第158話
街の中を、ククリと共に、歩いている沖田だ。
その格好は、普段に、近いいでたちのククリに対し、沖田は、見目美しい女装を施していた。
メイクを担当したのは、勿論、リズだ。
楽しげに、メイクをするリズ。
子供たちも、いろいろと、手伝っていたのである。
脇では、ククリや聖たち、マリアたちが、何とも言えない顔を、覗かせていたのだった。
リキだけが、呆れ顔を見せていた。
街は、普通に、半妖も歩いており、半妖に対し、訝しげる者が少ない。
そして、様々な容姿をした半妖の姿が、溢れていた。
日常の中で、人と半妖が、共存し、暮らしている。
中心である都から、離れている地方では、普通の人間の姿が少なく、半妖の姿が、支流となっているところも、多く存在していたのだ。
だが、表向きには、そうした村や街は、存在が失われていた。
「……」
二人並んで、歩いているが、表情は、対照的だ。
ククリは、ブスッとした顔で、沖田は、優しく微笑んでいた。
すれ違う人たちが、二人を、凝視していたのだ。
派手な化粧をしなくっても、沖田自身の顔の造りがいいため、人目を惹いていたのである。
薄化粧でも、人を振り向かせるほどの、可憐さを、醸し出されていたのだった。
「どうしたの? ククリ」
さらに、頬をあげ、愛らしい仕草をしてみせる。
あちらこちらから、つばを飲み込む音が、聞こえていた。
先ほどよりも、ククリが、顔を顰めている。
「……何で、そんな格好している?」
「だって、目立つでしょう」
「逆に、目立ち過ぎているぞ?」
沖田の素性を、隠すための変装でもあった。
周囲を窺うククリ。
悪目立ちしているしか、思えない。
さらに、自分たちに向ける双眸が、多くなってきていたのだった。
寄り添って歩き、顔の造りが、いい二人。
恋人同士に見られ、男にも、女にも、羨ましそうに、眺められていたのである。
「そう?」
愛らしく、首を傾げる沖田の仕草。
男たちが声を漏らし、女たちも、僅かに、声が漏れている。
「……わざと、だろう?」
「うん」
満面の笑みを零している。
周囲のどよめきが、凄いことになっていた。
周りの反応を見て、沖田が、楽しんでいたのだった。
ククリが、頭を抱え込む。
けれど、現状が、好転する訳ではない。
歩けば、歩くほど、悪い方へ、傾いていった。
「だって、普通に、歩いていたら、面白くなさそうだし、こうしたら、きっと、面白いことになるって」
「……」
ガン見しなくっても、いやな状況を把握できる自分が、つくづく、いやになり、ククリは、遠い目になってしまう。
沖田とククリの背後。
ある程度、距離が開いている状況で、男も、女も、後をつけていたのだった。
最初は、一人か、二人で、いつしか、その規模は、二ケタの単位になっていた。
二人の美しさに、興味本位な人や、人攫いの家業をついている者など、様々な理由で、連なっていたのである。
そうした状況に、ククリだけが、頬を引きつらせていたのだ。
ワクワクと、沖田が、目を輝かせていた。
「どうするんだ? この状況を」
苦々しい形相し、楽しんでいる沖田を捉えていた。
「ある程度、遊んだところで、面倒な人たちは、逝って貰おうかな」
微笑んでいる顔には、似つかないセリフだ。
「お前な……」
「その方が、みんなのためでしょう?」
「……わかった」
腕の立つ聖やククリが守っていても、人攫いに攫われる可能性も、多くあったのだ。
だから、沖田は、そうしたことが、少しでもなくなるように、その数を減らそうとしていた。
当初の目的は、街の中の様子を窺うことと、外事軍のことを、探ることだった。
地方と言うこともあり、街には、多くの外事軍がいる。
勿論、外事軍の者たちも、二人に、目を見張り、中には、後をついて来る者までいたのだ。
沖田も、ククリも、歩き方や、ちょっとした仕草で、どういう職種のものかと、判断ついていたのだった。
仕事もしないで、自分たちに、付きまとっている外事軍たちに、ついつい、冷めた眼差しになってしまう。
(バカな連中だな、どいつも、こいつも)
地方出身の者で、外事軍を好きな者は、多くいない。
そこまで、外事軍の内部は、廃れていたのだ。
都にいては、深く外事軍の動きを、探ることもできない。
いい機会と言うこともあり、沖田は、各地の外事軍の動きを、窺っていたのである。
街の中を、さらに、歩き回っていた。
徐々に、面倒な人たちだけが、残っていく。
顔を、僅かに見合わせた。
阿吽な呼吸で、確かめた二人。
言葉を交わさなくっても、二人の中で、段取りは、ついていたのだった。
路地裏に引き込んでいき、何度か、角を曲がったところで、彼らの前から、二人は一瞬で、姿を晦ましていた。
追いかけていた者たちは狼狽え、消えた二人を、キョロキョロと、捜し捲くっていく。
だが、姿を、見つけることができない。
慌ただしく、捜す彼らだ。
そうした中、ククリが、姿を見せた途端、彼らの動きが、いっせいに止まっていた。
表情を変えることがない、ククリ。
素早い動きで、追いかけてきた者たちを、次々と、仕留めていった。
女装した沖田も、姿を見せる。
沖田目掛けて、にやりと、笑う者たちが続出していた。
それに対し、沖田も、艶やかな笑みを零している。
戦いの手を、ククリが、緩めることがない。
まして、沖田のところに、向かうこともしなかった。
けれど、僅かな意識だけが、沖田たちの方へ、巡らせていたのだ。
(バカか。ソウ相手に、適う者なんて、いないのに)
襲ってくる者たちを、容赦することなく、沖田が、仕留めていった。
無駄な動きなんて、一つもない。
こういった野蛮な行為に、慣れているはずの者でさえ、鮮やかな動きに、逃げ出すことも叶わなかった。
自分たちをつけ狙っていた者たちを、二人して、僅かな時間だけで、仕留めていったのである。
片付け終わったところで、聖が、二人に声をかけてくる。
「何を、やっているんだ?」
その顔には、眉間にしわが寄っていた。
二人は、聖の存在に、気づいていたのだ。
聖も、助太刀する真似はしない。
自分が加わらなくっても、大丈夫だと、判断したからだ。
だから、静観していたのである。
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