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結婚式前夜

作者: 風池陽一

 一カ月前の日曜日、良夫は桂子と大阪市内のレストランで、披露宴の司会を頼んでいる高橋という男性に会った。高橋は桂子が披露宴に招待している男性だった。ただし良夫は高橋のことは全く知らなかった。桂子の友人とは言っても、桂子の職場の仲間でもなく、大学時代の友人でもなかった。

 それどころか、その時、良夫の目前に座していた男性は、桂子のとても友人となりえないと思われるタイプだった。良夫と同年代にしては、金の張りそうなブランドスーツを着ていた。いや、高級感というよりも派手さのみなぎる自己顕示欲を全身にまとっているようなスーツだった。しかも言葉使いやふるまいは、ホストや闇金マンのようだった。声は大きいし、口許がゆるんでいる時でも口角がさすようだった。

 そんなオトコと桂子は楽しそうに話し、桂子の笑顔は良夫と話をしている時の笑顔とかわりはなかった。良夫には桂子の笑顔がうさんくさく、いぶかしいものにおとしめられた気さえしてきた。

 休日に、ショッピングモールに出かける時、桂子はユニクロや無印良品のシャツでスリムなスタイルを決めていた。シューズやパンツは彼女が、「カワイイ」と言って買ったモノだ。桂子の見映えの仕上げは笑顔で、その笑顔を良夫はいとおしかった。

 「あのオトコはどういう関係の人か」と訊けば、職場の取引先の人の知り合いだと言い、「いつからあのオトコを知っているのか」と訊けば、六年前からだと言った。良夫がいろいろ訊いても、桂子はのらりくらりとあやふやにぼやかすだけだった。建設会社の営業マンの良夫にとって、その男性は桂子と紡いだ二年間では、遡ることのできない秘境の池の一住人のように思えた。

 打ち合わせをした日から三週間ほど、良夫の胸中は悶悶としていた。というのは、しばしば脳裏に、金ピカで襟の大きな礼服を着た司会者姿で男が現れたからだ。それは意識のすき間によぎる邪心そのものだった。

 しかし、それもある日から鎮まりだした。なぜなら、もう一人の司会者が、良夫の脳裏に台頭してきたのだ。ショッキングピンクのボディコンスーツを着た司会者姿の元彼女だった。元彼女との思い出は、ナイスボディのなまめかしさで満ちていた。

 結婚式前夜、良夫は桂子と電話でいつものように会話をして、「おやすみ」と電話を切った。(まあ、お互い様さ)と良夫はにやりと笑った。-

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