表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

しめじ三郎 幻想奇談シリーズ

しめじ三郎 幻想奇談~家飲み~(888文字お題小説)

作者: しめじ三郎

お借りしたお題は「家飲み」です。

 その日は無性に飲みたくなった。課長にネチネチと小言を言われたのと、彼女に別れ話を切り出されたのが重なり、精神的に参っていたせいかも知れない。行きつけの居酒屋でビールで喉を潤し、チュウハイで勢いをつけた。何軒目だったかは定かではないが、妙に気が合う同世代と思しき男とつるみ、更にはしご酒を重ねた。財布の中が寂しくなって来たので、家に帰って飲み直す事にした。誰もいない一人暮らしの独身寮だから、何の気兼ねも要らないとそいつも誘った。理由はわからなかったが、そいつとは話が合い、酒が美味かった。だからいくら飲んでも悪酔いしなかった。初めて会った奴なのに何十年もの付き合いがあるような感じがした。

「いくら飲んでも悪酔いしないなあ」

 するとそいつは微笑んで言った。

「たまにはそんな時もあるさ」

 ふと床を見ると、焼酎の瓶が三本転がっていた。そいつが差し出した瓶で四本目だ。多分、これで買い置きがなくなったはずだ。これを空けたら、お開きだな。そう言えば、酒の肴がない。チーズは食っちまったし、するめもかすしか残ってない。冷蔵庫を開いてみたが、マヨネーズとケチャップしかなかった。

「まあ、いいか」

 俺はゲラゲラ笑って、そいつとグラスを傾け続けた。

「こんな風にお前と酒が飲めて楽しかったよ」

 そいつの声が聞こえた時、不意に睡魔に襲われた。


 目が覚めたのは、外が騒がしかったからだ。玄関のドアの前に幾人もの人の気配がした。やがてドアのロックが外され、ドヤドヤと人が入って来た。先頭は寮長。相変わらず眉間に皺を寄せて神経質そうなジイさんだ。そしてその後ろからは、何故か別れた彼女が泣きそうな顔で入って来た。更に課長、同僚、警察、救急隊員。部屋の中はまさに立錐の余地もない程だ。何故か誰も俺には見向きもせず、奥の寝室に入っていく。失礼な連中だと思い、後に続くと、寝室には何故か血塗れで事切れている俺がいた。彼女の泣き声が聞こえた。そうか、昨日一度寮に帰って、カッターナイフで首を切って自殺したんだ、俺。いくら飲んでも酔わないはずだよ。そして、飲みに付き合ってくれたのは、子供の頃に死んだ親父だったのに気づいた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] お父さんは本当に、自害した息子と酒が飲めて嬉しかったのか? 読んでいて、とても複雑な気持ちでした。 死んでしまったあとに、残った人間の悲しい姿を見るのは、辛いですね。
[良い点]  短い文章でよくまとめておられるな、と感心しました。かなりの技量のある方ですね。「何十年も付き合いがあるような」と伏線もちゃんと張られていて、素晴らしいです。 [一言]  ホラーは大好きで…
[一言] こういう作品は律子さんの真骨頂ですね! ホラーの神村の王道ですね。 このシリーズは結構好きです。 執筆お疲れ様です。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ