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天翔ける龍のごとく  作者: 香月薫
第6章 双龍 前編
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第159話

「街の中を、少しだけ、間引きしていた」

 ケロッとした表情の沖田だ。


 沖田やククリの回りには、幾人もの死体が、並んでいた。

 誰一人、逃がすことがない。

 最後まで、来ていた者たちを、すべて、仕留めたのだった。


 乱闘しているにもかかわらず、聖以外、誰も、駆けつけてこない。

 ケンカやいざこざは、当たり前に起こっていて、誰も、感心を向けていなかった。


「……様子を窺うだけのはずが、どうして、こうなるんだ? 説明してくれ」

 まっすぐに、注がれる聖の眼光。

 瞳が揺れている、ククリだった。

「……ごめん」


「ごめんじゃ、ないだろう?」

「聖は、どうして、ここに?」

 不可思議そうな双眸を、沖田が、巡らせている。

 予定では、聖は残って、リズたちの面倒を、見ることになっていたのだ。


 千春たちも、行きたいと、駄々をこねていた。

 だが、一切、つれてこなかったのである。

 千春たちでは、まだ、早いと、判断したからだった。


「リズが、お前たちだけでは、心配だから、行ってくれって、言うからだ」

 沖田とククリだけでは、きちんと、仕事ができないかもしれないと、心配したリズが、聖を向かわせたのだった。


(リズの意見が、正解だな……)


 呆れた顔を、滲ませている聖。

 まともに、聖の顔を見られない、ククリである。


「大丈夫なのに」

 ニコニコ顔した沖田に、聖が、盛大に嘆息を漏らしていた。

「……どこがだ? 騒ぎが起こるぞ、これじゃ」

 二人の周りの骸に、聖の視線が止まっている。


 日常起きていることよりも、多くの死体があった。

 ケンカの騒動で、こうなったとは、思えない状況だ。

 厳しくなれば、外事軍などを探ることが、難しくなる可能性が、出てくるからだった。


「大丈夫だよ。調べるほど、暇じゃないと思うから」

「どこから、そんな安易な考えが、出てくる?」

「内緒。楽しみにしていて」

「「……」」

 これ見よがしに、聖とククリが、溜息を吐く。


「ごめんね」

「「もう、いい。慣れている」」

「ありがとう」

「ところで、外事軍のところに、潜り込まなくっても、いいのか?」

「もう少し経ってから、行った方が、いいかな」

 まだ、日が暮れるのに、時間があった。


「そうだな。連中も、見張りを残して、羽を伸ばしに、来るだろうからな」

 夜になると、外事軍は、歓楽街に遊びにきていたのである。

 どこの地方でも、同じだった。


「ソウ。他の外事軍に、目ぼしい物があったのか?」

 窺うような聖の双眸。

「少しずつ、集まっているよ。二人にも、助かっているよ」


 都から、離れられない沖田に代わり、聖やククリが、地方の外事軍に潜り込んで、いろいろな情報を、沖田に、渡していたのである。

 中には、潜り込めず、諦めた場所もあった。

 そうしたことも、リキを通じて、報告していたのだった。

 リキも、ここに来るたびに、地方の情報を得るために、外事軍などに、忍び込んでいたのである。


「でも、まだ、情報が、足りないから。幾つかの影は、見つけることができたけど、それが、はっきりしないからね」

 多くのピースが集まっても、まだ、穴だらけだった。

 ただ、部分的には、形を成しているところもあったのである。

「そうか……」

 どこか、残念そうな聖だった。


「大丈夫だ。私たちが、やっているんだ」

 自信に満ちたククリの眼光が、ニッコリと、笑っている沖田を捉えていた。

「だね」

 軽く、息をつく聖だ。

「……どこから、その自信が、出て来るんだか」


「せっかくだから、三人で、小手調べとして、近くに、忍び込んで見る?」

「面白そうだな」

 沖田の何気ない提案。

 いつになく、ノリノリなククリに対し、聖の表情は、渋面だった。

 幼い沖田たちは、よく、忍び込んで、いたずらなどして、大人たちをからかって遊んでいた。その仲間たちのだいぶ部分が、行方不明となっていたのである。


「深入りは、しないからな。ちゃんと、この後、やることも、あるんだからな」

 きっちりと、聖が、釘を刺していた。

 そうしないと、二人は、暴走しがちだった。

「「わかった」」

 三人して、さらに、路地裏深く、入り込んでいった。




 だいぶ、日が暮れてから、三人は、外事軍に忍び込み、外事軍の者に、誰一人として、気づかれないまま、外事軍の内部に、進んでいく。

 最初は、あまり、やる気のなさそうな聖だったが、次第に、聖の頬も緩んでいき、ククリと共に喜々として、楽しんでいたのだ。


 外事軍の内部に、ひっそりと隠されている、メインコンピューターに、容易に沖田が入り込んでいた。

 あらゆる情報を、物凄いスピードで見ている。

 その表情は、不敵に笑っていたのだ。


「……漸くか」

 欲しい情報を、手に入れていた。

 だが、すべてではない。


「……これで……」

 瞳の奥には、赤く燃え上がらせている炎が、宿っていた。

「……それにしても、思っている以上に、ヤバい状態だって、わかっているはずなのに、こんなに放置しちゃって。ホント、外事軍は、仕事をしないな」


 如何に、外事軍の人間が、仕事をせず、怠慢しているのかまで、把握することができていた。

 ククリや聖、リキが、外事軍に入り込んでも、メインコンピューターまで、手を出すことができなかったからだ。

 こういうことに関しては、沖田以上の適任者がいない。


 ある程度、情報を得た。

 内部のコンピューターに、容易く、細工を施していたのである。


「少しは、仕事をして貰いましょうか。遊んでいる罰を、しっかりと受けようね」

 迅速、かつ、鮮やかな速さで、キーボードを打っていく。

 表情が、屈託もない笑みを漏らしていた。


 ちょうど、施しが終わったところで、沖田の下へ、聖とククリも、駆けつけていた。

 コンピューター室にいる人間は、眠りについている。

 誰も、起きる気配がない。

 沖田が、室内に入り込む直前に、眠り薬を使って、眠らせたのだった。


「終わったのか」

 ククリが、いつもの調子に、話しかけた。

 周りの様子を、気にすることもない。

 信頼しきっていたのだ。

「終わったよ」

 微笑む沖田だ。


「こちらも、面白い情報を得た」

 やりきった顔を、聖が、覗かせていた。

「楽しそうだね。聖は」

 含みのある、沖田の双眸。

 ばつが悪そうな顔をする聖だった。


 久しぶりに、三人での行動に、はしゃぎで、結構なところまで、忍び込み、危険スレスレなところまで、やってしまっていたのだ。

 二人ともである。


「リズには、内緒にしてあげるね。勿論、ククリもね」

「「……」」

 ククリも、聖と同じように、危険な真似をしていたのである。


「騒がれる前に、帰ろうか」

「「絶対に、リズには、言うなよ」」

「わかっているよ。二人とも」

 ジト目で、睨んでいる二人。


 バラされた経験が、何度も、あるからだ。

 半眼されても、痛くも、痒くもない沖田だった。


(……今回は、どうしようかな。でも、心配させたくないから、ホントに、今回は、黙ってあげようかな)


「さ、帰ろう」

「「……そうだな」」

 三人は、軽快な足取りで、外事軍から離れていく。


読んでいただき、ありがとうございます。

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