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天翔ける龍のごとく  作者: 香月薫
第6章 双龍 前編
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第160話

 とある地方で、僅かに、月明かりだけが、降り注ぐ、辺鄙な場所だ。

 そこに、呆然と、潤平が、立ち尽くしていた。

 仕事を終えたばかりで、その場に、佇んでいたのである。


 先ほどまでの殺気がない。

 今は、無気力だった。


 彼の前には、二つの遺体が、横たわっていた。

 数分前に、あっと言う間に、二人を殺していたのだ。

 二人は、声すら、上げることができない。

 突然、人が出てきたと思ったら、自分たちが、斬られていたからだった。


「霞んでいるな……」

 残念そうな声を、潤平が、漏らしていた。

 彼の意識に、もう、死んでいる二人のことがない。

 仕事を終えた時点で、彼らについての情報を、彼方に、消え去っていたのである。


「仕事が、終わったようだね」

「ああ」

 マオが、潤平の下へ、近づいていった。

 二人の息の根を、確かめることをしない。

 潤平を、信頼していたのだ。


 マオにせっつかれ、このところ、仕事をやらされていたのである。

 そのため、このところ、都や地方で、仕事をこなしていた。

 潤平自身、こんなに仕事を、するつもりはなかった。

 いつの間にか、マオにより、仕事をつめられていたのだった。


「後、いくつある?」

「後、二件だよ」

「ようやく、後、二件か」


 都で仕事をし、各地方を巡っていたのである。

 潤平よりも、動き回っていたのが、マオだ。

 仕事を終えると、その報告をするために、都などに帰って、すぐに、潤平の下へ戻ってきていた。

 都と潤平の間を、何度も、行き来にしていたのである。


「思いの他、順調だね」

 満足げな顔を、マオが、覗かせている。

「ソージは?」

「地方に、出ているみたいだよ」

「地方に?」

 首を傾げていた。


「長期休暇を貰って、地方にある実家に、帰っているみたい」

 逐一、沖田の情報をほしがる潤平のため、都に戻る際は、必ず、放っている部下たちから、沖田の状況を確かめていたのである。

「どこ?」

「そこまでは、わからない」

 渋面しているマオ。


 さすがに、沖田の実家まで調べるのは、危険過ぎた。

 だから、沖田の自宅の近くで、部下たちを待機させている。

 戻ってきたら、知らせるようにだ。


「他が、掴んでいる可能性は?」

「いくつか、あると思うけど……」

 悔しげな顔を、マオがしていた。

 表情を変えることもなく、潤平が、視線だけで、先を促した。

「同じ警邏軍の連中などは、簡単に手に入るだろうね。そして、他の組織も」

「だろうな」


「ソージたちが、都から出る前に、マオの部下たちのように、撒かれるとなると……」

「やらせる可能性があるね」

「だろうな。帰ってきたら、知らせてくれ」

「わかっている」

「けれど、ソージらしいな」


 楽しそうに、笑っている潤平。

 そうした潤平に、無性に、腹が立つマオだった。


「笑い事じゃないよ。おかげで、この情報を手に入れるの、どれだけ、大変だったんだから」

 険が滲んでいる瞳を注いでいる。

 だが、意に返さない潤平だ。

「そうか」

「そうだよ」


「もしかすると、近くに、いるのかもな」

「どうだろう」

 口角を上げている潤平を、見上げている。

 表情は、どこか不安げだ。


「何だ? マオ。言いたいことがあるなら、言え」

「……追加の仕事が、あるんだけど?」

 探るような、マオの眼差し。


 無理やり、仕事を押し込めた自覚があり、これ以上の仕事をさせることに、躊躇いを生じさせていたのである。

 だが、仕事をしてほしいと言うよりも、確実に、受けてほしかったのだった。


「……」

 黙り込む潤平に、あたふたとしてしまう。

 どうしても、受けて貰わないと、いけない理由があったからだ。

「どうしても、潤平に、やってほしんだって。たぶん、潤平じゃないと、できない仕事だと思うよ」


「これ以上は、仕事をしたくない」

「お願い」

 頼み込むマオ。

 いつもよりも、必死な形相を捉えている。

「……いくら、積まれた」


「……」

 徐に、マオが、視線を彷徨わせていた。

「いくらだ」

「……五倍」

 手のひらを広げている。


「金に、目が眩んだか」

 呆れた顔を、潤平が、覗かせていた。

「ごめん」

 素直に謝る。

 潤平の了承を得ず、勝手に、仕事を引き受けてしまったのだ。

 そして、お金も、前以って全額、受け取っていたのだった。


「だって、五倍だよ。それに、全額、前払い。こんないい話、ないよ」

「先に、貰っているのか?」

「勿論」

 ニコッと、清々しい顔を、滲ませていた。


「……しょうがないな」

「ありがとう」

「ソージの情報は、逐一、知らせること」

「わかった」

「移動するか」


「少し、休んでからにしようよ」

「ダメだ。ここを離れ、次のところへ、向かうぞ」

 ぷっくりと頬を膨らませながら、すでに、歩き出している潤平の後に、マオもついていった。


読んでいただき、ありがとうございます。

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