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天翔ける龍のごとく  作者: 香月薫
第5章 散華 後編
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第91話  四人で、今後の協議する

 人気の少ない会議室に、かつての芹沢の部下であった清河、八神、安住涼太郎、野村ハンスの四人が、密かに集まっていた。

 全員が集まれば、目立つので、四人だけだ。

 周囲の目を盗んで、ようやく集まれた。


 誰も、重い口を開こうとしない。

 深泉組を潰されることは、いったん回避できた。

 だが、今、置かれている状況を、誰も、良しと思っていない。


 銃器組や特殊組、特命組が仕事を放棄し、上層部にかかわる、行方不明な親族の捜査だけをし、深泉組に迷惑をかけた上に、深泉組が上層部によって、潰されそうになり、かつての芹沢の部下たちが必死に暗躍していた。

 その結果として、深泉組が潰されることは免れる。


 けれど、上層部や上司からは、これまで以上に、目をつけられる羽目になってしまっていた。

 ここにいられるものも、ほんの僅かな時間しかない。

 それぞれ、監視から逃れ、会っていたのだった。


「どうにか、深泉組が潰されなくてよかったな……」

 沈んだ空気の中、清河の口が、ようやく開いた。

 だが、会議室が、曇よりとしている。

 誰一人として、清河の言葉に、楽観視できない。


「……ああ。私たちの怠慢のせいで、だからな」

 瞳を伏せたままの八神だ。

 比較的、口数の少ない八神が喋っていた。

 珍しい光景だが、誰も、突っ込もうとしなかった。


「……だが、ハチ。随分と、無茶したな」

 壁に背中を預けている清河を、心配そうに窺っている安住だった。

 上司や上層部の醜聞となるネタを、清河が使ったのだ。

 他の者たちは、辛抱強く説得していた。

 渋面している清河だけ、やり方が違っていたのである。


「使いどころだろう」

 悪びれる素振りがない。

 もしもの際の時に、取って置いたネタだった。


 現在、上層部や上司から、清河は目をつけられている。

 ここに訪れるまで、かなりの数の監視者を、撒いてきたのだった。

 かつての芹沢の部下だった他にも、出世とも言える、局長と言う立場からも、周囲からの嫉妬が含まれていたのだ。

 虎視眈々と、清河のライバルたちが、蹴落とそうと、躍起に動き回っている。


「慎重に、動くべきだった」

 窘める野村に、清河が半眼していた。

 睨まれても、動じない。

 ただ、無言の抗議を、受け止めている。


「寄せ」

 睨め合っている二人を制する八神。

 嘆息を漏らす安住だった。

「……俺たちで争って、どうする? ハチ、無茶し過ぎだ。俺たちも、いたんだ。もっと、穏便に、事が運べたかもしれないだろう」


 今回のやり方に、安住は納得していない。

 上層部や、上司たちを説得しても、埒が明かない状況だったことも、十分理解していた。

 何度、説得しても、聞き入れて貰えなかったのだ。

 そのため、業を煮やした清河が、脅しのネタを解禁し、深泉組を潰さないように成功したのだった。

 だが、風塵の灯火でもあった。

 また、深泉組を潰す勢力が膨らむか、予断ができない状況だった。


「リョウ……」

 意見する安住に、納得いかない顔を覗かせている。

 同じムジナと、清河が巡らせていたからだ。

 どこか、清河と安住は、似ている部分があった。

 清河同様に、目的のためならば、手段を選ばないところが、安住にあったのだ。


「それに、ハンス。ハチを心配しているのがわかるが、逆上させて、どうする?」

「……すまん」

 殊勝に、野村が謝った。

 まだ、清河が不貞腐れている。

「俺たちが集まったのは、今後のことだ。ケンカするためではない」

 清河と野村に、八神が視線を巡らせている。

「「……」」


 昔から、清河と野村がぶつかり合っていた。

 仲が悪い訳ではない。

 ただ、二人してケンカし、切磋琢磨し、より一層、仲を深めていった。


 不意に、昔を思い返している四人。

 毎日のように言い合いや、ケンカがあったが、日々充実し、楽しかった。

 その日々は、遠い昔に思えてならない。

 二人を面白そうに、眺めていたのが芹沢であり、二人を仲裁していたのが近藤だった。


 芹沢と近藤は、ここにはいない。

 それぞれに、顔を曇らせていく。

 空しさだけが、残っているだけだ。


「……随分と、変わってしまったな」

 何気なく、安住が漏らした。

 かつての芹沢の部下たちの多くが、銃器組において、出世していたのである。

 そして、重要な仕事に、携わっていたのだった。


 銃器組としては、彼らを潰したくないのが本音だ。

 潰さずに、芹沢の存在を、剥がしたかったのである。

 けれど、上手くいっていない。

 誰一人として、未だに、芹沢を敬っていたからだ。


「そうだな……」

 か細い声で、清河が返した。

 清河と野村が、一触即発な状況の際でも、八神が逡巡していたのだった。

 伏せていた瞳を上げ、三人の顔を窺っている。

「状況は、極めて不利だ」

 三人が、コクリと頷いている。

「これ以上、俺としては、近藤に迷惑を掛けたくないし、掛けられない」

 同じように、頷いていた。


 近藤一人に、負担を掛けたいとは、誰一人思ってもいない。

 だか、自分たちが傍らにいない以上、傍にいる近藤一人に、圧し掛かってしまう現状に、居た堪れないのもあったのだ。


「芹沢班長に、行動を慎んでくれと言っても、たぶん無理だ。俺たちの話に、耳を傾けてくれない」

 八神の言葉に、黙り込んでいる三人。

 同意見だった。

 四人同時に、嘆息を吐いた。


 清河、安住、野村の顔を、真剣な眼差しで見つめている。

「だから、俺は、上にいく。今の俺たちの力では、芹沢班長や、近藤を助けるのは無理だ。力を強化し、二人を助ける」

 確固たる意思が、双眸に込められていた。

「「「……」」」

 いきなりの宣言に、誰も、二の句が告げられない。

 誰も、八神が、そんなことを、口走る人間だと思ってもみなかった。


「……やめようかと思った。だが、それをやめて、上に行く」

 上層志向が、薄かった八神。

 昔、芹沢からも、欲を出せと、よく言われていたのだ。


「……だが、俺たちは、目をつけられている」

 困惑を隠せない顔で、安住が漏らした。

「それでも、上に行く」

「随分と、偉く出たもんだな」

 面白そうに、清河の口角が上がっている。

 現段階では、局長の清河よりも、八神は一つ下の班長を務めていたのだった。


「俺は、幹部になる」

「確かに、八神が本気になれば、なれるだろうな。何せ、清河が、局長になったぐらいだから」

 笑いながら、野村が漏らした。

 僅かに、ムッとしている清河だが、反論しない。

 彼の中でも、八神の評価が高かったからだ。


「そうだな。まさか、ハチに越されるとは思ってもみなかった」

 茶化す安住だ。

 先ほどの重い空気が、微かに軽くなっている。


「言っておくが、正統な実力で、局長になったんだから」

「そうなのか?」

 楽しげに、安住がおどけてみせた。

「当たり前だ」

「なら、今度からは、慎重に動けよ」

 ムッとした顔を、清河が滲ませていた。


「そうだ。どうせ、局長になったんだから、八神同様に、上を目指せ」

 いたずらな顔を覗かせながら、野村が突っ込んだ。

「うるさい。俺は、これ以上、上に行くつもりはない。面倒だ」

 ややいじけている清河の姿。


 クスッと、安住や野村から、笑みが零れている。

 清河に、さほど出世欲がないことを、誰も知っていたのだった。


「イツキ一人より、もう一人ぐらい、いた方がいいだろう?」

「だったら、リョウが行けばいいだろう?」

「俺か……。無理だな。自分の力量は、わかっているつもりだ。せいぜい、局長止まりだろうよ」

 おどけながら、安住が首を竦めていた。


「ま、冷静に考え、俺たちの中で、上に行けるとしたら、清河、八神、……近藤だろうな」

 近藤の名を耳にし、徐々に、顔が沈んでいく清河と八神。

 三人の顔を注ぐ野村だった。


「な、近藤を、どうにか、深泉組から、外さないか?」

 野村の意見に、誰もが、怪訝そうな顔を覗かせている。

「芹沢班長は、無理だ。異動しようと言う意志がない。だが、やりようによっては、近藤だけは、戻せるんじゃないのか?」

 提案内容を、それぞれに咀嚼していく。


 伏せていた顔を、僅かに、八神が上げた。

 そして、まっすぐに、一番近藤と親しいだろう清河に、視線を巡らせている。


「何で、近藤は、深泉組に落ちた?」

「……わからない。喋ろうとしない」

 苦渋に満ちた清河を、安住が捉えていた。

 仲間同士で、近藤と親しかったのが、清河だった。

 お前のことだから、調べたんだろうと、視線で投げかけている。


「……調べた。けど、突き止めることができなかった」

 目を見張る安住と野村。

 一人、八神だけは、そうだろうなと言う顔を滲ませていた。

「僅かな痕跡も、無理だったのか?」

 顔を、思いっきり顰めている清河だ。


「嘘だろう」

「まったくだ」

 不貞腐れた顔を、窺わせていた。

「……上層部で、握り潰したようだ」

 わかっている現状だけを、清河が吐露した。

 上層部が、握り潰したことだけは、掴めたのだった。


「上層部が?」

 眉間に、しわを寄せている安住だった。


(上層部が、手を加えるような案件だったのか?)


「揉めたのか?」

 閃いたことを、野村が口走った。

「揉めたら、上層部が、潰そうとしないだろう?」

 バカと言う顔を、清河が注いでいた。

 鋭く睨んでいる野村だった。

 ケンカは寄せと言う顔を、八神が浮かべている。


「とにかくだ。清河でも、掴めないとすると、徹底的に、隠すことがあったのか?」

 考えに耽っていく安住。

 だが、仕事に対し、真面目な近藤が、何を仕出かしたのか、見当もつかない。

 やるにしても、芹沢のかかわることだろうと至る安住だ。


「班長のことか?」

「違う気がする」

 安住の意見に、真っ向から、清河が否定した。


「あの頃は、一切接点を切っていた。俺たちにも、会おうとしなかったんだぞ」

 特殊組にいた際、近藤は、かつての仲間と、連絡を切っていたのだった。

 無理やりに、清河が近藤に会いにいったり、連絡していたりしていたのである。

 近藤は徹底し、かつての仲間や、芹沢を避けていたのだ。


「……では、何だ」

「わからない」

「きっと、近藤は喋らないだろう」

 八神の意見に、清河が同意している。

「頑固だからな」

 ぼやく野村だ。


「……俺たちとしても、目立つ訳にはいかない」

 安住の言葉に、頷く三人。

「しばらくの間でもいいから、芹沢班長には、おとなしくしてほしいが……」

 不安そうな安住を、清河が捉えている。


「……この前、独断で接触した」

 意外な話に、ばつが悪そうな清河を、三人が見つめていた。

「すまない。どうしても、芹沢班長に、自重して貰いたかった……」

「……結果は、ダメだったんだな」

 その先を言えない清河に成り代わり、安住が確認する言葉を投げかけた。


「……」

「だろうな。あの人を説得するのは、無理だ。昔から」

「だな」

 ふと、脳裏に、過去の無茶振りを掠めていた。


 部下たちは、つき合わされていたのだ。

 そんな芹沢でも、部下たちは誰一人欠けることなく、ついていったのだった。


「そろそろ、戻らないと」

 三人の顔を窺い、八神が口にした。

「今まで以上に、慎重に動くことだな。特に、清河」

 安住の眼光が、落ち込んでいる清河を捉えている。


「……気をつける」

「なら、いい。緊急の出来事がない限りは、集まるのも、控えた方がいいな」

「「「同意」」」

 時間を置き、ぞれぞれの職場に、四人が戻っていったのだった。


読んでいただき、ありがとうございます。

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