第95話 試作品を試す1
警邏軍にある修理部の実験場に、近藤、土方、斉藤、安富、沖田、島田、毛利、尾形が顔を揃えていたのである。
以前から、頼まれていた、開発された新しい武器を試すためだ。
近藤隊では、新しい武器の試作具合を、何度も、実験させられていた。
主に、近藤や土方が、中心となっていたのだった。
今回は、その中に、斉藤や沖田が混じっている。
初めて訪れる場所に、興味津々な沖田に対し、表情を変えない斉藤だ。
近藤と土方に、向き合っている修理部の人たちの顔を窺う。
「安富さん。あの方たちが、修理部の人たちですか?」
促され、近藤と話している面々を確かめる。
「そうだ。隊長と、話されているのが、課長の黒崎さん、その背後にいるのが、開発を中心となって、動いている、長野、内藤、平井、椎名だ」
「何度か、修理部に伺ったことが、あるのですが、見たことない顔の人たちですね」
五人の顔を、捉えている沖田だった。
自分で、武器の調整を行うことができるが、細かい調整や、新たな調整の技術を見に、たびたび修理部に顔を出し、顔馴染みになっていたのである。
そうした際に、ここにいる五人の顔を見たことがない。
そして、個性的ないでたちと、雰囲気をしていたのだった。
黒崎の背後に控えているのは、男性(内藤・平井)二人に、女性(長野・椎名)二人と言う組み合わせだ。
「課長の黒崎さんは、何かと、忙しい人だからな。背後の四人は、開発にしか興味がない人間だから、奥に引っ込んで、武器の開発に、熱中しているんだ。だから、修理部にいっても、見かけることはないだろうな」
「へぇ……。そうだったんですね」
視線を剥がせない沖田。
汚れたり、破けたりしている作業を着ている面々。
そうした格好しているにもかかわらず、気にする様子もない。
手にしている真新しい武器や、脇に並べられているに武器に、意識が持っていかれているようだった。
「楽しそうですね」
「……彼らにとっては、楽しいのかもしれないな」
「希望先、修理部でも、良かったかもしれません」
思わぬ沖田の言葉に、眉間にしわを寄せている。
「……上層部の方が、泣くぞ」
「そんなの、気にしません」
「……」
「僕としては、楽しいところがいいんで」
「深泉組は、楽しいか」
「勿論です」
はっきりと口にしている態度に、安堵する安富だった。
修理部の内情を、語ってくれた安富に、にこりと微笑む。
真面目な性格のため、質問されれば、自分が知る限りのことを教えていた。
単独行動が多い斉藤を、サポートしていたのだった。
「ただ、気をつけろ。あの四人には」
「どういうことです」
「開発バカだから。時々、使う人間のことを、忘れることがある」
「使い勝手が、悪いって、ことですか?」
愛嬌のある顔を、コテンと傾げてみせる。
こんな表情をされたら、瞬時に、魅了されてしまっただろう。
(自覚がないのか? ……やれやれ、困ったものだ)
「……ま、そういうことだろうな。威力が高く、爆発したり、周りのデザインに拘り過ぎ、使いづらかったりと、いろいろだ」
嘆息を、安富が漏らしていた。
何度も、斉藤の代わりに、試作の実験につき合わされていたのである。
その光景がありありと、目の前に蘇っていたのだった。
そして、もう一度、溜息が出てしまった。
大怪我をさせられそうになったことが、何度かあったのだ。
「安富さん?」
愛嬌たっぷりに、首を傾げている。
「すまぬ」
「いいえ」
「とにかく、この仕事は、気をつけるように」
「わかりました」
ちょうど、近藤との話を終えた黒崎が、笑顔を絶やさない沖田の前に来た。
値踏みするような双眸にも、いやな顔一つしない。
沖田も、黒崎のことを窺っていたのである。
(武器開発に熱心なのか……。それなりに、武器に精通しているんだろうな。いい筋肉の付き方して入るし……。腕だって、悪くない……。楽しい人たちが、修理部にも揃っているんだな)
浅黒い肌をしている黒崎。
作業を着ていても、質のいい筋肉が、身体全体にある。
さらに、腕の筋力も違っていた。
控えている四人よりも、武器に精通しているのが、把握できたのだった。
(面白そうな人だな)
双眸を、キラキラさせていた。
ほんの僅か、黒崎が眉を潜めている。
目の前にいる安富は気づかない。
「初めまして。沖田です、今日は、よろしくお願いします」
「ああ。修理部で、課長をしている黒崎だ」
ニコニコと、笑顔を携えている。
どこか、胡乱げな眼差しを、黒崎が注いでいた。
そして、軽く息を吐く。
「……身体は、丈夫か? ま、だからS級ライセンスが、取れたのだろうな」
「……そうですね」
「だったら、しっかりと頼むぞ」
ごつい手で、沖田の肩を叩いた。
「はい」
視線の矛先を代えた。
「安富もな」
「承知しました」
用が済んだと、背後で、近藤たちと喋っている部下たちに、顔を巡らせた。
のん気に、試作品のことを、熱く喋っている部下たちに、呆れ顔だ。
話に夢中になって、準備に取り掛かっていない。
「準備に、取り掛かれ」
響き渡る声に、咄嗟に背筋を伸ばす四人の部下たち。
まだ、睨みを利かせた視線を、黒崎が巡らせている。
「「「「はい」」」」
気合いの入った返事し、手際よく、準備に取り掛かっていく。
その光景を、面白そうな眼差しで、沖田が眺めていたのだ。
読んでいただき、ありがとうございます。