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天翔ける龍のごとく  作者: 香月薫
第5章 散華 後編
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閑話9

第百十六話目の後の話です。

 いつものように、大量のお菓子を携えながら、沖田は自宅へ向かって歩いている。

 いでたちは、白の制服を纏ったままだ。

 制服着用で、帰ることを禁じられているにもかかわらず、深泉組のほとんどがしていた。


 また、湧き出た人たちにより、貰うお菓子の量が増えていく。

 何気なく、沖田が、歩いているだけで、このような出来事が、続けられていたのだ。


 そして、沖田から離れているところでは。

 見張っている、各組織に所属している者たちが、その様子を呆れた眼差しや賞賛する眼差しなど、様々な視線の渦で、窺っていたのだった。


 ようやく、自宅前に辿り着く。

 通常掛かる、時間の三倍から、四倍にかけて、着いたのだ。

 彼らの顔に、疲労感が滲んでいる。


 不意に、歩いていた足を止めた沖田。

 見張っている者たちも、気づかれないように、次々に、隠れていく。

 バレていると抱きつつも、彼らにも、小さいが矜持と言う物が、存在していたのだ。


「どうしたんだ? 急に?」

 小声で、男が呟いてしまった。

 上司からの命令で、沖田の動向を、常に、探っていたのである。

 連日の仕事で、男の目の下に、クマができ上がっていたのだった。


 いつもとは違う、沖田の行動。

 首を傾げるしかない。


(撒かれるのか?)


 何度か、撒かれた経緯があった。

 それは、自分以外に、沖田を見張っている者たちも、同じだった。

 張りつめる者たち。


 目を凝らし、対象者の沖田を、視界から逃さないようにしている。

 そんな彼らのことなんて、全然、気にした様子もない。

 華麗に、方向を回転させ、見張っている者たちと、距離を縮めていった。


「はぁ!」

 思わず、仰け反ってしまう。

 男の目の前に、対象者である、沖田の綺麗な顔があった。


 突然の出来事に、フリーズしている。

 いつの間にか、ここまで距離を詰められていたのだ。

 予想以上の速い動きで、男たちとの距離を、あっと言う間に、縮めてしまっていたのである。


「どうして?」

 瞠目している眼光は、沖田を捉えたままだ。

「はい。これ」

 ニコニコ顔を、沖田が覗かせている。

 沖田から、出されたものを、男は、思わず、受け取っていた。


 男の手に、帰宅の途中で、いろいろな人から、受け取ったお菓子の一つが、握られていたのである。

 握られてしまったお菓子と、沖田の顔を、何度も行き交っていた。


「……」

「美味しいですよ」

「……」


 突然の沖田の行動に絶句し、見張っている者たちは、対処できない。

 ぽかんと、口を開けている者たちに、次々と、お菓子を渡していく。


「いつも、ご苦労様です」

「「「「「……」」」」」

「食べてくださいね」

「「「「「……」」」」」

「疲れている時に、甘いものがいいですよ」

「「「「「……」」」」」


 とうとう、沖田を見張っていた者たちに、お菓子を配り終えたのだった。

 逃げ出す者も、しっかりと追いかけ、捕まえ、律儀に渡していたのだ。

 捕まった者たちは、渋面しつつ、お菓子を握らされてしまう、結果になっていた。


「ふぅー」

 充実感に満ちた顔だ。


 以前から、気になっていることをやり遂げたのである。

 いい笑顔の沖田の姿に、誰もが、見惚れていた。

 かなりの人数がいたので、予測していた時間より、時間が掛かってしまう。


「これで、全員に渡し終えたかな」

 もう一度、周囲を見渡す。

「うん。大丈夫」

 さらに、やり切った笑顔を滲ませ、沖田は、自宅へ帰って行く。


 そして、残された者たちは、これを、上司に報告するべきか、顰めっ面で、思い悩むのだった。

 手には、沖田から、貰ったお菓子が握らされていた。

「「「「「……」」」」」


 熟睡する沖田部屋の前では、悩みの決着できず、ただ、ただ、渡されたお菓子を凝視していた彼らは、そのまま、朝を迎えていくのだった。


読んでいただき、ありがとうございます。

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