第163話
ほぼ、明かりがない、万燈籠のトップの部屋。
部屋の中には、トップと、ナンバー五が、顔を合わしている。
他の者は、誰一人として、呼んでいない。
「ようやく、戻ってきたな」
「はい」
「地方に、いっていたのか」
嘲笑しているトップ。
その顔は、決して、見えない。
ナンバー五から、長期休暇から、復帰した沖田が、実家へ帰っていたと言う報告を、受けていたのである。
直属の部下には、無駄なことはするなと、探らせていなかったのだ。
復帰した沖田の話を、仕入れてきたものを、まとめて、伝えていた。
「血眼になって、捜していたようです」
自分たちの仲間も、沖田の行方を、捜していた。
ただ、内部で、反目しているだけだ。
「随分と、無駄なことを、していた訳だな」
「はい」
こちら側としては、沖田に関しては、静観する立場を、取っていたのである。
組織の中には、納得できない者もいたのだ。
そうした者たちが、沖田のことを探っていた。
ただ、興味深い人材でもあるので、ある程度、遠くの方で、様子を窺っている程度だった。だから、今回の件に関しても、行方を晦ましたことは、承知していたが、決して、その行方を、掴もうとはしなかった。
そのうち、戻ってくるだろうと、巡らせていたのだ。
それと同時に、沖田の怒りを買って、いい人材を失いたくなったのだった。
「で、本当に、地方にいっていたと、思うか?」
目の前に立つナンバー五の顔を、トップが、見上げている。
広い警邏軍のビルの中に、万燈籠が使用している部屋が、人知れず、存在していた。
万燈籠の上層部しか、使用しない部屋だ。
末端の者は、部屋があることも知らない。
「わかりません。ただ、各地のお土産を、配っていますたが」
警邏軍の中で、沖田は、各地で買ったと思われる、お土産を配っていたのだ。
ある意味、定番のお土産のため、本当にいっていたのか、隠すために、どこかで買ったのかまで、経路が不明だった。
「父親を捜すため、地方を巡っていたか……」
逡巡しながら、トップが呟いていた。
「それも、本当か、どうかは……」
歯切れが悪い、ナンバー五だ。
「どこかの組織は、父親の行方を捜して、調べさせるかな?」
「さて、そこまでするか、どうか……」
「そうだな。でも、随分と、面白いやつだな」
ナンバー五の顔が、顰めっ面だ。
調べている側としては、苦労が絶えなく、面倒な相手だった。
それを、面白がっている上司。
「……探っている側としては、とても、厄介な相手です」
ナンバー五の声音が、やや低めだ。
「よかったな。私が、探るように、命じなくって」
茶化したような声だった。
「……命じられれば、やりますが?」
「やめておけ。沖田の尻尾を掴むのは、容易ならない。芹沢以上に、大変そうだ」
「……」
その通りだと、抱いているので、笑っている沖田の姿を掠め、思わず、閉口していた。
「で、お前は、何を貰ったんだ?」
「……チョコです」
「美味しかったか?」
「……はい」
ふふふと、笑っているトップだ。
警邏軍の中で、仕事をしているので、ナンバー五も、沖田直々に、お土産を渡された一人だった。
「あれは、芹沢以上だ」
「そんな気がします」
「だろう」
「……」
愉快そうにしている姿に、ジト目になりそうになり、必死に、ナンバー五が堪えていた。
不意に、トップの表情が変わる。
「ところで、巷で起きている、殺しについてだが?」
窺うような、トップの眼差し。
「中には、沖田が、やった説も、あるようですが。一応、アリバイも存在しますし、さすがに、沖田には、無理な気がしますね」
近頃、都で、起きている殺しについて、調べさせていたのである。
殺された側は、組織に組みしているところが、バラバラで、どういった意図で、殺されたのかも、未だに、判断がつかなかったのだ。
だが、どこかで、一つに、繋がっていると、踏んでいたのだった。
だから、調べさせていたのである。
何よりも、興味を抱いたからだ。
「そうだな。以前からあった、うちの一つだろう」
都では、殺しが絶えない。
ほぼ、毎日のようにあったのだ。
「はい。私も、そう思います。同じ人物が、やったと、思しきものも、用意しておきました」
数年前にも、似たような事件があった。
ナンバー五は、今回の数件の事件で、亡くなった者の画面と、以前あった、事件のものを出していた。
タッチパネルを操作し、確かめているトップ。
「確か、芹沢が、疑われていたな? あの時は?」
数年前に、起きた事件では、芹沢の仕業ではないかと、疑われていたのである。
記憶にないなと言う芹沢に、多少なりに、疑っていたのだ。
「はい。これで、芹沢がやっていないと、結論が出ました」
「そうだな」
「……手に入れたいと、思っているのですか?」
「……正直、興味はある。だが、無理だろうな」
背凭れに、トップが、背中を預けた。
そして、僅かに、天井を見上げている。
どこの組織も、人材不足に嘆いていたのだ。
「なぜ?」
「……ただの勘だ」
「……」
「念のため、探れるようなら、探ってくれ」
沖田よりも、惹かれていたのである。
「承知しました」
「それにしても、鳴瀬も、頭を痛めているだろうな」
くっくっと、楽しげに笑っているトップの姿に、ナンバー五が、嘆息を漏らしていたのだった。
読んでいただき、ありがとうございます。