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天翔ける龍のごとく  作者: 香月薫
第6章 双龍 前編
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第154話

 マリアたちを、匿っている小屋では、微妙な空気が流れている。

 あまり、大きくない小屋に、ククリたちも、滞在していた。

 ここには、マリアたちの他に、ククリたち一行もいて、マリアたちの面倒を見るために、光之助たちも、頻繁に通っていたのである。


 さらに、小屋が、狭くなっていたのだ。

 何よりも、慣れない半妖に、マリアたちが狼狽え、戸惑っていた。

 萌は、半妖の子を生んだこともあり、過敏に怯えていたのだった。


 その仲を、取り持とうとする光之助や葵。

 必死に、動き回っていたが、マリアたちは、ククリたちと、距離を置いていたのである。

 そんなピリピリとする時間を、幾日か、過ごしていた。

 二組を心配し、光之助と葵は、マリアたちの時よりも、こまめに、顔を出していたのだった。


 無造作に、頭を掻きながら、ククリが息を零している。

 小屋の中で、端と端で別れ、腰掛けている状況だった。

 ククリと千春、雪の三人は、用意してあった保存食を食べていた。

 光之助と葵は、マリアたちに、付き添っている。


 ククリたちは、こうした反応に、慣れていたのだ。

 だが、気遣う光之助たちに、ついつい、憐れみな眼差しを、傾けていたのだった。

 千春も、雪も、おとなしく食べている。

 ただ、雪だけが、マリアたちを気にしていたが。


「光之助、葵。私たちは、大丈夫だ。私たちは、こっちの端で、休ませて貰うから、お前たちは、おまえたちの仕事をしてくれ」

 ククリは昼夜関係なく、動くことができるが、千春や雪は、そうはいかない。

 ローブを被っている分には、誤魔化すこともできるが、不測の事態がおき、いつローブが抜けるのか、わからなかった。


 千春たちを連れ、目立つ昼に、動く訳には、いかなかったのだ。

 だから、現在動けず、小屋にいたのである。


(早く、夜に、ならないのか)


 心の中で、嘆息を零すククリだった。

 自分たちの息抜きと、マリアたちのために、夜は、小屋から出て、訓練や都の情報を探っていた。


 当初、嘆息をするだけでも、萌が、ビクッと、反応していたせいで、極力、ククリたちは、無になろうと、心掛けていたのである。

 勿論、小屋の中にいても、千春と雪は、マリアたちに見えないように、ローブを被っていたのだった。


「けど……」

 困った顔を、覗かせる光之助と葵。

 チラリと、光之助たちの双眸が、強張っている萌を捉えている。

 同じように、マリアたちも、怯える萌を窺っていたのだ。


 マリアや乃里は、困惑しつつも、ククリたちに対し、申し訳ないと、抱いていたのだった。

 萌一人だけが、頑なに、拒絶している。

 意を決したような顔をし、乃里が、ククリたちに顔を傾けていた。

「あの……」

「気にしないで……」


「そうじゃなく、……地方では、は、半妖が多いって、それで、普通に、歩いているって、聞いたんだけど。本当なの?」

 彼女なりに、現状を打破しようと、していたのである。

 少しでも、半妖のことを知り、自分たちも含め、萌にも、半妖のことを理解して貰おうとしていたのだ。


 質問されたククリは、いやな顔一つしない。

 真摯に、地方での半妖の姿を、口に出す。

「都から、離れている場所では、普通に、村人と半妖が、共存している。それが、当たり前だからな。地方によっては、半妖が、多いことだってある」


「「「「「……」」」」」

「都と、近ければ、近いほど、半妖が、避けられている。ま、半妖を、見たこともない都の人間からすれば、怖いのかもな」

 自分たちのことを、話しているにもかかわらず、ククリは、何でもないような顔を覗かせていたのである。


「「「「「……」」」」」

「でも、この子たちからすれば、人間の方が、怖いのさ」

 まだ、幼さが残る千春と雪に対し、優しい眼差しを注いでいた。

 千春と雪は、少しだけ、しょげている。

「「「「「……」」」」」


 ククリの言葉に促されるように、千春と雪に、注目が集まっていたのだ。

 徐々に、マリアたちは、ククリの言葉が、ストンと、胸の中に落ちていった。


((この子たちにすれば、私たちのことを、怖がっても、当たり前じゃないの。それも、慣れない場所だし……。バカね……。そんなことにも、気づかないなんて))


「ソウは、何も、詳しいことを、話していないだろうが、あんたらが、行く場所も、半妖が、普通に、生活している場所でもある。だから、できるだけ、慣れておいた方が、いいよ」

「「「……」」」

 萌が怯え、マリアと乃里は、身が引き締まっていく。


「地方では、荒れているって、聞いているけど」

 胡乱げな双眸で、光之助が聞いてきた。

 都で生まれ、育った者や、地方でも、都の近くだったため、大して半妖に対し、免疫がなかった者たちだったので、半妖や、地方のことを、何も、詳しく理解できていなかったのだった。

 少しでも、都のことを知ろうと、光之助が尋ねたのである。


「昔から、いざこざは、絶えなかったが、さらに、いざこざは、大きくなっている。そうした模様が広がり、こちらにも、段々と、近づいている気がするよ。これは旅をして、回ってきた者の、感想としての意見だけどね」

 ククリの言葉に、絶句している面々。


 思ってもみない状況だった。

 都では、徳川宗家と勤皇一派が争い、荒れていたが、それ以上に、都の外では荒んでいるとは、考えてもいなかったのだ。

 都で、住んでいる人々は、都の外にある地方のことに、かなり疎かったのである。


「じゃ、近いうちに、都も、戦になるの?」

 不安げな眼光を、マリアが、揺らめかせていた。


(……一体、どうなるの?)


「それは、わからない。役に立たない、外事軍が、どこまで、押さえられるかじゃないのか?」

 嘲笑するような、ククリの声音。

 まるで、外事軍が、全然、役に立つとは思っていない姿に、困惑するしかない。

 一気に、小屋の中が、沈んでいった。


「役に立たないって」

 眉を下げている葵。


「言っておくが、外事軍に、期待していない方が、いい。外事軍の多くが、賄賂を送らないと、助けてくれないからな。それに、戦闘になっても、弱いぞ。金や物の無駄遣いだな、あれは」

 さらに、嘲りが含む笑みを、零しているククリだ。

「……ホントなのか? それは?」

 眉間にしわを寄せている、光之助である。


 いまいち、ククリの言葉が、信じられない。

 確かに、お願いしても、助けてくれる人間は少ないが、親身になって、動いてくれる人たちも、いてくれたのだった。


「嘘言って、どうする? 私たちや、ソウは、そうしたところを、何度も、見ている。あんな連中は、絶対に、許せるものか」

 殺気の籠もった双眸。

 マリアたちが瞠目し、萌が、怯えていた。

「悪い」

 ばつの悪い顔をし、一気に霧散していく。


 困ったような顔をして、首を振る、マリアと乃里。

「……何か、あったの? 外事軍と」

 気遣う乃里に、苦笑いを浮かべているククリだ。

「まぁな」

 認めつつも、それ以上のことを、口にしない。

 そうした姿勢からも、話したくないのだろうと抱き、誰も、聞こうとしなかった。


「私たちが、行くところって、治安は、大丈夫なの?」

 自分たちが、行くであろう場所の状況を、マリアが尋ねてきた。

 以前から、どこで、落ち着くのだろうかと、それなりに、気になっていたのである。


「治安は、それほど、悪い訳ではない。だが、安全とは、限らないから、それなりに、用心をしておいた方が、いいだろうな」

「そうなの……」

 やや沈んだ顔を、マリアが、覗かせていたのだ。

「だが、心配することはない。向こうには、私たちの仲間もいて、周囲も、警戒している、それほど、危険と言うことではないから」


 少し、安堵の表情を、マリアと乃里が滲ませていた。

 ククリたちが、話している間も、萌一人だけが、ずっと、身体を強張らせていたのである。

 気づきながらも、あえて、ククリたちは、無視していたのだった。

 指摘したところで、萌が、気を緩めるとは、思えなかったからだ。


 萌が生んだ子供は、ずっと、乃里が抱いていた。

 スヤスヤと、眠っていたのである。

 先ほど、ククリが殺気を醸しても、平気で、眠り込んでいたのだった。


 突如、ドアが開く。

 先ほどまでの空気が、霧散していったのだ。



読んでいただき、ありがとうございます。

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