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天翔ける龍のごとく  作者: 香月薫
第5章 散華 後編
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第121話  近藤と芹沢3

 オレンジ色の陽射しが、休憩室を照らしている。

 黙ったまま、二人は、時間を過ごしていたのだった。


 顔を上げ、立っている芹沢を見上げる。

 視線を巡らせずとも、見つめられていることを、芹沢は察していた。


「……一つ、伺ってもいいですか?」

「何だ」

「面倒を起こし、邪魔になったから、特殊組へ、移動させたのですか?」

「違う。あれの前から、お前の移動を、考えていた」

「……」


「お前の腕を、買っていたんだ。だから、こんなところで、廃らすのは、勿体ないと、上司に移動を願い出ていた」

「……そうだったんですか」

「そんなことを、気にしていたのか?」

 小さく笑っている芹沢だ。


「……」

「あのことが、なくても、お前を移動させていた。決まっていたことだ」

「……私は、鬱陶しかったですか」

 顔を、伏せてしまった。


「別に。そんなことは関係ない。適材適所で、お前には、特殊組があっていると思ったから、上司に進言したんだ」

「……」

「お前の実力だ」

 芹沢の双眸が、弱りきっている近藤を映している。


「何度か、聞いたが、何で、特殊組から外れた?」

「芹沢班長には、高く評価して、いただいたようですが、その声に、応えられたく、申し訳ないと思っています」

「嘘を言え」

 視線を、はがずことなく、見下ろしていた。

 自分の目に、狂いはないと。

 そして、なぜ言わないと、語っていたのである。


「……」

「お前の実力は、高い。特殊組だけでなく、もっと、上にいけたはずだ」

 揺るがない自信が、芹沢の瞳に、溢れていた。

 近藤が、深泉組に移動を命じられた際、すでに、芹沢は落ちていたので、近藤のことを調べることに躊躇し、結局、調べることをしなかったのである。


「身贔屓だったのでしょ?」

 小さく笑っている近藤だった。

「俺の目を、疑っているのか?」

 ドスの利いた声音だ。


「……たまには、曇ることもあるかと」

 先ほどの、弱々しい近藤の姿がない。

 頑なに、身体全体で、拒否していたのである。

 この話題に。

 見つめ合う二人。


「……もう、行く時間か」

 この短い時間を、終わりにさせたのは、芹沢の方だった。

「御茶屋ですか?」

「ああ。小梅と、約束しているからな」

「そうですか」


 休憩室から、出て行く芹沢。

 止めることもなく、ただ、その背中が見えなくなるまで、見つめていた。

 か細い声で、近藤が呟く。

「もう、止められない……。止めちゃ、……ダメだ。止めては、いけないんだ……。私の心を、凍らせるんだ……」


読んでいただき、ありがとうございます。

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