合流
五人が、サンカトルク全員を倒すのに、そう時間はかからなかった。
倒れ伏す数十人の刺客たち。そして、返り血を浴びて立つ五人。双眸
だけが、鋭く煌めく。
レーナが軽く目を閉じ、息をつく。そして、目を開ける。そのときに
はもう、彼女の瞳は、いつもの優しげな光を燈していた。
ほかの四人も、いつのまにかいつもの表情に戻っていた。
誰も口には出さないが、先ほどのデュライアの戦いぶりに、少なから
ず違和感を感じていた。だが、それを論じてもなんの意味も無いだろ
う。そのため、リスリナが口にしたのは別の話題だ。
「服が真っ赤なんだけど・・・。これで街に入るのは無理よ?確かここ
で二人と合流するのよね。なんとかして五人分の服を用意してもらわな
いと・・・・・・。」
シャオが言っていた二人のことか。だが、その二人がいるのは駅だ。
汽車が事故を起こしたため、ここは駅の数百メートル手前。
今は夕暮れで、人通りは少なくなっているが、数百メートル歩いて
一人も人間に出会わない、なんてことはいくらなんでも無いだろう。
たとえ出会わなかったとしても、駅には沢山の人がいるのだから、
大騒ぎになることは必至。八方塞だった。
そのとき、レインがハッとなにかに気づいたような顔になる。
「いっそ、全員裸で・・・」
「バカなの?」
レインに最後まで言わせず、鋭いつっこみをいれたのはリスリナ。
「でも、どうするの?本当にそのくらいしないと、どうしようもない
わよ?」
と、冷静に分析するのがレーナ。
「・・・・・・・・・。」
全員が何かを考えるように、しばらく黙り込んでいた。しかしその沈
黙は、デュライアの間の抜けた声によって打ち破られた。
「あれ・・・・・・誰だ?」
その声につられて、四人が振り返る。すると駅がある方向から、二つ
の人影が近づいてきていた。それを見た瞬間、四人が安堵の表情を浮か
べる。クラウドが説明してくれた。
「あの二人は、駅で合流するはずだった二人です。なんでここに来たの
かはわかりませんが・・・・・・。」
何にしてもありがたい。ここから動けなかったのだから。
「大変だったみたいだなぁ、やっぱり・・・・・・。」
こげ茶色の短髪に、深い青の瞳。180cmはあるだろう長身の青年が、
苦笑して言う。
「もっと早く来られれば良かったんだけどね。服が必要になるだろうと
思って買ってたんだ。」
今度口を開いたのは、銀髪に黄色の瞳。デュライアと同じくらいの背丈の
少年だった。十六、七歳ほどだろう。
銀髪の少年が、デュライアのほうを見る。
「彼の服のサイズが分からなかったからてきとうに買ったんだけど、ちょ
うど良かったみたいだ。」
「そうそう、お前、名前なんていうんだ?シャオのやつが何も教えねえ
から。」
茶髪の青年が、苦笑を崩さずにたずねる。
「ああ、俺は、デュライア・ファルゴーツだ。」
「デュラ君、か。僕は、ヴァイアだよ。よろしく。」
「俺はガイだ。よろしくな、デュラ。」
ヴァイアもガイも、人当たりの良い好青年のようだ。
一通り自己紹介が終わるのを待っていたらしいレインが、待ちきれなく
なったように口を開いた。
「なぁ、着替えようぜ?」
新品の服に着替えた五人と、ヴァイア、ガイは、目的の駅へ向かって歩
き始めた。
しばらく経った頃、ガイが何かを思い出したように口を開いた。
「そういえば、お前らが来るまでの間、あの街でいろいろ調べてたんだ。
サンカトルクは、やっぱり俺らがこっちに向かってるのに気づいてるみた
いだぞ。」
予想していたので、驚く者はいない。
ガイの言葉を、ヴァイアが引き継ぐ。
「それと、図書館に行ったんだ。そこで、面白いものを見つけたよ。」
そう言って、懐から本を取り出し、近くにいたリスリナに投げる。
それを危なげなく受け取り、リスリナは怪訝な顔をする。
「なによ、これ?」
だいぶ痛んでいて、相当古いものだとわかる。
リスリナの問いに、ヴァイアが意味深な笑みを浮かべる。
「それの著者ね。シスラ・レイズリーだって。」
その言葉に、全員が驚きを示す。
シスラ・レイズリーとは、サイナシル家としてレイズリーを隠した張本
人だ。そして、生涯独身を貫いた女性。
「それは彼女の手記だ。それも、レイズリーが滅んだ直後のことを鮮明に
書き記したもの。具体的で、とても嘘とは思えない。けど、それに出てく
る人物の中に、僕らの知らない名前があるんだ。」
その言葉に、レーナが意見する。
「それは、ただ記録に残っていないだけじゃ・・・?」
けれどヴァイアは、その言葉を自信を持って否定した。
「いや、そんなことがあるはずが無い。もしその人物が本当に存在したの
なら。」
そこで一度言葉を切り、空を仰ぐ。そして、だって、と続ける。
「その人物の名は、シェイン・レイズリー。」
シスラの許婚にして、レイズリー家の次期当主になるはずだった人物なの
だから。
波がないっすねー、なんか。
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