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天翔ける龍のごとく  作者: 香月薫
第6章 双龍 前編
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第150話

「どうするの? 兄さん」

 勝ち誇ったような沖田の表情が、憎らしく感じる土方だった。


(ソージの奴……)


「……もういい」

「そう」

 あっけなく、興味を失せた顔を、浮かべている沖田である。


「……何をしたいんだ、お前は?」

「別に」

「嘘をつけ」

「動き回っているのは、知っている」


「そう。でも、何をしているかは、情報を掴まえていないんでしょ?」

 好戦的な眼差しを、注いでいる沖田だった。

 挑発する行為にも、土方は動じない。

 冷静に、弟沖田を窺っていた。

「……」


 動き回っていると言う情報を掴んでいても、何を探っているのかまで、掴めていなかったのである。

 密偵たちを使っても、一切、情報を得ることができなかったのだ。


「動き回っているよ。あることをしたいから」

「……何だ、あることとは」

 努めて、落ち着いた声を出していた。

「教えない」


「ソージ」

 突如、声を荒げる土方だった。

 けれど、ニコニコした顔は、変わらない。


「兄さんは、きっと、怒るから」

「怒るようなことを、しているのか」

「うん」

 あっさりと、悪いことだけをしていることを認めた。


 そうした沖田の姿勢が、気に入らない。

 だが、それを突き止める手段が、なかったのだ。

「……」

「何をしても、兄さんは、怒るでしょ?」

「自覚はあるんだな」

「勿論」


 先ほどよりも、鋭い圧を、楽しげな雰囲気を醸し出している、沖田に降り注ぐ。

 交わすこともせず、平然とした顔で、受け止めていた。

 いつでも、振り払うことは、できると言うようにだ。


 土方の眼光が、さらに、鋭くなっていく。

 その周囲には、不穏なオーラが、漂っていたのだった。


「兄さん」

「……」

「誰が、物凄く、強い、芹沢隊長をやったんだろうね? そっちは、探らなくっても、いいの? 気にならないの? 兄さんは。あの芹沢隊長ほどの使い手が、誰に、やられたのかって?」

 芹沢たちを襲撃した者たちを、自分たちが、追わないと言う姿勢は、おかしく見られると巡らせ、土方たちは、最低限の人数で、探らせていたのである。


(ソージの奴……)


「一応、気になるんだけど? 僕は」

 僅かに、愛らしく、首を傾げて見せていた。

 けれど、その双眸は、微動だにしない土方を、射抜いていたのだ。

 今度は、土方自身が、自分の心を、読まれないように、心を閉ざしている。


「……お前は、どこの組織だと、思っているんだ?」

「わからないな」

「……」

「兄さんたちは、随分、甘くない? あの人数でさ。確かに、兄さんは、芹沢隊長のことは、嫌っていたけど」


「ああ。嫌いだ。特に、新見隊長がな」

「ま、新見隊長も、独特の人だったからね」

 何でもないような態度を示す、沖田だ。

 フンと、土方の鼻息が荒い。

「……ソージ。お前は、何が言いたいんだ?」

「別に。……ただ、そっけないなって。近藤隊長も、あんなに、芹沢隊長のことを、庇っていたのに。急に、薄情になったなって」


 芹沢の死から、誰の目から見ても、近藤は、変わっていたのである。

 芹沢に対し、興味を失せていたのだ。

 いつ、何があっても、庇ってきた近藤。

 今は、芹沢の死は、些細なことで、他にやるべきことがあると、芹沢たちの襲撃事件を放置状態だった。


「近藤隊長には、隊長なりの考えが、あるんだろう」

「だろうね」

 深く追求してこない沖田に、心の内では、訝しげている。

 だが、表情は、決して歪むことがない。


「動き回っているのは、芹沢隊長を、襲撃した者たちのことか?」

「違うよ。ただ、近藤隊長や、兄さんたちが、そっけないから、聞いただけだよ」

「……」


 不意に、沖田が懐から、データが入っているだろうメモリーを、胡乱げな土方に、ヒョイと、投げ渡していた。

 受け取ったメモリー。

 目を細め、睨んでいる土方。


「芹沢隊長から、貰ったものだよ」

 瞠目し、食い入るように、メモリーを捉えている。

「見てみてよ」

 促されるまま、小型のタブレットを取り出し、中身を開いていた。

 フリーズしながらも、目と指を動かし、入っている情報を読んでいく。


「きっと、一部だろうね」

「……」

 タブレットから、目が剥がせない。


「芹沢隊長のことだから、もっと、面白い情報を、隠しているかもね。兄さんには、心当たりないかな」

 ニコッと、沖田が微笑んでいる。

「……いつ、こんなものを、受け取っていたんだ」

「死ぬ、少し前かな」

 ギロリと、睨んだままだ。


「なぜ、言わなかった?」

「言う必要あった?」

「あったはずだ」

 これまでに、ないぐらいの眼光で、沖田を睨んでいた。


「でも、階級で言えば、兄さんが部下で、僕が上司だよ」

「……深泉組では、違う」

 声音も、一段、低くなっている。

 いつ、土方が、飛び出しても、おかしくない状況だ。

 それでも、沖田の姿勢は、変わることがなかった。


「そうとも、言えるね。面倒臭い関係だね」

「お前な」

 首を竦めている沖田だ。

 更なる敵意を、剥き出しにしている土方。


「怒っているんだね、兄さんは」

「当たり前だ」

「僕も、少しだけ、怒っているかな。面白い芹沢隊長が、あんなに、あっさりとやられて。一度、真剣に、芹沢隊長と、手合わせしてみたかったのに」

 ここに来て、沖田の気配の色が、変わってくる。

「……」

 そして、意味ありげな視線を、沖田が、投げかけていた。


「兄さん、協力してくれるかな、芹沢隊長たちを、襲撃した犯人を、捕まえることに」

「……私たちだって、知りたいが、多くの人員を割くことは、できない」

 いくら、仕事を貰えないからと言っても、それなりに、深泉組にも仕事はあったのだ。

 それに、深泉組は近藤隊しか、機能していなかったのである。

 他の二つの隊は、襲撃事件により、人員も少なく、機能できなかったのだった。


「そう。それが答えね」

「ああ」

「残念」

「お前が、持っているものは、これだけなのか」

 探るような眼差しだ。


「さぁね」

「ソージ」

「教えない」

「これを元に、お前は、動き回っていたのか?」

「教えない」

「お前な」

「手伝おうとしてくれない、兄さんには、教えてあげない」


 とうとう、堪忍袋の緒が切れた土方だ。

 瞬く間に、その場に立っている、沖田との距離を詰め、携帯している柄を取り出し、寸前のところで、スイッチを入れる。

 息の根を止めるほど、殺気を、醸し出している土方だった。


 それに、対抗するように、瞬時に、柄を取り出し、身構えている沖田。

 だが、動こうとしない。

 余裕で、受け止める構えを、見せていたのである。


(ちっ)


 僅かに、剣筋を変える土方に対し、沖田は、口角を上げていた。

 待っていましたと言う顔で、土方のレーザー剣を見つめている。

 沖田を通り過ぎる、レーザー剣。


 互いの顔は、間近だった。

「「……」」

 眼光同士が、ぶつかり合っている。


「何を考えている?」

「何も」

 沖田の頬は、土方によって、切られていたのだ。

 滴り落ちる真っ赤な血。


 拭うことをしない。

 交わすこともできたはずなのに、沖田は、交わさなかった。


「兄さん、気が済んだ? そろそろ、戻らないと、不味いんじゃないの」

「……」

「僕が、先に行くね」

 斬られているところから、止め処なく、血が流れていた。

 ただ、土方に背中を向け、帰っていったのである。


「ソージ……」

 これまでないぐらいに、土方は、顰めっ面だった。



読んでいただき、ありがとうございます。

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