サイナシル家
そう言うとシャオは、おもむろにマイクを手に取り、何かのボタンを押す。
すると、ピーンポーンパーンポーン、といういかにもな音楽が流れてきた。
「あー、あー。聞こえてます?えーとですね。『ヒト持』の方々は、至急
図書室まで来てください。いいですか。至急ですよ、至急。」
と、この建物全体に放送するにしてはあまりにも砕けすぎている言葉遣いで、
この建物全体に、大音量で放送した。
すると、時を待たずして、図書室の扉が勢い良く開いた。
「おいシャオ!!大音量で流しすぎなんだよっ!スピーカーの近くで
気持ち良く飯食ってるやつの気持ちも考えろ!耳がつぶれるかと思った
だろうが!!」
開口一番。入ってきたのは小柄な少年二人だった。
年齢は十一、二歳だろうか。
今叫んだ方は、金髪の横にはねた髪と、目にかかる前髪からのぞく、翡翠の
きれいな瞳。いかにも気の強そうな少年だった。
もう一人は、薄茶色のくせ毛に、くすんだ紫の瞳。目じりが下がっている
ので、気が弱そうに見える。おそらく本当に気が弱いのだろう。憤懣やる方
なしの金髪の少年を、オロオロしながら止めに入っている。
「や、やめなよレイン・・・。シャオさんだって悪気があったわけじゃないし、
・・・多分・・・・・・。それに・・・その・・・シャオさんがうるさい
のは、いつものことだし・・・・・・。もういい加減、慣れた方が・・・。」
天然なのだろうか。わざとなのだろうか。
「止めてくれるなクラウド・・・・・・。俺はもう・・・限界だ。」
レインと呼ばれた金髪の少年が、淡々と言葉を紡ぐ。これはかなり怒って
いるようだ。
しかし・・・・・・。
「そうですよー。私がウザいのなんて、いつものことじゃないですかぁ☆」
・・・・・・プチン。
「殺す。」
わざとだ。絶対わざとだ。
レインがシャオに襲いかかろうとしたその時、
「・・・なにやってんのよ?」
と、よく通る高い声が響いた。
見ると、少女が二人、呆れ顔で立っていた。
一人は、長めの薄緑色の髪。その一部をリボンでまとめている。そして、
濃色の橙の瞳。十六、七歳ほどだろうか。背丈は、デュライア
より少し低い。
もう一人は、肩の位置まで伸びた桃色の鮮やかな髪と、群青の瞳。
口元には微笑を浮かべている。先の少女より一、二歳年下だろう。
緑の髪の少女が、一目見て状況を察したらしく、シャオとレインの間に
割ってはいる。
「やめなさい。」
レインは、二人の登場に少し頭が冷えたらしい。不服そうな顔をしながらも、
渋々といった体で引き下がる。
「よし。」
「いやー、助かりました~。久々に本気で殺意がこもってましたねぇ。」
全く反省の色が見えない。
一段落ついたところを見計らい、桃色の髪の少女が尤もな質問を
投げかける。
「それで、シャオさん。どうして私たちを呼びつけたんです?」
全く関係ないが、一応さん付けされているところを見ると、辛うじて
立場が上なのだろうか。
「ああ、そうでした。」
そう言うシャオの顔が、スッと引き締まる。
「皆さんさっきから気づいてると思いますが、ここに居る方。今日から
仲間になりますんで。よろしくお願いします。」
予想していたのか、特に驚いた様子はない。ただ、興味と敵愾心の
入り混じった瞳が、いくつもこちらを向いただけで。
まあ、当然の反応だろう。
しばらく間をおいて、レインが口を開く。
「仲間になるのは良いとして、なんで俺たちだけに言うんだ?」
なるべく明るい口調を心がけているようだ。
ほかの者も沈黙をもってかえす。肯定だろう。
「簡単なことです。彼にはあなた方と一緒に行動してもらうから、です。」
彼らの瞳に、わずかに驚きが混じる。
「まさか、レイズリーの・・・?」
しかしその問いに、シャオは首を横に振る。
「いいえ。彼はレイズリーの関係者ではないでしょう。しかし・・・強い。」
その応えに、レインがすぐさま反論する。
「それだけじゃ、質問の答えに・・・」
しかしシャオは、それをさえぎり、
「ここの方たちの中には、レイズリーについて知らない方も沢山います
からねぇ。少々面倒くさいんで、あなた方以外には内緒にしときたいんです
よねー。」
と、元の軽い口調で言う。
嘘ではないだろう。ただ、それだけでもないだろうが。だいたい、何故
デュライアにはレイズリーのことを話したのか。
だが、それ以上は誰も追及しなかった。どうせ誤魔化されて終わることが
わかっていたからだ。
だから緑の髪の少女が話題を変える。
「まぁ、そういうことにしておきましょ。で、えっと・・・あなた、名前は
なんていうの?私はリスリナ・サイナシルよ。」
いきなり笑顔で話題を振られた本人は、ほとんど条件反射で質問に答える。
「あ・・・俺は、デュライア・ファルゴーツだ。」
そう言ってから、何か思いついたような顔になり、言葉を付け加える。
「いや・・・デュライア・サイナシル・・・かな。」
気の利いた答えに、リスリナは数度瞬きしてから笑顔になる。
「ええ。今日からはね。よろしく、デュラ。」
その会話で、警戒心が緩んだらしい。
続いて、桃色の髪の少女が自己紹介をした。
「私はレーナよ。よろしく。」
続いてレインとクラウド。名前は知っているのだが。
「俺はレインだ。デュラ、よろしくな!」
「僕は、クラウドといいます。」
いい感じにまとまりかけたところへ、シャオが口を挟む。
「申し訳ないのですが・・・デュラ君。いきなり大仕事みたいです・・・。」
ヒト持というのは、レイズリーの血を次いでる者の
あだ名みたいなかんじです。
レイズリーについて知らない人たちもいるので・・・。