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天翔ける龍のごとく  作者: 香月薫
第6章 双龍 前編
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第163話

 ほぼ、明かりがない、万燈籠のトップの部屋。

 部屋の中には、トップと、ナンバー五が、顔を合わしている。

 他の者は、誰一人として、呼んでいない。


「ようやく、戻ってきたな」

「はい」

「地方に、いっていたのか」

 嘲笑しているトップ。

 その顔は、決して、見えない。


 ナンバー五から、長期休暇から、復帰した沖田が、実家へ帰っていたと言う報告を、受けていたのである。

 直属の部下には、無駄なことはするなと、探らせていなかったのだ。

 復帰した沖田の話を、仕入れてきたものを、まとめて、伝えていた。


「血眼になって、捜していたようです」

 自分たちの仲間も、沖田の行方を、捜していた。

 ただ、内部で、反目しているだけだ。

「随分と、無駄なことを、していた訳だな」

「はい」


 こちら側としては、沖田に関しては、静観する立場を、取っていたのである。

 組織の中には、納得できない者もいたのだ。

 そうした者たちが、沖田のことを探っていた。


 ただ、興味深い人材でもあるので、ある程度、遠くの方で、様子を窺っている程度だった。だから、今回の件に関しても、行方を晦ましたことは、承知していたが、決して、その行方を、掴もうとはしなかった。

 そのうち、戻ってくるだろうと、巡らせていたのだ。

 それと同時に、沖田の怒りを買って、いい人材を失いたくなったのだった。


「で、本当に、地方にいっていたと、思うか?」

 目の前に立つナンバー五の顔を、トップが、見上げている。


 広い警邏軍のビルの中に、万燈籠が使用している部屋が、人知れず、存在していた。

 万燈籠の上層部しか、使用しない部屋だ。

 末端の者は、部屋があることも知らない。


「わかりません。ただ、各地のお土産を、配っていますたが」

 警邏軍の中で、沖田は、各地で買ったと思われる、お土産を配っていたのだ。

 ある意味、定番のお土産のため、本当にいっていたのか、隠すために、どこかで買ったのかまで、経路が不明だった。

「父親を捜すため、地方を巡っていたか……」

 逡巡しながら、トップが呟いていた。


「それも、本当か、どうかは……」

 歯切れが悪い、ナンバー五だ。

「どこかの組織は、父親の行方を捜して、調べさせるかな?」

「さて、そこまでするか、どうか……」

「そうだな。でも、随分と、面白いやつだな」


 ナンバー五の顔が、顰めっ面だ。

 調べている側としては、苦労が絶えなく、面倒な相手だった。

 それを、面白がっている上司。


「……探っている側としては、とても、厄介な相手です」

 ナンバー五の声音が、やや低めだ。

「よかったな。私が、探るように、命じなくって」

 茶化したような声だった。


「……命じられれば、やりますが?」

「やめておけ。沖田の尻尾を掴むのは、容易ならない。芹沢以上に、大変そうだ」

「……」

 その通りだと、抱いているので、笑っている沖田の姿を掠め、思わず、閉口していた。


「で、お前は、何を貰ったんだ?」

「……チョコです」

「美味しかったか?」

「……はい」

 ふふふと、笑っているトップだ。

 警邏軍の中で、仕事をしているので、ナンバー五も、沖田直々に、お土産を渡された一人だった。


「あれは、芹沢以上だ」

「そんな気がします」

「だろう」


「……」

 愉快そうにしている姿に、ジト目になりそうになり、必死に、ナンバー五が堪えていた。

 不意に、トップの表情が変わる。

「ところで、巷で起きている、殺しについてだが?」

 窺うような、トップの眼差し。

「中には、沖田が、やった説も、あるようですが。一応、アリバイも存在しますし、さすがに、沖田には、無理な気がしますね」


 近頃、都で、起きている殺しについて、調べさせていたのである。

 殺された側は、組織に組みしているところが、バラバラで、どういった意図で、殺されたのかも、未だに、判断がつかなかったのだ。


 だが、どこかで、一つに、繋がっていると、踏んでいたのだった。

 だから、調べさせていたのである。

 何よりも、興味を抱いたからだ。


「そうだな。以前からあった、うちの一つだろう」

 都では、殺しが絶えない。

 ほぼ、毎日のようにあったのだ。

「はい。私も、そう思います。同じ人物が、やったと、思しきものも、用意しておきました」


 数年前にも、似たような事件があった。

 ナンバー五は、今回の数件の事件で、亡くなった者の画面と、以前あった、事件のものを出していた。

 タッチパネルを操作し、確かめているトップ。

「確か、芹沢が、疑われていたな? あの時は?」


 数年前に、起きた事件では、芹沢の仕業ではないかと、疑われていたのである。

 記憶にないなと言う芹沢に、多少なりに、疑っていたのだ。


「はい。これで、芹沢がやっていないと、結論が出ました」

「そうだな」

「……手に入れたいと、思っているのですか?」

「……正直、興味はある。だが、無理だろうな」

 背凭れに、トップが、背中を預けた。

 そして、僅かに、天井を見上げている。

 どこの組織も、人材不足に嘆いていたのだ。


「なぜ?」

「……ただの勘だ」

「……」


「念のため、探れるようなら、探ってくれ」

 沖田よりも、惹かれていたのである。

「承知しました」

「それにしても、鳴瀬も、頭を痛めているだろうな」

 くっくっと、楽しげに笑っているトップの姿に、ナンバー五が、嘆息を漏らしていたのだった。


読んでいただき、ありがとうございます。

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