3月5日
ゆきどけの春、体だけでなく心まで包み込んでくれるかのような温かい風が心地よい季節である3月は、
たしかに四季の中でも人気の高い季節なのだろう。
しかし春の陽気にあてられて、変質者などが多く現れる季節でもある。
目の前のメイドもその一種なのではないだろうか?
「ご主人様~? 聞いてますにゃん?」
例のように夕方ランニングに出るとまたこの薄暗い路地裏へと導かれてしまったのだが、
その路地裏にいた最近出遭った美しく、そして胸がでかいメイドは
--猫耳を装備していた。
「……」
俺は目線をそらし、走り直すことにした。
「ちょっと待つにゃん! また無視かにゃん!?」
流石にかわいそうなのでメイドの前にもどる。
「…なんだよその猫耳」
「…昨日言ったにゃん…猫が欲しいって!」
「欲しいけども! 猫がね!?」
「だからほら…わ、私を持って帰るにゃん?」
「猫耳メイドはいらんわ!」
付き合ってられるか、僕は家に帰るぞ!
そう思い走り出そうとする僕に痛恨の言葉が突き刺さる!
「兄失格にゃ!!!」
「……!!??」
兄…失格、だと……!
「いいのかにゃ~? 妹に猫も買ってあげられないなんて駄目兄にゃ~?」
「うぐ…っ!」
「妹ちゃんもかわいそうにゃ、こんな駄目な兄を持って」
「がは…っ!!」
「兄失格ってことは、妹ちゃんは没収にゃね!」
「うわあああああああああああああ!!!」
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「兄さん」
「どうした? 妹よ」
「くさい」
「え?」
「最愛の妹に猫も買えない駄目な兄さんとは一緒に暮らせません」
「お、おい何を言って…」
「あ、ついでに嫁に出ます。新居さんという人はあなたと違って猫だけじゃなくいろいろなものを買ってくれます」
「ま、待ってくれ!!」
「せいぜい自分がどれだけ駄目兄だったか噛みしめて生きてください。 一人で」
「い、妹! まってくれええええええええ!!!!」
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「……」
「わかったかにゃ? でも大丈夫にゃ。私を連れて帰れば解決にゃ! さぁ…ってどこ行くにゃ?」
「…いもうとぉ…いかないでくれぇ…お兄ちゃんが悪かった」
「き、聞いてるにゃ?」
何か聞こえるがそんなことはどうでもいい。
今は妹のことで忙しいんだ。なんとか土下座してでも許してもらわねば…!
「妹ぉぉぉ! 今すぐ帰るぞぉぉぉ!!」
「また逃げる気かにゃ! に、にがさな、「ふんっ!」にゃぁあああああああ!」
うるさいメイドの頭を掴み思いっきり投げる。
「な、投げたにゃ! 女の子を投げたにゃ! 最低にゃ!」
「ふん…猫耳メイドに人権はない…」
「差別反対にゃ! ま、待つにゃ…! …!」
後ろから何か聞こえるがおそらく気のせいだろう。
妹よ! 待っててくれ!!