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天翔ける龍のごとく  作者: 香月薫
第6章 双龍 前編
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第145話

 勤皇一派では、とてつもない激震が、走っていた。

 まさか、闇の四天王である中村が、仕留められたことにだ。

 驚愕と、この後、どうなるのかと、不安が、彼らの中に、広まっていたのである。




 西郷の一室では、西郷と大久保だけで、話し合いが行われていた。

「武市は、何をやらせたんだ」

 眉間には、深いしわが、でき上がっている大久保だった。


 勤皇一派内が、落ち着きがなかったので、連日、いろいろな部署を巡り、仲間たちを宥めていたのである。

 それは、西郷も、同じだった。

 二人には、慕う同志たちが、多く揃っていたのである。


 彼らの動きが速く、徐々に、表面上は、落ち着きを、取り戻しつつあった。

 そして、ようやく、今後のことを話し合うため、二人だけで、顔を合わせていたのだ。


「……わからない」

 大きな身体で、西郷が、溜息を漏らしている。

 次から次へと、頭が痛い出来事に、やりきれない思いを抱いていた。

「一体、誰に、やられたんだ」

 吐き捨てた大久保。


 不意に、西郷が見上げ、顔を顰めている大久保を捉えている。

 同じ疑問を抱いているが、一切、見当がつかない。

 勤皇一派の中に置いても、中村ほどの使い手がいなかった。


「調べさせているが、判明するか、わからない」

 どこか、声が、弱々しい。

 必要不可欠な人物の死に、大きなダメージを、受けていたのである。

 性格的に問題があっても、西郷たちは、中村を重宝していたのだった。

 彼の腕前を、それほどまで、買っていたのだ。


「……確かに、難しいだろうな」

 大久保も、同じ見解を抱いていた。


 口では、トコトン、調べたい気持ちを持っていたが、きっと、相手も、一筋縄ではいかないだと、抱いていたのだった。

 調査に辺り、人材が、どれほど失われるのかと、大久保は、頭の中で、弾いていたのである。

 仕留めた相手も、自分の正体を、隠そうとするはずだったからだ。


 西郷よりも、大きな溜息を吐いていた。

「頭が、痛いな」

「そうだな」

 西郷も、同意していた。


 室内は、曇よりとした空気になっていく。

 これらの出来事を、払拭できるほどの、明るい話題もない。

 このところ、勤皇一派の中では、暗い話題しかなかったのである。


 同時に、嘆息を零していた。

 何か、変わる訳ではない。

 ただ、嘆息しか、出てこなかったのだった。


「武市は、どうしている?」

「部屋に、こもったままだ」

 西郷の元に、持たされた報告を、そのまま伝えた。

「江藤たちは、相当、焦っているようだ。いつもの、冷静な行動ができていない」

 西郷の言葉に、大久保が、盛大な溜息を吐いていた。


「こういう時こそ、冷静に、かつ、慎重に動くべきだ」

 自分の持論を、西郷が、口に出していたのだ。

「そうだな」

 言葉がなくなる。

 二人は、また、嘆息を零していた。


 まだまだ、中村が亡くなった件で、やることは、山積みになっていたのだ。

 多くの仕事が、滞っていたのである。

 けれど、西郷の部屋には、大量の書類の束があったのだ。

 絶え間なく、書類が、届けられていた。


 そして、中村の件で、駆けずり回っている部下たちが、通常の仕事ができない分、西郷が、その分の仕事を、引き受けていたのである。

 自分の仕事を、多く抱えていてもだ。

 食事や寝る暇を惜しんで、部下たちのところ回ったりして、二人して、様々な仕事を片付けていった。

 そうした状況でも、二人で、打ち合わせをする必要性があり、こうして、顔を合わせていたのだった。


「……どうやって、中村の穴埋めをする?」

 早急に、中村の代わりとなる人物を、見つけることが、連日の課題でもあったのである。

 育てるにしても、発掘するにしても、時間をできるだけ、掛けたくなかったのだ。

「……考えがある」

 重苦しい声音で、西郷が口にした。


 西郷として、早計だと、抱いていたのだった。

 だが、他に、候補がいない。

 だからこそ、僅かに、判断を、遅らせていたのである。


(……あれは、まだ、育っていない。だが……)


「考え?」

 訝しげな、大久保の表情だ。

 彼の中で、誰一人として、候補者となるものが、浮かばない。


「……ああ。まだ、育っていないが……」

 苦虫を潰した顔を、西郷が覗かせている。

「まかさ……」

 フリーズしつつも、大久保が、巌のような西郷を、見据えていた。

 西郷の言葉で、ようやく、誰を、代わりにするのか、導き出したのである。


「その、まさかだ」

 決意を示した眼光を、注いでいたのだ。

 口に出した時点で、西郷は、ある程度、覚悟を決めていたのだった。


(あれしか、いないのだから……)


「私は、反対だ。中村の二の舞になる」

「大丈夫だ。それよりも、田中を呼んでくれ」

 西郷を咎めるような眼差しを、注いでいる大久保だ。

 それでも、自分の意見を曲げない。


(何を、考えているんだ、西郷は。あれは、危険過ぎるぞ)


「呼んでくれ」

 決して、揺るがない口調だった。

 西郷とは、長い付き合いがあるので、こういう時は、意見を曲げることはないと、諦めざるをえなかった。

「……わかった」


読んでいただき、ありがとうございます。

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