、彷徨わせる部下だ。

 見張らせていた者が、いつの間にか、沖田に撒かれ、完全に、行方を追うことに、失敗してしまったのだった。

 ただ、どこかの組織で、彼らよりも、張り付いていた者が、都の中で、始末されたようで、遺体すら残っていない。

 沖田が、遺体を片付けるとは、到底、思えないので、仲間が片付けたものと、判断したのだった。


 鳴瀬大将も、独自の部下を使って、大型新人である沖田を、探らせていた一人でもあった。

 表向きは、無関心を装い、静観する立場を、とっているように見せていたのだ。

 使えない部下に、心の中で、嘆息を吐いている。


(何を、考えているんだ、沖田は?)


 沖田の行動を読めないことに苦慮し、今後、どうすべきかと、頭を痛めていたのだ。

「……た、たぶんなのですが……」

 ギロリと、睨まれ、息を飲む部下。

 黙り込んでいる部下に、苛立つ視線を注いでいる。

「……先を言え」


「は、は、はい。……どこの組織も、沖田の行方を追うことが、できなかったのでは、ないでしょうか?」

 当たり前過ぎる返答。

 鳴瀬大将が、半眼している。

「……す、すいません」


「……で、父親は、どこにいる?」

「……調べているのですが、地方の、それも、荒れているところのようでして、所在を確認することが……」

 言葉を濁しているが、結局のところ、データがあるところに、現在は、住んでいなかったのだ。その後の転属場所も、探ってみても、移動した後で、未だに、所在を掴むことができなかったのだった。

 後手後手に、なっていたのだ。


「何をやっている」

「すいません。地方のことなので、管轄外のことは、どうしても……」

 汗が、ダクダクになっている、部下である。

 威厳があり、有無を言わせぬ風貌。

 なかなか、鳴瀬大将に対し、ものが言える人物が少ない。


 警邏軍には、地方にも、いくつかの、情報網を持っていたのである。

 だが、少なく、情報も、鮮度が高いとは、言えなかった。

 地方にいる外事軍と違って、地方の情報を得ることは、物凄く、難しかったのだった。


「他の組織は、どうなんだ? 外事辺りだと、掴めているんじゃないのか?」

 不甲斐ない部下ばかりで、憤っていた。

 そうした気持ちが、全身から、溢れ出している。

 そして、苛立つ要因として、目をかけていた部下の一人が、今回、都で起こっている殺しの事件の一つに、犠牲者の一人として、名が連なっていたのだ。


 目の前にいる部下は、幾人か、殺されている中の一人が、鳴瀬大将の部下だとは、知らない。

 だから、いつも以上に、不穏な姿に、なす術がなかったのである。


「……外事が、掴めているかは……」

 歯切れが悪く、使えない部下に、拳を机に叩きつけた。

 物凄い音に、部下が、飛び上がっている。

 外に控えている者にも、聞こえていた。

 けれど、入室してくる者がない。


 部屋に入らずとも、怒っていることを、察知していたのだ。

 そんなところに入る、気骨ある者なんて、いなかった。


「何をやっているんだ、お前たちは」

 語気が、僅かに強い。

「申し訳ありません」

 ただ、ただ、平謝るしかない。


 亡くなった部下は、とても優秀な部下で、このままいけば、自分の娘といずれ、結婚させようと思っていたのだ。

 殺された部下には、いくつかのことを、命じていたのだ。

 他にも、可愛がっていた部下が亡くなり、数を減らしていたのである。

 このところ、鳴瀬大将の機嫌が、すこぶる悪いのは、可愛がっている部下が、何者かによって、殺されていることもあったのだった。


「外事に、潜んでいる者は、何て言っているんだ?」

 鳴瀬大将の部下の一人が、外事軍の人間として、潜んでいたのである。

 そうした部下が、外事軍だけではない。

 他にも、存在していたのだ。


 ある程度、そうしたことで、情報を得ていたのだった。

 そして、そうした真似をしているのは、鳴瀬大将だけではない。

 警邏軍の部下にも、子飼いの部下を買っている者がいるだろうし、他の組織にも、そうした人間がいることは、心得ていたのである。


「ピリピリとしていると」

 抽象過ぎる言葉に、目を細めている。


(どいつも、こいつも、使えぬ者ばかりだ)


 不意に、土方の顔が、思い浮かんでいた。


(……)


 怒りを静めようと、息を吐いたのだ。

「とにかく、情報を、もっと集めろ」

「承知しました」

 返事と共に、瞬く間に、部下が、鳴瀬大将の部屋を出て行った。


 一人になった鳴瀬大将。

 強張っていた身体から、力が抜けていった。

 背凭れに、身体を預けている。

 頭が痛い出来事に、悩まれていたのだった。


読んでいただき、ありがとうございます。

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