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天翔ける龍のごとく  作者: 香月薫
第6章 双龍 前編
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第140話

 和気藹々と、毛利と沖田が、待機部屋で喋っている頃。

 近藤と土方は、外に出ていたのである。


 捜査が、終わっている現場に、足を運んでいたのだった。

 辺りは、幾重にも、規制線が、張られていた。

 その中に、二人が、入り込んでいたのである。


 二人の存在を、煙たがっている銃器組の人間が、ちらほらいるだけだった。

 いつもなら、賑やかなこの場所も、乾いた血の塊によって、人の気配が、一段と、少なくなっていたのだ。

 僅かに、通る人たちは、チラチラと、窺うだけだった。


 そうした双眸も、二人は、気にしない。

 眼光鋭く、現場を隈なく、見渡していたのだ。

 何か、目ぼしいものがないかと。


 すでに、残されている若干の証拠は、銃器組の手に渡っていた。

 現場は、固まっている血の跡と、戦闘が、行われただろう傷跡しか、残っていない。

 こうした現場が、この他に、後三つほど、存在していたのである。

 二人が訪れた現場は、他のところと、大きく、違っているところがあったのだ。


 他の現場は、無数の血痕が、大量があった。

 だが、ここは、一人分の量しか、残っていない。


「相当な数が、やられているって、言うことに、なりますね」

「規模は、どれくらいだと、思う?」

 血の形跡を眺めながら、近藤が、口に出していた。

「わかりません。足跡が、いろいろと、潰されていますから」


 かなりの数の死者が、出たはずだった。

 敵、味方、どれくらいいたか、不明だが。

 そして、それを数時間のうちに、ほとんどを、片付けていったのだ。


 それぐらいの人員を、割いていたのかと、考えれば、考えるほど、頭の痛い出来事だった。

 嘆息を、堪えるほどのことが、まだ、あったのである。

 鑑識に、当たっている者の足跡などで、現在は、あらゆる痕跡が潰されていた。


 芹沢が死んでも、変わらない現実。

 必死に、溜息を、我慢していたのだ。


 誰にも、気とられることなく、新たに改革するぞと、近藤は、内心で意気込んでいたのである。

 深泉組に、情報が降りてこないことを見越し、二人は、現場に、足を運んできていたのだった。

 銃器組に、煙たがられないように、彼らが、終わった時間を、見計らってだ。


「この現場について、どう思う?」

 血の塊を、土方が凝視している。

「……私の見解としては、そんなに、数がないと思うが?」

 自分の見解を、近藤が、先に口に出していた。

「私も、そう思います。それほど、複数人で、激しい戦闘が、行われたとは、思えません。傷が、少な過ぎます」


 周囲には、壊れたものなども、散乱していたのだ。

 それと、斬った後も、相当な数が、残されていたのである。

 同一人物と、思われるものがだ。

 そして、いくつか偽装している跡が、見られたのだった。


 それにもかかわらず、二人は、一対一の戦いが、行われたと、判断を下していたのだ。

 けれど、不確かなことは、言わない。

 確実に、一対一で、行われたと、判断する材料が、乏しかったからだった。


 周りには、残っている銃器組の人間もいたのだ。

 情報を渡す、必要も、なかったのである。

 情報をくれない彼らには。


「そうなると、随分と、手馴れている連中が、したことになるな」

「はい」

 真摯に、土方が、頷いていた。

「ここで、仕留められた者は、かなりの使い手だな」

「そうなります。それに、無駄な動きが、ないことでも、わかります」

 鋭い眼光。

 周囲を、見渡している土方だ。


「それと、勤皇一派は、何を探っていたのか……」

 様々な考えが、近藤の頭の中で、広がっていく。

 少ないピースで、整理ができない。

「……情報が、少ないな」


 伏せていた顔を、近藤が上げる。

「トシ。何が、掴んでいるか?」

「いいえ。私の方も、近頃、勤皇一派が、何かを探していると、言うことだけで?」

「探っていたのではなく、探していたと、言うことか?」

 僅かだが、少しだけ光が、見えたような気がする近藤だった。


「はい。調べようとしたところで、このようなことに。もっと、早くに、手を打つべきでした」

 苦渋を、土方が、滲ませていた。

 このところ、ほぼ、消滅した芹沢隊や、新見隊のことで、土方は、駆けずり回っていたのである。

 そうしたことを、理解していたので、何も悪くないと、近藤が、首を横に振っていたのだ。


「私が、暇だったから、私の方で、探りを入れておけば、よかったんだ。すまない、迷惑をかけた」

 申し訳ない顔を、近藤が、覗かせていた。

 頼りになる土方に、ほとんどの仕事を、任せていたのだ。

 自分の傷の治療などに追われ、挙句、精神的に、少しだけ、回復が必要だったため、休養していたのである。


「いいえ……」

「いや。大きな迷惑をかけたのは、事実だ。もう、迷惑はかけない。これまで以上に、仕事に、邁進するつもりだ」

 決意が滲む眼光を、近藤が、巡らせていたのだった。

「隊長……」


 気遣う眼差しに気づいていたが、あえて、近藤は、無視していたのである。

「私の方でも、探ってみるつもりだ。トシの方も、頼む」

「……了解しました」


「何かが、あったはずだ」

 遠くを、見つめる近藤の双眸。

 その表情に、微塵も、芹沢のことが、感じられない。

 そうした仕草に、土方は、不安を憶え始めていたのである。


読んでいただき、ありがとうございます。

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