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天翔ける龍のごとく  作者: 香月薫
第5章 散華 後編
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第123話  ひと時の静寂2

 近藤によって、指名されたメンバーが招集され、密かに、会議室に集まっていた。

 けれど、そこに近藤の姿がない。

 ギリギリまで、休めさせようと、あえて知らせなかったのである。


 迅速に、集められたメンバー。

 それぞれに、眉を潜めていたのだ。

 下された命令に。


「本当に、小栗指揮官が、下されたのか?」

 重い空気を破ったのは、難しい顔を滲ませている山南だった。

 何度、進言しても、庇い立てをする二人が、ここに来て、容易く、芹沢と新見を切ることが、信じられなかったからである。


「勿論だ」

「何で、今更」

「知る必要も、ないと思いますが? 私たちは、下された命令に従う。ただ、それだけではないですか?」

 平然としている土方を、半眼している。

 バチバチと火花散らす、二人のやり取り。


 永倉や島田が、首を竦めていた。

 他のメンバーは、見て見ぬ振りをしていたのだ。


「ところで。本当に、いいのか?」

 土方と山南の睨み合いに、飄々と、島田が入り込んだ。

 埒が明かず、時間だけが、無駄に過ぎていくのを、嫌ってのことだった。

「……大丈夫だ」

 僅かに、間があった土方。


 少し違和感を、島田が生じさせている。

 けれど、喋りそうもない態度に、聞くのを断念させた。

「……それなら、いいが。随分と、決行するメンバーが、足りたいと思うが? そこは、どうなっているんだ?」


 もう一度、顔触れを、島田が巡らせる。

 どう考えても、不足していたのだ。

 腕に、自信のある者を抱えている、芹沢隊や新見隊を踏まえると。


 戦力的に、二つの隊に比べ、近藤隊は、劣っていたのである。

 二つの隊は、実力的に揃っている者が、多かったのだった。


「隊長が、指名したメンバーは、お前たちだけだ。他は、除外された」

 少し、訝しげに、土方が口にした。

 そうした仕草で、土方自身が納得していないことを、島田が察していた。

 そのまま、土方の言葉に、従うつもりはない。


「何で? 原田や沖田は、確実に、使えるだろう? それに、山崎や毛利だって、ある程度は使えるぞ」

 いてほしいと言うメンバーを、口に出していった。

 同席している者たちも、島田の意見に、大筋で同意している。


「あまり、知られたく、ないらしい」

「だからと言って、少な過ぎるだろう」

 怪訝そうに、島田がメンバーたちの顔を、窺っている。

 島田の意見に、多くの者たちが、頷いていた。

「確実に、原田と沖田は、必要だ」

 何事においても、あまり物怖じしない永倉が、参入してきた。


 十分過ぎるほど、一緒に、戦ってきた仲間だけあり、二人の腕前を、熟知していたのである。だから、必ず必要な者たちだと、訴えていたのだった。

 冷静に分析しても、この人数では、足りなかったのである。

「……」

 土方も、そう抱く節もあるので、何とも言えない。


(言われなくっても、わかっている……)


「……理由は、説明した」

 苦しげな土方だ。

「納得できない。副隊長は、それで、納得したのか?」

 自分たちの命にもかかわるので、島田も、簡単に引き下がらない。

 命を落とす危険性が、非常に、高かったのだ。


「……承知しただけだ」

「確かに。サノは、表情に、出るかも知れない。けれど、芹沢隊や、新見隊の精鋭の顔触れを考えると、絶対に、入れるべきだ」

 永倉の意見に、頷きたくも、できない。

 ぐっと、堪えるしかない土方だった。

 頷きはしないものの、永倉の意見に、誰も賛同していた。


「沖田は、逸材だ。沖田を、入れるだけで、もう少し、やり易くなる」

 藤堂の意見に、山南まで同意していた。

 意見が、合うことがない永倉や、山南たちが、意見を合わせている。

 とても、珍しい光景でもあったのだ。


(俺だって、こんな大きな仕事に、ソージをはずしたくない。けれど……、近藤隊長の命令だ。実行しなくては、ならない)


 徐に、好き勝手に、意見を言い合っている、部下たちに対し、キツく、口を結んでいる。

「斉藤班長としては、どう思っているんだ?」

 表情を崩さない斉藤を、山南が窺いながら、意見を求めてきた。

 求められても、表情が変わらない。

 何を考えているのか、不明だ。


「確かに。二人が入れば、危険度が、下がるだろうな。それに、沖田が、加わるだけで、もう少し、メンバーを減らされても、大丈夫な気がするが」

 チラリと、斉藤が黙っている土方に、視線を巡らした。

 土方の眉間のしわが濃い。


「……そうだな。沖田が入れば、もっと、少数でもいけるかもな」

「それでも、このメンバーなのか?」

「ああ」

「なら、仕方ない」

 あっさりと、斉藤が引っ込んだ。


 そんな斉藤の姿に、山南が、眉を潜めている。

 その隣では、気遣う眼差しを、尾形が送っていた。

 引っ込んだ姿に、やれやれと抱きつつ、島田が、まだ、斉藤に双眸を傾けたままだ。


「斉藤。それでいいのか? かなり、キツいと思うのだが? その辺は、どう考えているんだ?」

「命令なら、従うべきだろう。どんな大変な命令だろうとも」

 無茶な命令に、あっさりと従う姿勢に、島田が呆れ気味だ。


「自分たちの、命がかかっているんだぞ?」

「それでもだと、私は考えている。それに、いつも以上に、油断なく、動き回れば、いいだろう」

 簡単なことだと、言いたげな斉藤の姿。

 ますます、斉藤と言う人物像が、掴めない面々だった。


「……言ってくれるな」

「俺たちが、サボっているようじゃないか?」

 微かに、永倉が、眼光を眇めている。

 ピリピリとした空気が、漂っていた。


「……決定しているものを、諍っても、覆せないだろう? だったら、いつも以上に、死ぬ気で戦えばいい」

 口角を上げている藤堂。

 アドレナリンが、すでに高揚し始めている姿に、永倉や島田が、首を竦めていたのだ。

 すでに、戦闘モードな姿に、山南と尾形が辟易している。


「……まだ、早い。その時まで、取っておけ」

 眉間にしわを寄せつつ、土方が藤堂を窘めたのだった。

「承知した」


「とにかく、決定実行だ。そして、このことは、一生、誰にも喋ることは、許されない。仮に、喋った者がいれば、私が、始末する」

「随分と、物騒だな」

 有無を言わせないやり口に、永倉が反発した。

 藤堂や山南も、微かに、顔を歪めている。


「内容が、内容だけに、知られる訳にはいかない。だから、ここで拒否すれば、私がこの手で……」

「強制参加かよ」

「そうだ」

 これ見よがしに、永倉が盛大な溜息を漏らした。

「やるしかないのか……」

 遠い目をする永倉。


「諦めろ」

 小さく、笑っている島田だった。

 この後、土方によって、それぞれの持ち場などが、提示された。


 時間がない中で、土方は、詳細に調べ上げていたのである。

 何かと、面倒をかける芹沢たちを、探っていたことも、功を奏していたのだった。

 証拠となるものを、残さぬためにも、地図も渡さない。

 すべてを、頭に叩き込めと、命じたのだった。


「……一つ、大きな不満がある」

「何だ、カイ」

「下男や、下女も、やることはないだろう」

「言っただろう、証拠は残さぬと」

 まっすぐに眼光が、渋面している島田を捉えている。

 島田も、土方を見据えていた。


「だが、関係ないだろう、芹沢隊や、新見隊には」

 もっともな島田の意見だった。

 上の者に命じられ、下働きとして、働いている者たちに過ぎない。

 だから、そうした者まで、手に掛けることに、些か納得できなかった。


「だが、私たちを、見られた以上は、すべて、殺す。それが命令だ」

「事前に、逃がすことだって、可能なはずだ」

「芹沢隊や、新見隊に、気づかれたら、どうする?」

「日を改めれば、いいだろう」


「ダメだ。いた者は、すべて、息の根を止める」

 確固たる意志を、込めた双眸。

 肩の力を抜き、島田が軽く息を吐いた。

「……わかった」


「なら、時間まで、ここで待機だ」

「マジでかよ。酒を飲む時間も、くれないのかよ」

 缶詰にされることに、永倉が納得できない顔を滲ませていた。

 ギロリと、土方が威圧する双眸を、注いでいる。

「当たり前だ。感づかれる訳には、いかないからな」


 不愉快な顔を前面に出し、永倉が椅子に背中を預ける。

 睨まれて、萎縮する性格ではない。


「いやな、仕事だな」

 これ以上の反発がないと抱き、土方が会議室から、出て行ったのだった。


読んでいただき、ありがとうございます。

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