部内恋愛~弓道部~
ある日曜日の朝、僕は弓道部の部室兼練習場の弓道場に来ている。
休日で練習は休みなの僕以外は誰もいない。しかし、そこで僕は道着に身を包みながらある人をまっている。
そこにたんたんと足音が聞こえてくる。
僕はその音に胸の鼓動が高まる。
がらがらっと道場の入り口が開くと同時に我が校の制服を着た彼女が入って来た。
彼女は背が高く引き締まった身体に綺麗な黒い短い髪は彼女の大人びた雰囲気を醸し出している。胸は少々残念だけどそこはまぁスレンダーでいいなとも思う。
「お、⋯⋯おはよう」
「おはよう」
僕は少し緊張しぎみになんてしまったが、彼女は気にもしない様子で返した。
「もう練習はじめてるの?」
「いやまだだよ。準備だけして待ってたんだ」
「そう、じゃあ私もすぐに着替えるね」
彼女は道着の入った袋をもってさっそうと物置部屋に入り着替えを始めた。
鍵のかかっていないドアのの向こうで彼女が着替えていると思うと胸の鼓動がさらに高まっていく。
彼女は僕と同じ2学年の弓道部の部員だ。クラスは違うので部活だけの付き合いということになる。
それでも昨年は同じクラスだったが、ろくに会話をいたことがない。それに僕だけじゃない、クラスの誰も弓道部の部員も先輩後輩にかかわらず、彼女と話したことのある人は少ないだろう。
僕と違って1年生からこの部に入部しているのにだ。
それでも僕はそんな彼女のことが好きなのだ。
彼女と会える時間をつくるためにこの部活に入ったんだ。
彼女を好きになったのは入学式の日に彼女の姿を初めて見たとき、僕の中の何かがはじけた!
一年生のとき、彼女とクラスが一緒だったと知ったときの僕は嬉しすぎてその場ではしゃいでしまいたくなるほどだった。
席は離れていたが毎日彼女と同じ空間ですごせるのは僕にとって毎日が幸福の時間だった。
たまに彼女と目が合ったり話したりできる日はもう有頂天だ!
だが、それ以上に進展はなく一年が過ぎてしまった。
二年生になってクラス替えで彼女とクラスが別れてしまったと知った時はすごく悲しんだ。連絡先も知らないし彼女が僕のことを覚えてもらえているかすら怪しいところなのに彼女とクラスまで別れてしまうと、もう彼女との接点が全く無くなってしまう。
そんな恐ろしいことになりたくなくて、僕は彼女が所属している弓道部に入部した。
弓道部は僕が予想したよりも辛く、筋トレの毎日で体が筋肉痛で痛かった。それに道具や矢などの道具にかなりお金が掛かってしまっているが辞めようとは思わなかった。
部活中に彼女と会話することはほとんどないが、僕が彼女にアピールするチャンスだと思えば耐えてこられた。
そしてこの日僕は彼女に告白することを決意した
そんな彼女が壁一枚挟んで着替えていると、つい覗いてはいけないと分かっているもつい彼女の着替えている姿を想像してしまい顔が紅潮していまう。
ばっとドアが開き、弓道着姿の彼女が出てきてた。
その和風な感じが彼女の美しさをさらに際立てていた。
制服などが入ったカバンを荷物置き場に置き準備体操を終え弓と矢を持ってこっちに来た。
「練習⋯⋯はじめよ」
「うん。わかった」
軽くお互いに矢を的に向かって飛ばす。
やっぱり、彼女は僕より上手だった。
的に当たってり矢の数が僕より多かった。
それでも僕はこれからしようとしていることに諦めようとは全然思わなかったのだ。
「ねぇ、勝負してみない?」
「勝負?」
「そう。それで勝った方が負けた方に一つなんでも言うことをきかせることが出来る」
彼女は僕の言葉に戸惑っているのか、考えてるふうな顔をした。
「嫌ならいいんだ。無理にやらせようとは思わないから」
「…いいよ。やろう」
「本当に⁉」
正直自分でも断られる可能性の方が大きかったと思ってたので意外と言えば意外だった。
それでもこれで僕の思わくどうりだ。
「それで…どういう勝負にするの?」
「お互い矢を四本もって多い方が勝ちってことで、それで勝負がつかなかったら、その後はまた矢を四本もって勝負するってのはどうかな?」
「わかった」
彼女が同意してくれたところで、僕の恋が成就するかが決まる勝負が始まる。
お互い弓と矢を用意し的の前に立った。
先行は僕、後攻が彼女だ。
ここで勝てば良し、負けたとしても僕の勝負する姿を見せればなんとかなるんじゃないかと最初は考えていたが、今は勝つことの未来しか考えられなくなっていた。
的前に立ちまず、僕が弓を引く。ここで外すわけにはいかない。もし外してその後彼女が当てれば僕が彼女を追いかけるかたちになってしまう。いや、今もある意味追いかけてはいるのだけど、まずリードして彼女の前にたつようにしなければならない。それがこの勝負を有利に進めて行く僕の考えた作戦だ。
その作戦が成功するかがこの矢にかかっている。
僕は的に集中し、狙いを定める。
そして矢を放った。
その矢は真っ直ぐ的に向かって飛んで行き、見事的に突き刺さった。
その矢を放し終わった僕はホッとした。
これで作戦どうりに進められる。
続いて彼女が弓を引く。
僕は彼女が追いついてくるのだと思っていたが、追いつかなければという精神的負荷が襲ったのか彼女の矢は的から外れた。
なんにせよ、僕はリードしたまま勝負を進められる。
次を当てれば二本リードすることになって、すごく有利になるのだが、一本目が当たったことで気が緩んでしまって二本目の矢は外れてしまった。
やばい、これでは次に彼女が当てれば追いつかれてしまうと思ったが、彼女はまた外してしまった。
彼女はどうしてしまったのだろう?さっきまでとは全然違っていた。
僕の後ろに立っているので顔は見えないが、さっきまでと明らかに違う。まるで勝負をする気がないようだった。
その後、僕は彼女のことが気になって勝負に集中しきれず残り二本を外したが、彼女は一本も当てることはなかった。
勝負は僕が勝ったが、どうにも腑に落ちなかった。
なぜ彼女はあんなふうになったのか不思議で気になって僕は彼女のよっていった。
「どうしたの、体調でも悪かったの?」
勝負前の姿を見ればそんなことはないと分かっていたが、話しかけやすさからそんな言葉が出た。
彼女は顔を横に振った。
なら何が原因なんだろう?と僕が考えていると彼女はそっと近づいて来た。
「それで命令は?」
僕はん?と一瞬彼女の言っていることが分からなかったがすぐに気付いた。
もしかして勝負の賞品のことを言っているのか
「あ、えーと、じゃあ言うね」
「はい」
彼女は返事をしたとき、笑ったように見えたが僕は気にさず続けた。
「これから僕の言うことをちゃんと聞いて、それに正直に答えて欲しいんだ」
「それだけでいいの?」
「うん。ちゃんと正直に答えて欲しい」
僕はこれから言う一世一代の言葉言う。もし、失敗したら僕は死んでしまいたくなって、二度と彼女の前に顔を出せないかもしれない。
僕は真剣な眼差しとともに彼女に言葉を放った。
「僕と結婚を前提に付き合ってください」
目の前の彼女は驚きもせず、表情を変えなかった。
言葉の意味が伝わらなかった訳じゃないと思うけど、僕はさらに続けた。
「そして、将来は僕の子どもを産んで、家族になってください」
僕は言いたいことはすべて言った。言い切った。
あとは、彼女の答えをまつだけだ。
「……、それで私はそれに正直に答えればいいのね」
「うん」
僕のなかでは成功と失敗の両方結果が浮かんできて、頭がどうにかなりそうだった。
早く彼女に答えをだして欲しい。
「……、いいよ」
一瞬、彼女がなんと答えたか分からなかったが、すぐに理解できた。
彼女は僕の告白にOKをだしたんだ。
僕は嬉しすぎて、涙がでそうだった。
「僕でいいの?」
先ほど、OKの答えをもらったばかりなのについ、そうきいてしまった。
「うん。というか、知ってたし」
「え⁉︎」
どこで気付かれたんだろう。誰かに聞いたとかないと思うのだけど、
僕は今日の告白をことを誰にも話してないし、彼女にその情報を与える人もいないはずなのに……
「態度でわかりすぎだよ。あんな風に接しられたら誰でも気付くよ」
まさか、情報元は自分だった!
「一年生のときまさかなって思ってたけど、二年生になった弓道部までついてきてストーカーみたいで嫌だったけど……」
確かにあの時の僕は彼女のことでいっぱいいっぱいで、そんなところまで考えが及ばなかった。
「けど、毎日の君の姿を見て、変な人じゃなくて真剣に私と一緒にいたいんだってわかったから」
彼女の言葉に僕は心の底から嬉しかった。
嫌な印象から毎日の努力で、彼女に良い印象を与えられたんだ。
これまでのことが無駄じゃなかったんだ
「でも、……結婚とか……子どもはまだ約束はできないな」
「え、あぁ…、そっか……」
将来のことまで言ったけど、そりゃそうだよな。
また、これから頑張っていかなきゃなんだよな。
それでも、道は明るく見えた。彼女のためならもうなんでもできる気分だった。
「そのときはまた、勝負して決めてね」
彼女の言葉に僕は、戸惑いをみせたがそんなものはすぐに捨てた。
「うん。次もちゃんと勝って決めてみせるよ」
僕はできるだけ、カッコ良く言いたかったが、どうにもそういう感じは僕には似合わないらしい。
「次は今日みたいに簡単には勝たせないからね」
まさか、彼女は……
まさかね……
でないと、僕は男としての何かが砕けてしまうかもしれない。
そうならないように、これからも頑張っていかなくちゃ。
「じゃあ、練習の続きしよう。私に勝ってもらうためにね」
「うん。絶対勝つよ」
僕は将来あるであろう勝負の日のために、花嫁を手に入れるために励むのだ。
それと、僕はさっきから気になっていることを聞いた。
「けっこう、しゃべるんだね」
「君だけだよ」