第156話
都の検問所から、萌たち脱出するのを隠れて、窺っていた沖田やククリたち。
検問所には、長い列が、でき上がっている。
いつもと、変わり映えのない光景でもあった。
それぞれの理由で、地方へと、行く人たちだ。
都の外に出るには、検問所を通るしかない。
検問所は、東西南北に、一つずつあり、毎日、長蛇の列ができていた。
長い列の中に、萌たちの姿が、見えていたのだ。
検問所から、外に出るため、萌たちやリキに、偽造した身分証明書を渡し、検問所から出る手はずになっていたのである。
目立つ沖田や、半妖のククリたちは、密かに、都から脱出するため、二手に分かれていた。
検問所を通らずとも、出る方法は、いくつもあったのだ。
ただ、萌たちに、何かあってはいけないと巡らせ、無事に、脱出するまで、沖田たちが見守っていた。
千春の腕の中では、スヤスヤと、眠っている百合である。
見た目でもわかる百合は、沖田たちが、連れ出すことになっていた。
気持ち良さそうに、寝ている百合。
雪が、覗き込んでいたのだ。
興味津々な眼差しを向けている。
「ずっと、眠っているね」
「赤ちゃんだからね。眠ることも、仕事だから」
ニコニコ顔の沖田が、口に出していた。
「そうなんだ」
沖田たちがいる場所は、ビルの屋上で、冷たい風が、吹き込んでいたのだ。
まだ、赤ちゃんの百合が、寒くないように、暖かい布で包まれ、しっかりと、千春が抱いていたのだった。
ククリの瞳は、検問所にいる萌たちに、注がれている。
緊張し、張りつめた双眸だ。
何があってもいいように、身構えていた。
「大丈夫だよ」
「ソウ……」
無神経な沖田。
ククリが、ジト目になっていた。
「リキがついているし、平気だよ。ゆっくりと、見ていればいいよ」
ククリとは違い、沖田は、百合と戯れたり、高い位置から、都の様子を観察していたのだ。
「……」
ほんわかとしている姿に、次第に、ククリ自身も、安心していくが、それを口に出すことはしない。
ムスッとしたままのククリ。
目の前にいる沖田が、いい気になるだけだからだ。
「今のうちに、ミルクやおしめを、替えておく?」
小さい子を見ることに、千春は、手馴れている。
ククリも、面倒を見ることができたが、瞬時に、対応できるように、千春に任せていたのだった。
二人とも、地方いた時や、見世物小屋にいた際も率先して、小さい子の面倒を見ていたので、そうしたスキルも、高かったのだ。
「ミルクは、起きた時で、大丈夫だろう。おしめだけは見て、ダメだったら、取り替えておいた方が、いいだろう」
てきぱきとしたククリの指示に、楽しそうに返事し、手早く、その場で、おしめの有無を確認し、慣れた手つきで、おしめを替えていく。
その様子を、じっと、雪が見ていたのだった。
そうしている間にも、萌たちの順番が来ていて、何の問題もなく、検問所を通っていたのである。
「じゃ、ここを離れて、萌たちと、落ち合おうか」
のん気な口調な沖田。
「そうだな」
おしめを替えている間も、眠っていた百合を抱き、千春の準備も、万全に整っていた。
五人で、検問所を通らず、都から外へ、出て行く面々。
雪だけは戸惑いつつも、ククリが、慣れていない雪の面倒を、窺っていたのだった。
沖田たちと、萌たちは、都の外で、落ち合うことになっていたのである。
そして、沖田の母がいる地方へと、向かう手はずになっていたのだ。
だが、沖田とリキだけは、少し遅れて、沖田の母美和がいるところへ、行く予定になっていた。
その間の、萌たちの護衛と面倒を、ククリが、見ることになっていたのだ。
ククリたちが、美和のところへ着いてから、三日後に、沖田とリキが、美和が住まうマンションに顔を出していた。
部屋の中は、賑やかだった。
マンションの中では、リズや聖、後、知らない顔触れが、いくつかあった。
「リズやククリが、つれてきたんだ。ほっとけないって」
困ったと言いながら、聖も、率先して、面倒を見ていたのである。
ほっとけない子供たちを見るたび、美和の同意の下で、美和のマンションに連れてきていたのだった。
「リズやククリらしいね」
笑っている沖田。
リズたちから、少し離れた位置に、マリアや乃里がいて、さらに萌がいた。
マリアの腕の中に、百合もいたのである。
基本的に、百合は、マリアや乃里が、世話を焼いているが、千春たちも、マリアたちの断りを取ってから、面倒を見ていたのだった。
「元気していた?」
のほほんと沖田が、マリアたちに、声をかけていた。
(まだ、慣れる訳が、ないだろうが)
呆れ顔を、覗かせているリキ。
決して、口に出さない。
慣れない半妖に、戸惑っているのに、剛毛に覆われた者や、金色の目をした者、人間の見た目から、程遠い者たちが、この部屋には、溢れていたのである。
街の中も、人間と半妖の割合が、半々と、なっていたのだった。
そうした状況下で、今まで、見たことがない半妖に触れ、狼狽えない人間なんか、いないと、リキが抱いていたのだ。
チラリと、マリアと乃里が、強張っている萌を窺っていた。
当初、来たよりかは、落ち着きが出てき始めていたのである。
だが、未だに、半妖に対し、萌だけが、拒絶していたのだった。
「……まぁね」
「そう、それは、よかった」
「リズ。母さんは?」
「仕事よ」
「ちゃんと、帰ってきているの?」
「このところ、忙しくって、帰ってこないの。でも、ソウちゃんが、来ることは、伝えてあるから、来たって、連絡しておくね」
「別に、いいけど?」
「ダメよ。ちゃんと、会わないと」
めっと言う顔を、リズが、沖田に注いでいた。
「わかった。ククリは?」
「訓練しに、いっている。もうすぐ、戻ってくると思うわ」
「そうか。で、聖が、面倒を見ているんだね」
子供たちに、大人気の姿に、クスッと、笑っている沖田だった。
ごわごわする聖の身体に、小さな子供たちが、張り付いていたのである。
きゃ、きゃと、声をあげ、遊んでいたのだった。
どの子も、キラキラと、瞳を輝かせている。
(ここは、賑やかだな)
いつの間にか、子供たちは、リキとも、遊んでいた。
物を届けに、時より、リキが訪れていたので、子供たちも、慣れていたが、沖田に対し、リズや聖の背後に隠れ、警戒心と、好奇心旺盛な目で、覗き込んでいたのである。
大丈夫、美和さんの息子さんだよと、リズが言うと、沖田に対し、警戒心をあっと言う間に解いていたのだ。
いつしか、沖田の周りにも、子供たちがまとまりつき、慣れた手つきで抱き上げ、子供たちを、構ってあげていた。
そうした、ほのぼのしている光景を、マリアや乃里たちが、感心した眼差しを巡らせている。
ただ、じっと、萌は、窺っていたのだ。
そして、マリアが抱いている、自分が、生んだ子である百合を、捉えていた。
騒がしい声で、目が覚めることなく、スヤスヤと、百合が眠っている。
「聖。街の様子は、どうなの?」
子供たちを構いながら、沖田が尋ねていた。
「今のところは、落ち着いている。もっと、離れたところだと、わからないが、たぶん、当面は、この街は、大丈夫だと思う」
「そう」
ここを訪ねる前に、沖田とリキは、いくつかの地方を巡っていた。
その中には、酷いところもあったのだ。
「ソウ。お前の方は、どうなんだ? 無茶しているって、聞いているぞ」
聖の声音が、険を帯びえていた。
リキやククリから、沖田の様子を、聞いていたのである。
無茶する沖田を、離れた場所から、案じていたのだった。
困ったなと言う顔を、沖田が、滲ませている。
子供たちと、遊んでいるリキ。
視線を傾けるものの、向けられたリキは、知らん顔だ。
(チクッた上に、助けてくれないなんて、酷いな、リキは)
「ソウ。いくら、腕に自信があるからって、慢心していると、いつか、痛い目に会うからな」
「わかっているって。ホント、聖は、心配性なんだから」
「無茶をする、ソウやククリを止めるのは、俺の役目だ」
胸を張っている聖だった。
「そうだね」
二人の他愛もない、やり取りに、リズが、笑っていた。
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