聖女召喚がうまく行きません
宗教の描写が多少あります。
ここは魔法がある世界のとある国。
偉いさんが集まってひそひそ計画を立てています。
「異世界から呼び寄せた聖女はどうしておる?」
「はあそれが、やれ食事がマズイや不潔すぎて耐えられないなど我がままばかりで、ちっとも祈りに集中できていないようです」
「ふむ‥」
この間聖女を召喚したのですが、国や時代をいい加減に設定したため役に立たない人間を連れて来てしまったようです。
「便利な時代から呼びよせる聖女はこの世界に適応しきれないようですな」
「魔王を倒せと命じても屁理屈をこねて断ってくるし」
「ニホン国からの召喚は転生の知識が一般的で当たりかと思いましたが‥もう1度、我々と近しい世界の人間を呼びよせよぅ」
偉いさんたちはニホン国の聖女に、この世界と似た時代を知っているかと尋ねてみます。彼女は『中世ヨーロッパ』が近いと答えました。
「よし、その時代と国から聖女を召喚することにするか」
(*作者注 ヨーロッパは国じゃなくて地域名だよ! 小中学生は覚えてね☆)
計画はとんとん拍子に進み、聖女召喚のやり直しです。
「ここはどこなのでしょうか?」
「おお聖女が召喚されたぞ! 聖女よ、どうか我々の国を魔王の脅威から救いたまえ」
中性ヨーロッパから召喚された聖女は、偉いさんへすぐ頭を下げます。
大神官は新たな聖女に異世界の説明をしました。
「わたくしが今ここにいるのは神の御業ですのね」
礼儀もできていますし、召喚されたことにもパニックになっていません。
部屋に案内しても食事を取っても文句の1つも出ません。
これならうまく行くか? と皆で胸をなで下ろしていたのですが‥
聖女の従者として見目麗しい若者があてがわれます。
「な、何ですの? 青とか緑の髪の毛に黄色や赤の瞳? 皆さま悪魔に取りつかれていますの?」
この世界の美男はどうもこの聖女様のお気に召さないようです。
「ま、まあそのくらいは問題ない」
そうです、聖女に必要なのは聖なる祈りなのですから。
大神官様が聖女に語りかけます。
「さあ、女神様に祈りを!」
「わたくしが祈るのは神にだけです。女神? そんな邪教など信じませんわ」
「え?」
大神官様の目が点になりました。
「しかしそれでは魔王を倒せません、どうか今だけでも我らが女神様に祈りを‥」
聖女はキッと大神官様をにらみました。
「わたくしが信仰するのはキリスト教のみ! キリスト教徒以外は全員悪人ですの!」
どうやらキリスト教徒である聖女様にとって、王も神官も魔王も等しく悪になってしまうようです。
「あ~中世ヨーロッパの人間は全員熱心なキリスト教徒だからね、この世界の宗教にはなじまないと思うよ」
王と大神官はニホンから来た聖女様に助言を求めましたが、何とも頼りにならない返事しか返ってきません。
「一神教と多神教の違いだろうね~その子に頼んでも絶対無理だと思うよ」
この世界の偉いさんでも知らない言葉でしたが、彼女の世界では千年たっても宗教の違いから戦争が終わらないのだそうです。
「宗教は怖いよ。多神教は若干融通が利くらしいけど」
「く、それなら多神教? で我らと近しい人間はどこにいるのだ?」
「え~? 昔で多神教でヨーロッパだったら‥あ、古代ローマがあるよ! 帝政期だとキリスト教徒が増えるから、共和制の時代にしときな」
王と大神官は神殿に戻りまた聖女召喚の準備です。
「もう少し魔力を回復させてください」
神官たちが懇願しますが、時は一刻を争うのです。
「ここは?」
大神官はお決まりの異世界説明を済ませます。
もう3回目なので慣れた物ですね。
「あなたの国はどこでしょうか」
「ローマですが」
「信じている宗教は?」
「我が家の守り神は女神ヴェヌスですわ」
やりました。古代ローマからの召喚に成功しました。
「で、では聖女よ、我が王国を救ってくれないか!」
王が必死の形相で頼みます。
しかし‥
「わたくし王になど従いません! 我がローマは王政を拒否しておりますから!」
「なに、また失敗したの?」
ニホン国の聖女はあきれています。
「王の言葉など聞けぬと断られました」
「う~ん、だったら共和制にしたら? 王様はいるけど、実権を執政官に渡せば」
政体を変えるなど無茶言いやがる聖女様です。
「一体どうすれば聖女は祈ってくれるんだ‥」
ぼやく大神官にローマの聖女が声をかけて来ました。
「こんな野蛮な国に連れて来られるとは思わなかったわ」
「え、あなたまでですか? 何が野蛮なのでしょうか?」
「上水道と下水道が整備されていないなんて考えられません! 国も技術者も何をやっているの!」
古代ローマ国からやって来た聖女は、『水道』の概念を丁寧に語ってくれました。
「それなら土魔法使いに命じればできそうだな」
戦時中なのであまり大規模な工事はできませんが、聖女たちが住まう神殿は水回りが整備されました。
建物の上部に貯水タンクを作り、水魔法使いが毎日いっぱいに水をはります。
使った水は土魔法使いが掘ったトンネルを通り、川下に流されるのです。
「うをお、水洗トイレじゃん!」
日本国からの聖女がはしたなくも叫びました。
しかしそれも無理のないことでした。衛生面が向上することで、神官たちの魔力回復速度も上がったのです。
「公共のテルマエがないなんてありえません!」
古代ローマ聖女の進言で共同風呂も整備されます。
「すげー、古代ローマすげー」
そして1番の効果は、健康を回復したニホン国の聖女がやっとやる気を出してくれたことでした。
彼女だって今まで一応祈りは捧げていたのです。生活環境が悪くて力が出せなかっただけで。
「やっぱ1人じゃ疲れるし‥、ねえローマの子」
ニホン聖女はローマ聖女に声をかけています。
「何でしょう? あとわたくしはクラウディアですわ」
「あ、あたしはヒナ、よろしくね。えっと、一緒に祈って欲しいんだ。この国に恩を売っておけば後々ローマの覇権に従いやすくなるよ」
異世界の国がこちらに攻めて来るわけないのですが‥ローマ聖女は一気に協力的になりました。
続いて彼女は中世ヨーロッパの聖女にも声をかけます。
「えっと確かジャンヌさんですよね。生まれはオルレアンですか?」
「違いますわ異教徒よ」
「あら残念、まあいいか。あのね、この世界の女神さまって聖母マリアらしいよ」
これはどう考えても偽りです。
「聖女とあろうものが嘘をつかないでいただきたい」
大神官様は注意しますが、ニホン聖女は動じません。
「え、だって聖母信仰は女神信仰由来だから似たようなものでしょう」
とにかく、3人の聖女が祈りを捧げたことにより、王国を覆った瘴気は消え去りました。
中世ヨーロッパ聖女の祈りがすさまじかったのです。
「な、祈念力3千だと!」
大神官が目に何かをかけてさけんでいます。
「さすが宗教に支配されている世界の聖女‥」
ニホン国の聖女はつぶやいていました。
瘴気が消えたので勇者一行は旅立ちます。聖女たちはお役目を果たしたので別について行きません。
「進軍するための街道も整備されていないし兵站計画がボロボロじゃない」
ローマ聖女からは不満が止まりませんが、瘴気を消した聖女たちは無事元の世界に戻されました。
「やっと、やっと終わったな」
国王と大神官は顔を見合わせてため息です。
「次呼びよせるとしたら‥どういたしましょうか?」
「もうしばらくは‥考えたくないぞ‥」
この出来事は後世のため、神殿で伝えられることになりました。
聖女はめっちゃ我がままだから呼び寄せる時は覚悟するように、って。




