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天翔ける龍のごとく  作者: 香月薫
第5章 散華 後編
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第89話  堺少将に呼び出される

明けましておめでとうございます。


今年も、週一回、投稿できるように頑張ります。

 堺少将の部屋に、近藤が呼び出しをされていた。

 室内に、堺少将、その背後に、中村少将が控えている。

 人を屈服させるような、圧を放出させている二人の前に立っていた。

 近藤の表情が、微かに困惑している。


 部屋で、仕事をしていると、至急、来るように命じられたのだった。

 呼び出し理由を告げぬままだ。

 事務作業を放り投げ、堺少将の部屋に、早々に訪れた。


 逡巡している近藤。

 それに対し、目の前の堺少将は、無言だった。

 薬の摘発の件は、ほぼケリがついていた。


(なぜ、呼び出されたんだ? ……芹沢隊長が、何か仕出かしたのか……、それとも……)


 訝しげなから、考え込んでいるが、全然、呼び出された内容が不明のままだ。

 呼び出され、何もない訳ではない。

 上層部に、ひた隠しにしていることが、多過ぎたのである。

 辛抱強く、鋭い眼光に晒されながらも、耐えていた。


 中村少将が、蔑むような眼差しを注いでいる。

 だが、堺少将は、圧を感じる双眸を、傾けていただけだった。

 容赦なく、ヒリヒリするような殺気を、降り注いでいた。


 堺少将の重い口が、ようやく開く。

 眼光は、鋭く傾けられたままだ。

「呼ばれたことに、心当たりがあるか?」

「申し訳ありません。ありません」

 真摯に、頭を下げる。

 伏せながらも、二人の様子を窺っていた。


(読ませてくれないな、堺少将は。露骨な顔をしているが……、私の知らないところで、原田たち辺りが、何か仕出かしたのかもしれないな)


 心の中で、嘆息を吐いた。

 無言の怒りを、放出している前でできない。

 過ぎらせているのは、負傷していた痛々しい姿だった。


 つい先日、芹沢の訓練と言う名のしごきにより、原田班や永倉班は、全員負傷させられていたのである。中でも、井上の状態が一番酷く、最近まで入院していたのだ。

 その鬱憤を、無理やり黙らせていたのだった。

 街中で暴れたのも、しょうがないかと抱く。


 視線を剥がさない近藤。

 堺少将が、諦念している近藤を見据えている。

「……沖田は、随分と、芹沢と仲がよいそうではないか」

 意外な話に、思わず、眉を潜めてしまった。


 二人して、花街で飲んでいたことを、告げられたのである。

 芹沢隊と新見隊が混じり、酒を酌み交わしていたことは把握していた。

 だが、二人で、出かけたのは初耳だった。


(芹沢隊長にも、困ったものだ。沖田と、二人で出かけるなんて……)


 ここで、沖田の名前が出てくるとは思ってもみない。

 愛嬌を絶やさない沖田の顔を掠めている。


(やってくれたな、沖田……)


 何か仕出かすのではと、近藤の中で燻っていた。

 思考を読ませない、沖田に警戒をしていたが、今回はノーマークだった。

 自分の愚かしさに、落ち込んでいく。


(こんな時期に、芹沢隊長と出かけるなんて……。自分がマークされているのは、わかっているはずなのに、何をやっているんだ)


「沖田ですか……」

「そうだ、沖田だ」

「芹沢隊長も、興味があるようで、何かと、声を掛けているようですが……」

 しどろもどろな近藤である。

「知らぬのか」

 目を細め、立ち尽くしている近藤を射抜く。


 背後に控えている中村少将が、これ見よがしに、溜息を漏らしていた。

 侮るような双眸を、巡らせていたのだった。

 そして、甘んじて、受けていたのである。


(確実に、見ていなかった、私の失態だ……)


「何をしているんだ? それでも、沖田の上司なのか? 部下のことも、把握していないなんて」

 意気揚々と、中村少将が攻め立てた。


(我慢だ、我慢だ)


「……申し訳ありません。で、沖田は、何を仕出かしたのでしょうか」

「……これだ」

 堺少将が、一枚の写真を、近藤の前に置いた。

 三人の姿が、映っていたのである。

 その場に、崩れ落ちそうになるのを、必死に堪えていた。


 芹沢の愛人である小梅を中心に、その脇に、芹沢と沖田が写っていたのだった。

 写真を、食い入るに見つめてしまう。

 人違いではなく、芹沢と沖田がはっきりと写っていた。


「花街で、その写真が出回っている」

「……」

「それと、沖田に、変な役職を与えたんだな」

「役職?」

 当惑している近藤。


(何のことだ?)


 そんな姿を、二人が窺っていた。

「備品係の、副委員だ」

 堺少将の言葉にフリーズし、思わず、頬が引きつっていた。


 不意に、斉藤の顔を、思い浮かべてしまう。

 めったに見せることがない、嬉しそうな顔だ。

 何気に言った原田の一言により、斉藤が喜び、引くに引けなくなり、放置したままだった。

 まさか、ここで、それも、堺少将から、聞くとは思ってもみない。


(元をただせば、原田だったな……)


 思わず、遠い目をしている。

「聞いているのか?」

「……聞いています。どうして、それを……」

「花街で、広まっているぞ」

「……何で、花街で?」

「知らぬ。そんなくだらない役職を、与えたのか?」


 冷めた眼差しを、堺少将が注いでいる。

 それも、更なる圧をかけてだ。

「……はい」

 苦渋しながら、認めた。


 実際は、沖田を副委員に承認したのは、斉藤だった。

 けれど、斉藤を放置したままだったのは、自分だったからだ。


「随分と、遊んでいたんだな」

「……申し訳ありません」

 平謝りするしかない。


 堺少将の眼光が、険しくなっていく。

 さすがに、背後に控えている中村少将も気づき、顔色も優れない。


「S級ライセンスを、軽んじているのか? 深泉組では」

「……いいえ」

「だったら、なぜ、このようなことになった」

「……」


(何で、花街に広まっているんだ? 原田や永倉辺りが、喋ったのか?)


 頭が痛い出来事に、微かに、うな垂れるしかできない。

 沖田自身が喋ったとは、思ってもいなかったのだ。


「近衛軍も、外事軍も、それに、徳川宗家に仕えている家臣にも伝わって、警邏軍は随分と、のん気なものだなと、嘲笑されているぞ」

「重ね重ね、申し訳ありません」

「部下一人も、満足に、コントロールできないのか」

「……申し訳ありません」

 謝る言葉しか出てこない。


「バッチも、作る予算もあるのなら……」

「それは、沖田が自らお金を出して、作ったものです」

 胡乱げな双眸を、堺少将が巡らす。


(深泉組に、そんな無駄にできる予算なんてない!)


「沖田自ら、デザインし、沖田のお金で、作ったものだそうです」

 重苦しい空気が流れていく。

 真意を見定めようと、双眸を近藤に向けていた。

「……。あれは、そんなものに、金を使っているのか」

「はい」


(これ以上、深泉組の予算を削られては、堪らない。ここは、ちゃんとしておかねば)


「どれぐらい、掛かっている?」

「金額は、申していませんでしたが、実際に、目にした感覚で、申し上げれば、緻密で精巧に、デザインが施してありましたので、かなりの金額に、なるのではないかと」

 苦虫を潰したような顔を、堺少将が覗かせている。

 ますます、圧が上がり、中村少将が汗を流していた。


「沖田は、何を考えている?」

 素直に、思っていることを、堺少将が漏らした。

「……わかりません」

「仕事振りは、どうだ?」

「真面目にしております」

「腕は?」

「かなりの腕前かと」

「お前と戦い、勝つのは、どちらだ?」


 目を細め、立ち尽くしている近藤を見上げている。

 堺少将は、近藤の実力を把握していたのだった。


「……まだ、沖田の本気を、見ておりませんから、正確か、わかりませんが、今の段階では、辛うじて、私が勝つかと」

 冷静に、分析した結果を述べた。


(数年後は、変わっているかもしれないな)


 胸の中で、自嘲気味に近藤が笑っている。

 中村少将は、そんな近藤の姿に、気づいていない。

 だが、堺少将だけは、感じ取っていたのである。

「そうか」

 目を閉じ、堺少将が逡巡している。


 近藤も、中村少将も、口を挟まない。

 ただ、ひたすらに、待っていた。

 ゆっくりと、目を開け、目の前の近藤を見据えている。


「まだまだ、伸びるか」

「はい」

「芹沢と、強くなった沖田では、どうだ?」

「わかりません」

「本当か?」

 疑る眼差しを巡らせていた。


「はい」

「……今後、沖田に、バカな行動はさせるな」

「承知しました」

「では、下がれ」

 頭を下げ、堺少将の部屋から出て行った。




 部屋から、近藤の姿がなくなる。

 軽く、息を吐く堺少将。

 背後では、まだ中村少将は、緊張が解けない。


 堺少将は目を細め、承認証を渡した際に見た、沖田を思い浮かべていた。

 上層部の面々が並ぶ中、沖田一人だけが、愛嬌を振りまいていたのだった。

 周囲にいる猛者たちが、殺気を醸し出す中だ。


(何を考えているんだ、沖田は?)


読んでいただき、ありがとうございます。

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