第159話
「街の中を、少しだけ、間引きしていた」
ケロッとした表情の沖田だ。
沖田やククリの回りには、幾人もの死体が、並んでいた。
誰一人、逃がすことがない。
最後まで、来ていた者たちを、すべて、仕留めたのだった。
乱闘しているにもかかわらず、聖以外、誰も、駆けつけてこない。
ケンカやいざこざは、当たり前に起こっていて、誰も、感心を向けていなかった。
「……様子を窺うだけのはずが、どうして、こうなるんだ? 説明してくれ」
まっすぐに、注がれる聖の眼光。
瞳が揺れている、ククリだった。
「……ごめん」
「ごめんじゃ、ないだろう?」
「聖は、どうして、ここに?」
不可思議そうな双眸を、沖田が、巡らせている。
予定では、聖は残って、リズたちの面倒を、見ることになっていたのだ。
千春たちも、行きたいと、駄々をこねていた。
だが、一切、つれてこなかったのである。
千春たちでは、まだ、早いと、判断したからだった。
「リズが、お前たちだけでは、心配だから、行ってくれって、言うからだ」
沖田とククリだけでは、きちんと、仕事ができないかもしれないと、心配したリズが、聖を向かわせたのだった。
(リズの意見が、正解だな……)
呆れた顔を、滲ませている聖。
まともに、聖の顔を見られない、ククリである。
「大丈夫なのに」
ニコニコ顔した沖田に、聖が、盛大に嘆息を漏らしていた。
「……どこがだ? 騒ぎが起こるぞ、これじゃ」
二人の周りの骸に、聖の視線が止まっている。
日常起きていることよりも、多くの死体があった。
ケンカの騒動で、こうなったとは、思えない状況だ。
厳しくなれば、外事軍などを探ることが、難しくなる可能性が、出てくるからだった。
「大丈夫だよ。調べるほど、暇じゃないと思うから」
「どこから、そんな安易な考えが、出てくる?」
「内緒。楽しみにしていて」
「「……」」
これ見よがしに、聖とククリが、溜息を吐く。
「ごめんね」
「「もう、いい。慣れている」」
「ありがとう」
「ところで、外事軍のところに、潜り込まなくっても、いいのか?」
「もう少し経ってから、行った方が、いいかな」
まだ、日が暮れるのに、時間があった。
「そうだな。連中も、見張りを残して、羽を伸ばしに、来るだろうからな」
夜になると、外事軍は、歓楽街に遊びにきていたのである。
どこの地方でも、同じだった。
「ソウ。他の外事軍に、目ぼしい物があったのか?」
窺うような聖の双眸。
「少しずつ、集まっているよ。二人にも、助かっているよ」
都から、離れられない沖田に代わり、聖やククリが、地方の外事軍に潜り込んで、いろいろな情報を、沖田に、渡していたのである。
中には、潜り込めず、諦めた場所もあった。
そうしたことも、リキを通じて、報告していたのだった。
リキも、ここに来るたびに、地方の情報を得るために、外事軍などに、忍び込んでいたのである。
「でも、まだ、情報が、足りないから。幾つかの影は、見つけることができたけど、それが、はっきりしないからね」
多くのピースが集まっても、まだ、穴だらけだった。
ただ、部分的には、形を成しているところもあったのである。
「そうか……」
どこか、残念そうな聖だった。
「大丈夫だ。私たちが、やっているんだ」
自信に満ちたククリの眼光が、ニッコリと、笑っている沖田を捉えていた。
「だね」
軽く、息をつく聖だ。
「……どこから、その自信が、出て来るんだか」
「せっかくだから、三人で、小手調べとして、近くに、忍び込んで見る?」
「面白そうだな」
沖田の何気ない提案。
いつになく、ノリノリなククリに対し、聖の表情は、渋面だった。
幼い沖田たちは、よく、忍び込んで、いたずらなどして、大人たちをからかって遊んでいた。その仲間たちのだいぶ部分が、行方不明となっていたのである。
「深入りは、しないからな。ちゃんと、この後、やることも、あるんだからな」
きっちりと、聖が、釘を刺していた。
そうしないと、二人は、暴走しがちだった。
「「わかった」」
三人して、さらに、路地裏深く、入り込んでいった。
だいぶ、日が暮れてから、三人は、外事軍に忍び込み、外事軍の者に、誰一人として、気づかれないまま、外事軍の内部に、進んでいく。
最初は、あまり、やる気のなさそうな聖だったが、次第に、聖の頬も緩んでいき、ククリと共に喜々として、楽しんでいたのだ。
外事軍の内部に、ひっそりと隠されている、メインコンピューターに、容易に沖田が入り込んでいた。
あらゆる情報を、物凄いスピードで見ている。
その表情は、不敵に笑っていたのだ。
「……漸くか」
欲しい情報を、手に入れていた。
だが、すべてではない。
「……これで……」
瞳の奥には、赤く燃え上がらせている炎が、宿っていた。
「……それにしても、思っている以上に、ヤバい状態だって、わかっているはずなのに、こんなに放置しちゃって。ホント、外事軍は、仕事をしないな」
如何に、外事軍の人間が、仕事をせず、怠慢しているのかまで、把握することができていた。
ククリや聖、リキが、外事軍に入り込んでも、メインコンピューターまで、手を出すことができなかったからだ。
こういうことに関しては、沖田以上の適任者がいない。
ある程度、情報を得た。
内部のコンピューターに、容易く、細工を施していたのである。
「少しは、仕事をして貰いましょうか。遊んでいる罰を、しっかりと受けようね」
迅速、かつ、鮮やかな速さで、キーボードを打っていく。
表情が、屈託もない笑みを漏らしていた。
ちょうど、施しが終わったところで、沖田の下へ、聖とククリも、駆けつけていた。
コンピューター室にいる人間は、眠りについている。
誰も、起きる気配がない。
沖田が、室内に入り込む直前に、眠り薬を使って、眠らせたのだった。
「終わったのか」
ククリが、いつもの調子に、話しかけた。
周りの様子を、気にすることもない。
信頼しきっていたのだ。
「終わったよ」
微笑む沖田だ。
「こちらも、面白い情報を得た」
やりきった顔を、聖が、覗かせていた。
「楽しそうだね。聖は」
含みのある、沖田の双眸。
ばつが悪そうな顔をする聖だった。
久しぶりに、三人での行動に、はしゃぎで、結構なところまで、忍び込み、危険スレスレなところまで、やってしまっていたのだ。
二人ともである。
「リズには、内緒にしてあげるね。勿論、ククリもね」
「「……」」
ククリも、聖と同じように、危険な真似をしていたのである。
「騒がれる前に、帰ろうか」
「「絶対に、リズには、言うなよ」」
「わかっているよ。二人とも」
ジト目で、睨んでいる二人。
バラされた経験が、何度も、あるからだ。
半眼されても、痛くも、痒くもない沖田だった。
(……今回は、どうしようかな。でも、心配させたくないから、ホントに、今回は、黙ってあげようかな)
「さ、帰ろう」
「「……そうだな」」
三人は、軽快な足取りで、外事軍から離れていく。
読んでいただき、ありがとうございます。