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天翔ける龍のごとく  作者: 香月薫
第5章 散華 後編
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第116話  リキからの報告

 休日、沖田は、昼頃から出かけ、光之助たちと、お喋りに花を咲かせていた。

 沖田が、マリアたちに会いに行ったことで、光之助と葵の、少し憂いだ表情が、緩んでいたのだった。

 二人の様子に、とりあえず、ひと安心していた。


 深泉組に対し、庶民の間で、当たりが強かったが、沖田に対しては、何も起こっていない。

 いろいろな人たちに、声をかけたりしていたのである。

 自宅に戻ってきたのは、深夜、近くになった頃だった。




 寛いでいると、徐に、窓が開く。

 そして、慣れたように、リキが沖田の部屋に入ってくる。

「おかえり」


 溢れるばかりの笑顔を、沖田が覗かせていた。

 それに対し、リキは愛想もない。

 ただ、平然としていたのである。


「凄いことに、なっているな」

 首を竦めているだけだ。


 ククリたちがいるところに、定期的に物資を、運んで貰っていたのである。

 母美和がいる地方とは言え、物資が少ないだろうと巡らせ、つつがないように、日用品や長持ちがする食糧を、配達して貰っていたのだった。

 ククリたちのところへ、行っている間に、芹沢隊や新見隊が、鶴岡屋を襲い、深泉組は、また、窮地に立たされたことを、都に戻ってすぐに、リキが耳にしたのである。


「そうだね」

「他人事だな」

 深刻そうに捉えていない姿に、呆れた顔を滲ませていた。

 少し前に、戻ってきたリキ。

 そうした状況を耳にし、ある程度、情報を集め、それから沖田のところへ、忍び込んで来たのだった。


 無造作に、沖田の正面に腰掛ける。

 無遠慮な態度にも、無頓着だ。


「ククリたちは?」

「段々と、慣れているようだ」

「母さんに、遊ばれているでしょ」

 微かに、リキの表情が緩む。

 その様子から、上手くいっていることを察していた。


(正解だったな。母さんに頼んで)


 顔に似合わず、兄土方同様に、母美和は、非常に面倒見がよかったのである。

 そのため、ククリたちを頼めるのは、母美和しかないと、お願いしたのだった。

 上手くいっている状況に、微笑んでいた。


「ああ。かなり遊ばれ、溜まっている」

「母さんらしいな」

「そっくりだな」

「そう?」

 愛嬌ある笑顔を、傾げてみせる。


 想像以上に、ククリたちが母美和によって、弄ばれていることを巡らせ、ついつい口角が上がってしまっていた。

 そんな姿を、リキが垣間見ている。

 眉間にしわが寄っていたのだ。


「そういうところが……」

「で、小さい子供たちは?」

 話を変えた沖田に、溜息を漏らしていた。

「……ククリたちよりも、順応していた。外で遊んでいる」


 ククリと、一緒に助け出した子供たちを、思い返していた。

 助けた当初は、顔を強張らせ、落ち着きがなかった。

 常に、ククリや聖たちに、くっついていたのだ。

 それが、徐々に慣れていき、美和とは、いい関係を気づいていたのである。


 いつも、半妖の子供たちは、室内に閉じ込められていることが多い。

 だが、都から離れた地方だと、平気で、外に出ることができ、生き生きと、顔を輝かせ、子供らしく遊び回っている状況が見受けられた。


「半妖が、多いからね」

 容易に想像し、クスッと、沖田が笑っていた。

 半妖の子供たちが、自分たちの幼い頃のように、遊んでいる姿が、目に浮かんでいたのである。

 人見知りなククリや聖たちと、村の中を駆け回って、遊んでいたのだった。


「状況は?」

「芳しくない。徐々に、あそこも、荒れる」

 訪れていた場所を、掠めていた。

 物資などを運ぶだけではなく、そこの地方の情報を、何かと探っていたのである。

 勿論、外事軍の動きもだ。

「そうか……」


 逡巡している沖田。

 遠く、離れた地方は、もっと、荒れていた。

 比較的、都に近い地方に、現在、美和たちは、住んでいたのである。

 そこは、他の地方と比べると、治安が少しだけ、よかったのだ。


「売られている状況は?」

「まだ、どうにか暮らせるから、少ないと思う。その点は、ククリたちの意見だ。そうしたことは、俺には、判断できないからな」


 美和たちがいる地方では、見世物小屋に、売られている半妖たちが少なかった。

 比較的、穏やかに、村の住人たちと、共存していたのである。


「そうか」

「ククリが、他の地方を巡って見ると、言っていた」

「随分と、危ない真似を」

 呆れ顔の沖田。


 正義感の強いククリが、気持ち的に余裕が出てくれば、そうしたこともすることは、容易く想像していたが、すぐに行動に移すとは思ってもいなかったのだ。

 まだ、時間が掛かるだろうと、抱いていた。


 軽く息を吐く沖田。

 お金ほしさに半妖を捕まえ、見世物小屋に、売ろうとするやからもいたのだ。

 地方に住んでいた沖田は、何かと半妖が置かれている状況を、いろいろと目にしてきたのだった。

 それは地方に生まれ、住んでいたククリたちも、そうした光景を幾度も眺め、熟知たる思いを募らせていたのである。


「少しでも、ソージの役に立ちたいんだろうよ」

「無理しないと、いいんだけど?」

「一応、気をつけろって言ったら、誰だと思っていると、凄まれた」

 ふっと、笑っている。


 よく剣術や体術を、自己流で、稽古していたククリの姿を過ぎらせいた。

 沖田に、及ばないものの、ククリの腕前は、かなりなものに、なっていたのである。


「大丈夫だろうけど」

 笑みが止まらない。

 襲い掛かる敵を、容赦なく、叩き倒す光景が、目に映っていた。

 周りに、リズや守るべき子供たちがいたため、見世物小屋にいた際は、おとなしくしていたのだった。

 そうした対象がいなければ、瞬く間に、彼らを倒す実力を持っていたのである。

 いろいろな枷を外せば、ククリは、もっと強くなると巡らせていた。


(どうなるかな……。ククリは)


「もう少しすれば、他の地方のことも、わかると思うよ」

「わかった」

 ニコッと、沖田が笑っていた。

「それより、何とかしろよ」


 訝しげな表情で、抗議しているリキ。

 それに対し、コテンと首を傾げているだけだ。


「付け回っているやつら」

 今現在、沖田が住む周囲に、沖田を探っている者たちが、まだ張り付いていたのである。

 ぽんと、手を叩く沖田だった。

 不意に、思い出したのだ。

「ねぇ、リキ。あの人たちに、何か差し入れしようと、思うんだけど、何がいいかな?」


 真剣に悩んでいる。

 ますます、リキが眉を潜めていった。

 そして、マジで、言っているのかと言う顔を、胡乱げに滲ませていたのだった。


「……差し入れするつもりなのか?」

「そうだよ。毎日、大変でしょ」

 邪気のない顔を、浮かべていたのである。

 マジで考えている様子に、脱力感が否めない。

 考えるのが、バカらしくなっていく。


「……何でも、いいと思うけど」

 投げやりな態度をとっている。

 けれど、沖田の表情は変わらない。

「そうか。でも、お菓子とか、持って行こうかな」


 ウキウキした仕草に、リキが嘆息を吐いていた。

 どんなお菓子を、持っていこうかと、楽しく候補を投げていく。

 ようやく、何を持っていくのか、決まったのだった。

 満足げな笑みと共に、リキに顔を傾ける。

「そういえば、芹沢隊長たちは、どうしているの?」


「相変わらず、花街や馴染みの商家の屋敷で、遊んでいる」

「都の様子は?」

「良くないね。良心的な鶴岡屋を襲ったから」

「外事軍は?」

「連日のように、都に入り込んでいる。近頃は、節操がない。だから、そのうち、気づかれる。金欲しさが滲み出ている感じ」


 半妖たちを都に入れるため、自分たちの特権を、利用していたのである。

 外事軍は、都にはいる際、検問などで調べられることない。

 簡単に、都の中へ入ることができたのだった。


「都にいる、見世物小屋は?」

「営業しているね」

「そう。狩りの方は?」

 僅かに、沖田の眼光が、鋭くなっていた。

 見慣れつつあるリキは、臆することがない。


「なりを潜めている状況だね」

「やられて、どうにも、できないのか」

 小さく笑っている沖田だった。

「でも、そろそろ、やるようだよ」

 リキの言葉に、顔を傾けていた。

「動きでも?」


 眼光の奥が、冷え切っている。

「ああ。やりたくって、疼いているんだろうね。きっと、上の連中が」

「バカだね。餌食になるのに」

 僅かに、嘲笑する声音が、含まれていた。

 やや顔を伏せ、考え込む仕草を、窺わせている沖田が、ふと、顔を上げる。

「芹沢隊長は、気づいている?」


「どうだろう。あの人の情報網は、凄いから」

 どこか、悔しげな顔を、リキが滲ませている。

 芹沢の情報の凄さに、脱帽しつつも、嫉妬していたのだ。

 その優れた腕前に。


「確かに。凄い情報網だよね。一体、どんな人、なんだろう?」

「さぁ。で、どうする? 見世物小屋に行く? 狩られる前に?」

「勿論。芹沢隊長は、容赦ないから。急がないと」

 満面の笑みを見せていた。


「邪魔だ。探っている者が」

 どこか、案じる眼差しを、送っているリキだ。

「大丈夫。ちゃんと、撒くから」

 のん気な姿に、溜息を零している。


 本当かよと言う妖しげな眼差しに、なっているリキだった。

 とても面倒臭いなところがあると、知り合ってから、抱くようになっていたのである。

 そんな沖田を、リキがサポートしていたのだ。


「そうだ。面白い友達ができたんだ」

 楽しそうに、喋っている沖田に、徐々に、リキが目を細めている。

「……勤皇一派の井上香琉だろう」

「正解」

 もう一度、溜息を吐いた。

 疲れた双眸を、傾けている。

「敵対しているやつと、友達になって、どうするんだよ」


「面白い人だったんだ」

 悪びれる様子がない。

 ただ、楽しそうな表情を滲ませていた。


「面白いってだけで、友達になるな。もっと警戒しろ」

 愛嬌たっぷりに、剥れた顔になっている。

 けれど、リキの意思は変わらない。

「ダメなものは、ダメ」


「でも、いつでも話し相手になるって、約束したもん」

 睨まれても、ケロッとし、ニコニコとしている。

「……相手も、来ないんじゃないのか?」

「来ると思うよ」

「何で?」

「ただの勘」


 今度は、大きく溜息を零したのだった。

「後、リキに、お願いがあるんだ?」

 甘えたような顔を覗かせる沖田に、眉を潜めている。

「そんなに、警戒しなくても?」

 口を尖らせても、愛嬌が滲んでいた。


「……面倒ごとだろう?」

「そうだね」

 隠そうともせず、肯定する姿に、溜息を漏らしていたのだ。

「で、何?」

「萌が、半妖の赤ちゃんを産んだ」

「……」


 マリアたちのことは聞いて、リキなりに、把握していたのである。

 まさか、妊娠している萌が、半妖を産んだことに瞠目していた。


「萌の血筋からか、男の血筋かは、わからないけど、生まれた百合は、半妖だった」

「女の子か……」

「そう」

「育児放棄?」


「まあね。マリアたちが、面倒見ているけど、泣き止まないみたい」

 苦笑している沖田を、顔を顰めつつ、捉えている。

「それは、そうだろう。生まれた子供は、気づくだろう? 恵まれず、疎まれているって」

 何も言わず、ただ、苦笑しているのみだ。


「俺に、育てろって、言わないよな?」

 ジト目で、リキが注いでいる。

「言わないよ。育てるのは、リズたちに頼むつもり。ただ、それまで少し、顔を出して、百合を、あやしてくれればいいよ」

「……」

 真剣に、逡巡しているリキ。


「仕事もあるし、マリアたちのところに、なかなかいけない。さすがに、ここにつれてくるのは、不味いでしょ?」

「当たり前だ」

 僅かに、リキが声を張り上げた。

 けれど、沖田の表情が変わらない。


「だから。お願い」

「何で、俺?」

「リキも、言っていたでしょ? 赤ん坊だって、バカじゃない。自分を抱いている人間が、喜んでいるのか、戸惑っているのか、わかっているんだよ。だから、当惑し、気持ちを押し殺しているマリアたちに、一切、懐こうとしない。でも、リキは違うでしょ? 半妖に対し、同情することがあっても、嫌ったり、怖がったりしないでしょ?」


「……ああ。そうだな」

 長い沈黙の後、強張っている顔で答えた。

「だから、少しの間だけで、いいから。百合のこと、お願い」

「……わかった。ところで、リズたちに、どうやって、連絡するつもりだ?」

 百合を、気にかけるようになると、リズたちと、連絡する者がいなくなると過ぎらせていたのである。


「その点は、大丈夫。母さんに連絡し、ククリたちに来て貰うから」

「簡単に言うな」

 えっへんと、楽しげに胸を張っている沖田。

 そんな姿に、来るだろうククリのことを憐れむリキだった。


読んでいただき、ありがとうございます。

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