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天翔ける龍のごとく  作者: 香月薫
第5章 散華 後編
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第130話  散りゆく華6

「「隊長」」

 切羽詰ったような顔で、土方と斉藤が駆けつけていた。

 ある程度、仲間だった敵を倒し、一番、気掛かりだった、近藤の元へ、駆けつけていたのだった。


 周囲は、見るも無残に荒れ果てていたのだ。

 相当な戦闘が、行われた跡が、くっきりと残っている。


 中央に、両膝をつけたままの近藤。

 抱きかかえられている芹沢の姿があった。

 周囲には、大量の血が広がっている。

 そして、辺り一面に、血しぶきが飛んでいて、まるで、赤く、くすんだ花びらが散って、二人の姿を、花で添えているようだった。


 ピクリとも、動かない二人。

 そこだけが、まるで静寂に、包まれているかのようだ。


 恐る恐る近づく、土方と斉藤である。

 近藤は、何も、反応を示さない。

 生きているのか、目を細める二人だ。


 さらに、二人が近づいても、近藤は、身じろぎ一つしなかった。

 同士討ちなのかと、土方の双眸が、僅かに焦っている。

「近藤隊長……」

 擦れた声しかできない。


「……大丈夫だ」

 か細く、近藤が口を開いた。

 近藤の声音を聞き、安堵の表情を、二人が浮かべている。


 近藤と芹沢の周りには、大量の血があったのだ。

 古い血は、すでに固まり始めていたのである。

 出血多量に陥っているのではと、過ぎらせていた。


「ケガは?」

 冷静な表情で、気遣う斉藤。

 周囲の様子を窺えば、壮絶な戦いが、繰り広げられたのは、一目瞭然だった。

「大したことはない」

「ですが……」

 言い繕う土方だ。


 周囲にある血で、相当なダメージを受けていると、至っていたのだ。

 動かない近藤の姿と、大量の血に、目がいってしまう。


「私の血じゃない」

「「……」」

「すべて、芹沢……隊長のものだ」

 近藤に促され、二人の視線は、大量の血に釘付けだった。


((これが……、芹沢隊長の血なのか))


 違うと、否定されても、土方は心配の色が拭えない。

 近藤のいでたちは、ボロボロで、満身創痍のように、見受けられたのである。


「疲れているが、私の傷は、大したものはない」

「相当な戦いが、あったようだ」

「斉藤の言う通り、相当な戦いだった。疲れて、ヘトヘトだ」


 冷たくなっていく芹沢から、離れようとはしない近藤。

 居た堪れない双眸を、土方が滲ませていた。

 どれだけ、芹沢を慕っているのか、見に摘まされていたのである。


「……皆は?」

「全員無事です」

「そうか」

「今は、隠れ潜んでいる者を、始末しているところです」

「迷惑をかけて、すまない」

「いいえ」


「外に、逃げた者は?」

「数人いたようです。近藤隊長の命に背きました。外に、山崎を待機させ、逃げ出す者を始末するように、命じました。命に背いた以上、罰をお受けします」

「……いい。トシのことだ。そうすると、予測していたからな。だから範疇内だ」

「……ありがとうございます」

「これで、終わったな」


「まだ、偽装が残っています」

 斉藤の意見に、そうかと抱くだけで、思考が追いつかない。

「……」

 言質を、待っている二人。


(……まだ、仕事が、残っていたな)


 身体を動かさないと巡らせるが、身体が、言うことを聞かない。

 身体が、心が、まだ芹沢と離れたくないと、拒絶していたのだった。


(いつまで経っても、女々しいままだな)


 労わるような眼差しを、注いだままの土方。

 何も、言えなかったのだ。


「隊長。この後の仕事は、土方副隊長と共に、私たちが、やっておきますので」

「……いや……。そうだな、後のことは、二人に任せる」

 自分自身で、最後までしようと思うが、身体が動かない。

「滞りなく……」

 目を、伏せている土方である。


「頼む。ただ……、芹沢隊長の偽装だけは、しないでくれ」

「「……」」

「それだけは、頼む」

「ですが……」

「これ以上、酷いことは、したくはない」


 苦々しい顔を、土方が覗かせている。

 死んでも、近藤を、苦しめる芹沢に対しだ。


「……承知しました」

 名残惜しそうに、芹沢の遺体を降ろした。

 見下ろしている、近藤の双眸。

 刻み込むかのように。


(こんな時に、笑っているなんて……)


 今にも、溢れ出そうな涙を堪えていた。

 二人の前で、見せられない。

 隊長としての矜持だった。


 静かに、瞳を閉じる。

 そして、立ち上がった近藤である。

 気遣う二人に、近藤が、優しく微笑んだ。

「悪いな、二人とも。後のことは、良しなに」


「「承知しました」」

 振り向くことなく、近藤が、立ち去っていく。

 近藤の姿がなくなるまで、土方と斉藤が、見送っていた。


読んでいただき、ありがとうございます。

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