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天翔ける龍のごとく  作者: 香月薫
第6章 双龍 前編
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第137話

 誰にも、見られることもなく、自宅へと、沖田たちが辿り着く。

 勿論、周囲にいる沖田を見張っている者たちも、気づいていなかった。

 自宅にもかかわらず、ドアから、入らない。

 慣れた手つきで、窓から、侵入していた。


 沖田の自宅の周囲には、幾人の見張りが、立っていたのである。

 その目を誤魔化すため、一箇所ある死角を使い、自宅に戻ってきたのだった。


 死角は、ここに訪れる、ククリたちのためでもあったのだ。

 堂々と、ドアから出て、見張りの目を、撒くことも、またに、あったのである。

 部屋の中は、明かりが灯されていた。

 在宅を、装うためだ。


「大体、時間内に、帰れたかな」

 ニッコリと、微笑んでいる沖田だった。


 部屋の中は、光之助たちが、定期的に、掃除をしてくれているので、整理整頓がなされていたのである。

 光之助たちが、掃除をしなければ、部屋のあり様が、無残なことに陥っていたのだ。


 沖田の腕の中には、フリーズしている雪が、お姫様抱っこをされていた。

 驚異的な速さと怖さ、不安で、固まっていたのである。

 そうした雪の姿に、お構いなしの沖田を、ジト目で、リキが注いでいた。

 のほほんと、構えている沖田。


 当初の予定は、違っていたのだ。

 もう少し、誰にも、知られないように、雪を捜している者たちを排除していき、ある程、数を減らしてから、確保する段取りに、なっていたのである。


 リキが、逃げている雪の身代わりとなり、沖田が、徐々に追っている者を、仕留める役になっていたにもかかわらず、急に、その役目を放棄し、スピードを上げ、何も告げず、リキを置いていったことも、多少、不満だった。

 雪が、危機的状況だったこともあったので、その辺のことは、緩和されつつあった。


「いい加減、下ろしてあげたら?」

 少しだけ、刺々しい言い方に、なっていた。

「そうだった」


 未だに、強張っている雪を、素直に、開放してあげる。

 所在なさげに、視線を彷徨わせている雪だ。

 突然の出来事に、上手く、頭が回転しない。


「ククリたちが来るまで、待っていて」

 言われても、雪は、怯えたままだった。

 困ったなと言う顔を、沖田が覗かせている。

 やれやれと、リキが、首を竦めていた。

「……大丈夫だ。雪の仲間だから」


「……仲間?」

 訝しげな表情を、雪が滲ませていた。

 勿論、すべての警戒を、解いていない。


「さっきも言ったが、雪の味方だ。だから、もう少し、落ち着け」

 安心させるような、リキの表情。

 まだ、少し、胡乱げな双眸を、傾けている。

「……そうしていると、疲れるだけだろう?」

 黙ったまま、雪が、頷いたのだった。


「とりあえず、これ食べて。お腹、空いているでしょう?」

 リキと話している間に、貰っていた食料を、沖田が出していたのである。

 大量に出された食料。

 目を丸くしている雪だ。


 今まで、目にしたこともない量だった。

 何度も、食料と沖田の顔を、見比べている。


「大丈夫、食べても」

 優しく、沖田が微笑む。

「……」

「減っていない?」

 勢いよく、頭を振る雪だった。

 素直な行動に、沖田が、小さく笑っている。


「だったら、食べて」

 促しても、まだ、動こうとしない。

 ただ、物欲しそうな双眸で、食べ物に、巡らせているだけだった。


「これからのことも、考えないと、いけないから、しっかりと食べて、思考を働かせないと」

 ようやく、沖田の言葉に促され、じっと、頬を上げている沖田を、眼光で捉えている。

 そして、意を決して、雪が、食べ物のところに駆け出し、無心に食べ始めていたのだ。


 暖かい眼差しで、二人が、見守っている。

 食い散らしても、目くじらを立てない。

 気が済むまで、食べ終わるのを、待ってあげていたのだった。


 突如、咳き込む雪。

 息をつかず、無心に食べていたせいで、喉に詰まらせてしまったのだ。


 口に入っていたものが、辺り一面に、飛び散ってしまう。

 そんなことになっても、沖田たちの表情は、崩れなかった。

 部屋を、汚くしていることを気づくが、咳き込むのが止まらない。

 余計に、慌てふためく雪の背中を、さすってあげる。


「大丈夫。後で、誰かが、掃除してくれるから」

 少し、涙目な双眸。

 柔和な顔をしている沖田に、注いでいた。

 雪と沖田のやり取りを、黙ったまま、眺めているリキだ。


(自分で掃除しないで、光之助たちに、やらせるのかよ)


 咳が止まるのを待って、雪の口が開く。

「……ありがとう」

「食べてばかりだと、また、むせっちゃうから、飲み物を、飲もうか」

「……うん」


 差し出されたペットボトルを、飲み干した。

 雪が、食べている最中に、用意していたのだった。


「誰も、取ったりしないから、ゆっくりと、食べると、いいよ」

「……わかった」

 応じる姿に、さらに、沖田が、笑みを深めていった。


読んでいただき、ありがとうございます。

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