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勝利と敗北・その先にある希望②

 道中、俺は一言も喋れなかった。

 アーネストが黙々と校舎に侵入し、二階の保健室に向けて歩いていたのもあるが、それ以上に自分から話しかけるなど恐ろしくてとてもじゃないができなかった。

 保健室に着くとアーネストはティアをベッドに寝かせ、治癒魔術による治療を始める。アーネストが手をかざすとティアの身体は薄い青色で包まれた。

 旧校舎の講堂で切断した彼女の両腕をいとも簡単に接合した時も思ったが、この男は治癒魔術が専門の魔術師なのだろうか。

 しかし、ティアの擬似魔術の属性は主に滅属性だった。おそらくティアに礼装を与えたであろうこの男も滅属性を主とするはず。とすれば、アーネストの主属性は水と滅なのだろうか。治癒といえば水属性の特徴の一つだから。


 アーネストはティアの治癒に意識を向けている。

 今なら不意をついて逃げることくらいは可能かもしれない。しかし、俺はそう考えただけで実行しようとは思わなかった。

 俺はこの男に敗れ、すでに諦めている。

 この男になら──、ティアを想い、そしてティアに頼られるこの男になら。

 今までの行為による罪を裁かれてもかまわないと心のどこかで思っているのだろう。

 とりあえず、今はじっと待つことにした。

 治療にそこまで時間はかからず十分ほどで終わった。


「──ふう、これで大丈夫だろう」


 そう安堵の息を漏らすアーネスト。俺はその言葉が作業が終わったことを示しているのだと解釈した。

 アーネストはティアに優しく布団を被せるとこちらに振り向く。


「さて、おまえが大講堂で言っていたことについてはティアの通信機越しに聞いたんだが、幾つかロイドくんに確認したいことがある」


 言いながら俺を凝視する。

 再び襲いかかるその威圧感で嫌な汗が流れそうになる。

 もしここでアーネストを蛇に例えるなら、俺は間違いなく蛙だろう。

 俺は訊かれたことに関しては全てを話すことにした。

 ──本当に惨めだ。

 アーネストは続ける。


「おまえは妹であるエレナを救うためにここに来て『星座の魔術』を試みようとした。それは真実か?」

「はい。その通りです」

「そうか。なら、それを前提に話を進めていく」


 そう言ってアーネストは近くの椅子に座った。おまえもどこかに座れ、と言われたので、俺も近くにあった椅子に座ることにした。


「ロイドくんは今までに使い魔を使役して多くの人を襲ったはずだ。まずはその者たちの共通点について訊きたい。俺はティアに被害者の共通点は全くないと言ったのだが──」


 ああ、それで彼女は無差別に襲ったとか、恐怖心が何とか訳の分からないことを言っていたのか。


「実際のところおまえが狙った者は皆、魔術師だったのだろ」

「……ええ、その通りです。この計画には複数の魔術師に生け贄になってもらう必要があった。生け贄と言っても死なせるわけではなく、ある特定の場所で全ての魔力を魔石という装置に注がせるだけですが」

「それがおまえのやろうとしていた魔術の前準備というわけか?」

「そうなりますね。ただ、ある魔術師が警察に死神がでたなどと言ったため、こんなに大規模な騒ぎになってしまったんですけど」


 だからと言って専門外の警察がどうにかできるとは思ってなかった。死神という単語に関してはただの気の狂った者の妄想として片付けられるだろう。

 それよりも、他の魔術師に気がつかれる危険性が高まったことは俺に少なからず焦燥感を植えつけた。


「なら、その魔術師は今どうしている? まさか見逃したなんてことは言わないだろ」

「その魔術師は三人目の生け贄にしましたよ。たまたま特定の位置を彷徨っていたので」


 その言葉にアーネストはふむふむ、と頷く。ただ「やはりそうか」という囁きだけは何かと気にくわなかった。


「その時、魔術師たちは魂が抜けたように昏睡状態に陥っていたという。ティアからも死神が魂を抜き取ったのではと聞いたが、どうなんだ。実際にできるのか? 今の俺が知る限り、そんな魔術を行使できるのは知り合いの一人しかいないのだが」


 そんなこと並の魔術師ではできない。おまえがやったとは全く持って信じられない、とアーネストは言う。


「……拍子抜けするかもしれませんが、あれはただ死なない程度に魔力を根こそぎ奪った後、強力な催眠で眠らせ続けているだけです。俺が意図的に解かない限り、眠り続けます。彼女の友人、確かレンさんでしたか。その人もただ眠らせてあるだけなので命に別状はありません」

「だが、レンちゃんは魔術師ではない。何故襲うようなまねをした」

「理由は二つあります。まず一つ目はできる限り関係の無い他人を巻き込みたくなかったこと。計画を調べようとし、魔石を持っていった彼女が真相を知る前に、魔術という闇を知る前に対処しておきたかったんです。

 そして二つ目がティアさんの憎しみの対象になること。『星座の魔術』発動のためには膨大な魔力に加え、強力な魔術と異能が対峙する必要があった。その上で勝利し、敗者を媒体として魔術を発動させる」

「全てはティアと戦う為の布石だったわけか」

「そう考えてもらってかまいません」


 次にニコルさんを襲うと言ったのも、ティアに逃げ道を無くさせるためだった。

 それを聞いてからアーネストは気がついたように言う。


「そう言えば、おまえはレンちゃんが何故計画を探っているって分かったんだ。魔石を持っていったことも含めて」

「魔石が無くなった時点ではまだ誰が持っていったのか分かっていませんでした。ですので、その者を見つけるためにある魔術を使ったんです」

「ある魔術?」

「はい。少し特殊な術で、俺の魔力に触れた者のみ俺の姿を察知でき、声も聴こえる、というものです。元々は学園内に侵入するために使おうとした魔術で、特殊な膜で全身を覆い姿を見られなくするものです」


 ついでにある程度の魔力を遮断してくれるため、自分の使い魔にもこの魔術をかけておいた。というのを付け加えてから話を続ける。


「ただ先程言ったような自分の魔力に触れた者や高位の魔術師には効果がないという欠点があったので、ここで一つ目の欠点をうまく活用させてもらいました。魔石には俺の魔力も含まれていますので。

 後は、まあ物凄く恥ずかったのですけど、口ずさんだりしながら街を歩き回りました。しかし魔石を持っていった者を特定する前に、ある能力者に見つかってしまいましてね」

「それがティアだった、ということか」


 俺は頷くと続きを話した。


「先ほどの方法で捜しながら学園内の構造を調べている時です。ティアさんが物凄い速さでやって来たんですよ。彼女にぶつかられた瞬間、姿を隠すために纏っていたものが消滅したんです」


 それ以上に喉が潰れそうで恐かった。


「あの時は俺を殺るために来たのかと身構えましたが、授業の時間に間に合わせるための近道を走っていただけだと。ここの制服を着ていたことが幸いしたのか、そのまま俺が魔術師だと気がつかずに行ってしまいました」


 それを訊いたアーネストは何故か「やはり役に立ったか」とわけの分からないことを囁く。

 俺は無視して話を続ける。


「そのせいで計画を少し変更することになりましたけど。元々はティアさんと深く関わらず、学園を破壊するとかいう予告状を送ってティアさんと戦う予定でした。

 彼女がどれだけこの生活を大事にしているか、俺は知っていましたから。しかし、その後もいろいろ付きまとわれまして。何とかその場をしのいで距離をとろうとしたのですが、結局一緒に行動することにしました。うまくいけば魔石を持つ者についてティアさんから情報を聞き出せる可能性もありましたし」


 アーネストはそうか、と頷いてから訊いてくる。


「それでティアは正直に全て話したのか?」


 少し怒り気味だった。

 ティアはこの恐怖にいつも耐えているのか?

 だとしたら、すごい精神力だ。


「いいえ。そんなことはありません。ですが、ティアさんは俺の髪、普段は黒色ですけど、これを見てあることを言ったんです。自分の友人が珍しい髪の色をした外国人を見た、と。そこで確信しました。

 彼女の友人に魔石を持っていった者がいると。この学園って意外と外国人の生徒が多く、それらを見慣れている人の言う珍しい髪の色といえばその数はある程度絞られるんです。そこからいろいろ探って、目的の人物がレンさんだと判明しました」

「そうか。話が逸れるが、おまえの地毛はどちらの色だ」

「黒ですけど。死神の魔術を使う時のみ髪の色が銀になるんです」


 それがどうかしましたか? とアーネストに訊いた。


「特に害はないだろうが、使い過ぎには気を付けろよ。元に戻らなくなる可能性があるからな」

「は、はい。わかりました」


 この男は俺を気遣ってくれたのか?

 よくわからない。


「それで?」


 急にアーネストが訊いてくる。


「それで、とは?」

「レンちゃんが魔石の所持者だとわかった後だ。おまえはすぐに魔石を取りに行かなかったのだろ? そこに何か理由があるのか?」

「あるにはあります。一番の理由はティアさんの前から違和感なく消えるためですね。なるべく消えてからティアさんと戦うまで準備期間が欲しかったので。

 後は裏切られた時の衝撃をより大きくするためです。その時期をうかがっていたのですが、なかなか来なくて。そこで旧校舎の探索時に死神を最大まで強化させ、ティアさんと共に戦うことにしました。

 そこで負けて俺が連れ去られる、というのを考えていたのですけど。先にティアさんが殺されかけまして。さすがにここでティアさんに死んでもらっては困るので、捨て身で庇いました」


 まさかの予想外だった。

 死神が俺より先にティアを狙うとは思わなかった。


「ティアさんを庇って負けたため彼女は負い目を感じていたのでしょう。自分のせいで俺を傷つけた、自分がいなければ勝てていたかもしれない、と。ここが最後の機会だと思いティアの前から姿を消しました」


 俺を探さないように書き置きを残して。

 それに、あれ以上一緒にいれば、ティアを殺す時に躊躇してしまいそうだったから。

 いや、どうなのだろう。

 もしアーネストが来なかったとしたら、俺は本当にティアを殺していたのだろうか。


「……それからの一週間は充分な魔力を魔石に蓄えるのに使用しました。そして奪われた魔石を回収し、ティアさんを挑発して旧校舎へ誘き寄せました」


 その後、ティアを戦闘不能まで追いつめることには成功した。そこまでは良かった。概ね予定通りと言えただろう。

 だが失敗した。

 最後の最後にこの男、アーネストが現れたことによって。


「これが、今回おまえがやっていたことなんだな」

「はい。間違いなく」

「そうか──」


 アーネストは数秒の間何かに引っかかったかのように沈黙した。

 問いかけが途切れたタイミングで俺からも質問をしてみる。

 たぶん答えてくれはしないだろうけど、それでも訊いておきたいことがひとつあったのだ。


「その……俺からも一つ質問があるのですが。ティアの腕、あれはなんですか? うっすらと見えたあの断面。あれはまるで──」


 と言いかけた瞬間、アーネストの冷たい視線が俺を貫く。


「ロイドくん。それ以上はいけない。おまえは今、口にしてはならないことを口にしようとした。その記憶は頭の奥底にしまっておくことだ」

「──は、はい」


 その時点で俺はもう口を開くことができなくなった。

 そんな俺の反応を確認してから、特に表情を変えることもなくアーネストは訊いてくる。


「話は変わるが、おまえの炎と死神の魔術は親から受け継いだものか? それとも独学か?」


 なぜ今になってそんなことを訊いてくるのか。

 それに、俺はまだ炎の魔術を使うなど一言も言っていない。まあ、ティアから聞いたのだろうが。


「どちらも違います。両親は普通の人でしたし、一から独学で身に付けれるような代物ではないことはあなたのほうがよく分かっているはずです」


 言うと、そういうことかとアーネストは納得したように呟いた。


「それでは話を戻そう。これが最後。俺が一番訊きたかったことだ。『星座の魔術』を発動するための手順を言え」


 アーネストは今までになく命令口調だった。

 俺は素直に手順を説明した。


 まずは星座の魔術を発動させるために必要な土地を見つける。

 対応する土地を見つければ、星座を描く星の位置に魔石を配置する。

 場所に関しては自然に発生した魔力が星座の線のように繋がっているため、線と線が交わる点を目印にして配置すればよい。

 点の場所は魔力の溜まり場で、星座でいう光の強い位置ほど魔力の密度が高くなっている。


 次に魔力の一番高い場所(今回はテレジア学園の旧校舎)にのみ魔法陣を描き、その中心に魔石を埋め込む。

 そして全ての魔石に魔力を充填した後、魔術師と能力者が魔法陣付近で戦い、それにより魔力と異能の力の渦を発生させる。

 これで初めて星座の魔術を発動させる準備が完了する。


 ただし、配置した魔石には常時魔力の充填が必要だった。本来は複数の魔術師が補助に付きその役割を果たすが、今回に限り魔術師から魔力をほぼ全て奪いとり、それを少しずつ充填していくことで代用した。


 最後に殺した者が殺された者の身体を媒体にして魔術を発動する。もし能力者が勝った場合、どうなるか俺にはわからない。おそらくその時点で魔術の進行は止まり、消滅してしまうだろう。


「こんな具合でいいでしょうか?」


 と言って説明を終えた。

 説明ご苦労様、とアーネストは微かに笑みを浮かべる。


「おまえの説明からすると最初から全て一人で行ったように聞こえたが、どうなんだ?」

「そんなことはありませんよ。確かにこのテレジア市街での活動は基本俺一人で行動してました。ですが、魔石を準備してもらったりなどある程度の助けはしてもらいました」

「そうか。ならば、おまえに魔石を渡し、この街で『星座の魔術』を発動させるように助言した者がいるんだな。おまえに魔術を教えた者と同一人物かは知らないが──」


 そして、アーネストは訊ねる。

 今までの問答が全てこの質問のためだけにあったと言わんばかりに。


「──ロイド。おまえはその者たちのことを覚えているか?」


 何を言っているんだ。

 たった数ヶ月前にあった人だ。

 覚えているかって、そんな大事なこと覚えているに決まって……



「……あれ? 何も、思い出せない」



 確かにあったはずの事実。

 しかしその人物の顔、姿、名前、何もかもが思い出せない。思い出そうとすればするほど靄がかかったようにそれを遮られる。

 死神の魔術、炎の魔術、星座の魔術。

 誰から教わったのか思い出すことができない。


「どうなってるんだよ……」


 混乱する俺にアーネストはため息混じりにそう呟いた。


「今、この状況で俺が教えてやれることはただ一つだ。おまえのやろうとしていた魔術がもたらす結果は世界を巻き込む奇跡の一端。十二の星座に対応する十二の至宝。獅子座に対応する『光の至宝』の降臨だ」

「──至宝の、降臨?」


 アーネストは「ああ」と頷いてから続ける。


「最初からおかしいと思っていたんだ。星座の大規模術式は間違いなく至宝降臨のためにある封印解除の魔術。そのための禁術だ。なのに、なぜかおまえは呪いを解くための魔術だと信じてこんでいた。いや、信じこまされていた、かな。もしかすると別の魔術の可能性があるのでは、と話を聞いてみたが、やはり俺の知るものと同じだった」


 至宝降臨の禁術。

 呪いを解くための魔術。

 信じこんでいた?

 信じこまされていた?


「一体、何が言いたい?」


 アーネストは少し言いよどむ。



「──おまえの目的はこの魔術によって果たすことはできないんだ」



 つまり俺の求めていた魔術は手に入らない、と。


「それってどういうことだよ」


 何がなんだかわからない。

 うまくこの状況を呑み込めない。

 アーネストは一瞬俺から目を逸らす。


「非常に言いにくいことだが、おまえは妹さんを助けたいという心につけ入れられて利用されていただけだったんだ」

「おい、ちょっと待てよ」


 アーネストは俺の言葉を無視して続ける。


「無理に思いだそうとしてみろ。記憶が靄に覆い隠されるような感覚はないか」


 さっきのあの感覚か。


「──ある、と言ったら……?」

「これこそが術にかかっている証拠だ。何者かの手による記憶操作。それにより星座の魔術が呪いを解く魔術だと信じこまされ、それと同時に術者についての記憶も消された」

「嘘だろ」


 声が震えてる事に気付く。

 自分では抑えることができなかった。


「おそらくこれは事実だ」

「嘘に決まってる!!」


 気付くと俺はアーネストに掴みかかっていた。


「じゃあ、俺が今までやってきたことはなんだったんだよ。エレナのためにやったことも、俺がここに来たことも。それが全部無駄だったっていうのか。あいつは今も苦しんでいるっていうのに、あのまま放っておけって言うのかよ!」


 アーネストは口を閉ざしたままだった。


「何だよ。何か言ってくれよ。何でもいいから答えてくれよ。このままじゃ、俺はいいように使われたただの操り人形じゃないか」


 今まで気にすることのなかった過去。

 俺が星座の魔術を知ったきっかけ。

 どれだけ思いだそうとしても変わらない。

 俺の記憶は閉ざされたままだ。


「……ふざけるな! 俺は、俺はまた、エレナのために何もしてやることができないのかよ。もうあいつを助けることもできないのかよ!」


 俺はその場で崩れ落ちた。

 目の奥が熱くなり、視界がぼやける。

 床にぽたぽたと水滴が落ちていく。

 何時からだろう、俺の目は涙でいっぱいになっていた。

 そんな情けない俺に一つの声がかけられる。



「──立てよ少年。俺がいつ、どこで妹さんを助けられないって言った」



 それは俺にとって救いの言葉だった。


「──え?」


 アーネストは俺に手をさしのべる。


「見てられないよ、まったく。顔を上げろ。俺がなんとかしてやる」


 だが、俺には分からなかった。アーネストの心情が。この男の思惑が。


「俺はティアさんを殺そうとしたんですよ。そんな俺にあなたは何故」

「困ってる子供がいたら手をさしのべる。それが大人ってもんだろ。……って昔に恩人から言われたことなんだけどな」


 アーネストは一旦ティアの方を向き「こいつはこのままでも大丈夫だろう」と呟く。

 そして、俺の腕を掴んで無理矢理立たせる。


「さあ、そろそろ出発するか。早く妹さんのいる場所に行くぞ。時間が惜しい」


 アーネストは俺に向かって小さく微笑む。

 窓からの月明かりに照らされているせいもあるのか、その殺気の抜けた表情は講堂で初めて出会った時と違い、何故か優しい一人の親のように見えた。


「ありがとうございます」


 そう俺はアーネストに頭を下げた。


「──礼ならティアに言え」

「え?」

「今朝ティアと連絡をとった時のことだ。通信を切る直前、こんなことを言われたんだよ」




『やっぱり、わたしにはロイドくんが悪い心を持った魔術師には思えません。わたしはロイドくんを止めたい。でも、わたしの力じゃロイドくんの力に及ばないのも事実です。

 最初から負けるつもりで挑むわけではないですけど、もしわたしが負けた場合の話です。ロイドくんが本当にエレナさんのために戦い続けているというのなら、よければわたしの代わりに──


 ──ロイドくんを助けてあげてください』




「本当に馬鹿だろ、こいつは」


 とアーネストは微笑む。


「ええ、その通りですよ。本当に……」


 俺はあまり微笑むことができなかった。

 もし俺が星座の魔術を成功させていたなら、とんでもないことになっていただろう。

 後悔してもしきれないくらい。容易に想像できる。

 だから、ティア。これから先、もうおまえに会うことはないだろうから、今のうちに一つだけ言っておくよ。



「──最後まで俺を想ってくれて、ありがとう」



 そう言って、俺はアーネストと共にエレナの下へと帰っていった。

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