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天翔ける龍のごとく  作者: 香月薫
第6章 双龍 前編
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第155話

 ドアが開いたことで、彼女たちに、大きな戦慄が走っていた。

 少し遅れる形で、ククリが、身構えている。

 その表情は、緊張を帯びていたのだ。


 微笑みながら、平然と、室内に、沖田が入ってきた。

 誰もが、ホッと、胸を撫で下ろす。

 徐々に、毎度、同じ行動をとる沖田に、頬を引きつらせている面々だ。

 沖田の背後から、リキが、やれやれと言った顔で、小屋の中に、入ってきていたのだった。


 いつもの光景が、そこにあった。

「怒るな。俺は、止めたからな」

 無実を、訴えているリキだ。

 一緒にやっているとは、思われたくなかったのだった。

 けれど、事前に知られないリキに対しても、同罪だと、巡らせていたのである。


(何で、俺まで、怒られるんだ? 理不尽だ……)


「元気」

 ニコニコ顔を、振り撒いている。

 気持ちが、落ち着き始めると、次第に、沖田の頬に、貼ってある白いテープに、眼光が集まっていた。

「……どうした? ソウ、それは……」

 誰よりも、ククリが、驚きを隠せない。


 沖田の頬を、指差している。

 その指は、若干、震えていた。


 まさか、沖田が、ケガをするほど、強い相手と、戦ったのかと、背中に戦慄が走っていたのである。

 光之助や葵の目も、大きく、見開いていたのだ。

 このところ、互いに忙しく、顔を合わせていない。

 ケガしたと、噂が流れていたが、信じていなかったのだった。


「ああ。これ」

 のん気な声を共に、テープを剥がす沖田。

「バ、バ、バカ。剥がすな。ケガをしているのに……」

 慌てふためきながら、ククリが、沖田の行動を止めようとしている。

「大丈夫だ。大したケガじゃないから」

 ニコッと、笑っていた。


「本当なのか?」

 胡乱げな眼差しを、注いでいる。

 大丈夫と言い、何度か、大きなケガをしていた出来事が、あったからだ。

「本当だよ。ホント、心配性だね、ククリは」

 笑いながら、沖田が、頬に貼ってあるテープを、剥がしたのだった。


 傷跡が、薄っすらと残っているものの、跡が残るとは、思えなかった。

 確認し、安堵の表情を浮かべる面々だ。


「どんな強い相手だったの」

 興味津々な双眸を、巡らせている千春。

 戦い方を、ククリから学び始め、戦いに興味を持ち始めていたのである。

「しつこい感じ。でも、これは、わざと、受けたんだ」

 ケロッと、とんでもないことを、暴露した。


「わざとって……」

 ククリが、表情が、渋面になっている。

 沖田の隣に立つリキ。

 盛大に、溜息を吐いていた。

 リキには、すでに、話していたのである。


 それを耳にし、朗らかな笑みを携えている沖田を、ジト目で、睨んでしまっていた。

 楽しそうに、沖田がことの顛末を話して、皆に、聞かせたのだった。

 勿論、芹沢のことは、口にしない。

 土方に、ムカつくことを言われ、その意趣返しで、やったことを語ったのだ。


 どの顔も、顰めっ面だった。

 ククリは、被害を受けた土方に対し、憐れみな形相に、なっていたのである。

「その副隊長殿は……」


「無茶しないで。私たちには、あなたが頼りなのよ」

 心配げな顔で、マリアが窘めていた。

「……それは、すまなかった」

「ホントよ」

 乃里の顔も、いつもの表情に、戻っていたのである。

「これからは、気をつけるよ」


 ジト目のククリに、沖田が視線を注いだ。

「何?」

 愛らしく仕草で、首を傾げていた。


「その副隊長、相当、強いだろう」

「うん」

「そいつと戦って、勝つのか?」

「どうだろう?」


(勝っても、相当な痛手は覆うと、思うんだけど)


「お前は、昔から、無茶することがある」

「それは、何度も、聞いているよ」

「リズも注意しても、やめないだろうが」

 ブスッとした表情を、ククリが、滲ませている。


 リズたちも心配し、やめさせようとしても、こうと決めたら、やめない性格を、痛いほど、熟知していたのだった。

 それでも心配し、注意することもやめない。


「努力は、しているよ。でもね……」

「もう、そうやって、動くのは……」

「やめないよ。これが、僕だからね。でも、心配するククリたちが、いるから、極力しないようには、するよ」

 有無を言わせない顔を、沖田が、覗かせている。


 黙り込むククリ。

 それ以上の言葉が、出てこない。


(……ここまでか)


「ごめんね、ククリ」

「……絶対に、極力するなよ」

「わかっているって」

「……ならいい。とりあえずは」

「また、お説教する気?」


「当たり前だ」

 当然だと言う顔をしている。

 小さく、沖田が、笑っていた。

「ホント。聖も、ククリも、真面目だな」


「真面目に、叱るやつがいないと、ソウが、メチャメチャなことを、仕出かすからな」

「そうだね。ありがとう、ククリ」

 そっぽを向く、ククリである。

 その顔は、少し、赤くなっていた。

 二人のやり取りを、冷や冷や眺め、徐々に、生暖かい眼差しを、注いでいたのだった。


 全然、場の空気を読まない沖田が、口を開く。

「急で、悪いけど。明日、ここを離れるね」

「「「「「えっ」」」」」

 一気に、空気が流れ、曇よりとした表情へ、変貌していった。


「急過ぎるだろうが、ソウ」

 誰よりも、慣れているククリが、窘めていた。

 沖田が姿を見たことで、移動する可能性も、過ぎらせていたからだった。

「ごめん、ククリ。後、光之助も、葵も、ありがとね」

「大丈夫だけど。出かける荷物は?」

「用意したよ」


 呆れ顔のリキに、沖田が、眼光を傾けていた。

 事前に、リキに、頼んでいたのである。


「じゃ、俺たちも、用意した方がいいね」

 同行する気でいた、光之助と葵。

「二人は、ここまで」

「でも」

「百合ちゃんが……」

「百合の世話は、乃里たちでも、できるし」

 納得できない顔を、滲ませている二人だ。


「実家に、里帰りすることに、なっているからね」

「「……」」

 気遣うような、そして、寂しい双眸を、マリアと乃里が巡らせていた。


「萌。それで、いいね」

 沖田が声をかけても、黙り込んだままだ。

「「萌……」」

「いやと、否定しないことは、行くってことだね」

「……」

「そう言う前提で、いくよ」


「……」

「残っている光之助たちにも、やって貰うこともあるし、この後の、打ち合わせをしようか」

 困った顔を浮かべている面々に、にこやかな顔を注ぐ、沖田だった。


読んでいただき、ありがとうございます。

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