第121話 近藤と芹沢3
オレンジ色の陽射しが、休憩室を照らしている。
黙ったまま、二人は、時間を過ごしていたのだった。
顔を上げ、立っている芹沢を見上げる。
視線を巡らせずとも、見つめられていることを、芹沢は察していた。
「……一つ、伺ってもいいですか?」
「何だ」
「面倒を起こし、邪魔になったから、特殊組へ、移動させたのですか?」
「違う。あれの前から、お前の移動を、考えていた」
「……」
「お前の腕を、買っていたんだ。だから、こんなところで、廃らすのは、勿体ないと、上司に移動を願い出ていた」
「……そうだったんですか」
「そんなことを、気にしていたのか?」
小さく笑っている芹沢だ。
「……」
「あのことが、なくても、お前を移動させていた。決まっていたことだ」
「……私は、鬱陶しかったですか」
顔を、伏せてしまった。
「別に。そんなことは関係ない。適材適所で、お前には、特殊組があっていると思ったから、上司に進言したんだ」
「……」
「お前の実力だ」
芹沢の双眸が、弱りきっている近藤を映している。
「何度か、聞いたが、何で、特殊組から外れた?」
「芹沢班長には、高く評価して、いただいたようですが、その声に、応えられたく、申し訳ないと思っています」
「嘘を言え」
視線を、はがずことなく、見下ろしていた。
自分の目に、狂いはないと。
そして、なぜ言わないと、語っていたのである。
「……」
「お前の実力は、高い。特殊組だけでなく、もっと、上にいけたはずだ」
揺るがない自信が、芹沢の瞳に、溢れていた。
近藤が、深泉組に移動を命じられた際、すでに、芹沢は落ちていたので、近藤のことを調べることに躊躇し、結局、調べることをしなかったのである。
「身贔屓だったのでしょ?」
小さく笑っている近藤だった。
「俺の目を、疑っているのか?」
ドスの利いた声音だ。
「……たまには、曇ることもあるかと」
先ほどの、弱々しい近藤の姿がない。
頑なに、身体全体で、拒否していたのである。
この話題に。
見つめ合う二人。
「……もう、行く時間か」
この短い時間を、終わりにさせたのは、芹沢の方だった。
「御茶屋ですか?」
「ああ。小梅と、約束しているからな」
「そうですか」
休憩室から、出て行く芹沢。
止めることもなく、ただ、その背中が見えなくなるまで、見つめていた。
か細い声で、近藤が呟く。
「もう、止められない……。止めちゃ、……ダメだ。止めては、いけないんだ……。私の心を、凍らせるんだ……」
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