街にて4
暗い。
痛い。
何も見えない。
何も聞こえない。
-------ザー・・・
「・・・・・・?」
何の、音だ?
耳元で何かがはじける音がする。
-------雨・・・?
「・・・・・・!」
おぼろげだった思考が、急速に冴え渡っていった。
そう。俺は、サンカトルクの少年、クランに刺されて。気を失った。多分、そのまま
殺された。はずだ。
でも。
「・・・何で・・・生きて・・・・・・?」
はっきり呟いたつもりだったが、声がかすれてほとんど言葉にならなかった。
代わりに、微かな鉄の味が口の中に広がる。
放っておけば死んでしまうような傷だったはずの左腹は、微かに痛みが残るものの、
疼くような激痛は感じない。
一体、どうなっているのだろうか。
さまざまな疑問がガイの頭の中をまわっていたが、その思考は、突然耳に入り込ん
できた声によって遮られた。
「お兄さんは・・・・・・ナニ?」
この声は、知っている。
サンカトルクの少年、クランの声だ。
重い体を起こし声がした方向を向くと、そこには、動けないのだろうか、首だけを
こちらに向けて地面にうつぶせに倒れているクランがいた。
「・・・・・・?」
そして、彼の表情を見て、思わず怪訝な顔をしてしまう。
あれほど、余裕綽々という笑みを口に乗せていたはずの少年の顔が、恐怖にゆがん
でいたから。
あれほどふてぶてしい目つきをしていたのに、その瞳におびえが滲んでいたから。
ガイのその表情を見て、クランは一瞬考えるような表情をしてから、余裕のない微
笑を浮かべる。
「お兄さん、何がなんだかわからない~って顔してるけどさ・・・僕がこんなことに
なってるの、お兄さんのせいだからね?」
「俺のせい?」
ますますわけがわからない。
「そ。まさかこのご時世、レイズリーにそんな高度な魔術を使える人間がいたなんて
ね・・・・・・。」
「魔術だ?」
身内で魔術を使える人間など、シャオとレイン以外にいただろうか。
「まあでも、知らないなら別にいいや。・・・殺しなよ。」
彼は、急に興味を失くしたように瞼を伏せると、あまりにもあっさりとそんなこと
を言った。
「まあ、動けないならどーしようもないわな。」
クランの言葉に当たり前のように反応してしまう自分に、内心自嘲を向けながらも、
しかし本当にこんな好機はもうないと立ち上がる。
体にわずかな違和感は感じたものの、動くのには問題なさそうだ。
そこで初めて、自分がナイフを握ったままだったことに気づく。
そのナイフをしっかっりと握りなおし、クランのもとに踏み出そうとして。
しかし。
「・・・・・・あれ、術解けた。」
と、間の抜けた声がして、クランがむくむくと立ち上がった。
「って動けてんじゃねーか!」
「あははー。お兄さんが立つと僕も動けるようになるみたいだねー☆」
「あははじゃねーよ。っとにめんどくせーやつだな!」
「あ、ひっどーい!・・・んー、でも、お兄さん。大丈夫だよ。僕、体に全然力入ん
ないしー。」
「信じられるかよ。」
「・・・本当だよ。」
そう言うクランの顔には、わずかな曇りすらない瞳と、全く邪気のない笑みがあっ
た。
それがあまりにも自然で、少年の言葉が真実だということを、心の奥底で信じてい
る自分がいた。
ガイは再び身構える。
人間の急所。それだけを狙う一撃。力はあまりいらない。
欲しいのは、技術。
彼の瞳から、一切の感情が消えていく。
ガイの一撃は、あまりにも簡単に、一人の人間の命を奪った。
それで、お終い。
ガイは、今息絶えたばかりの人間と、自らの手を交互に見て。
少しだけ、哀しげな顔をした。
「・・・さて、ヴァイアのとこに行くかね。」
頑張れば見えるほどの位置で、ヴァイアがまだ戦っている。加勢したほうがいいだろ
う。
ガイは、そちらへと歩を進める。
もう、振り返りはしなかった。
遅くなってすんません!!!
・・・あーあ・・・。双子キャラが・・・;;
でも、見逃すみたいなのは嫌だったので・・・。
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