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破門された神官、ゴブリンの村で第二の人生を送る  作者: 森田季節


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9 スクルド、槍を拝領する

 それと、治癒係以外に、もう一つ僕に課された特殊な役目があった。




 人間の言葉、それプラス、簡単な文字を教えることだ。




「いいか、ウシ、ウシ。ウ・シ」




 ゴブリンたちも僕の口の真似をする。




 僕の周囲には20人ほどのゴブリンが座り込んでいる。仕事の手が空いているのか、ドドとケケまでそこにいる。リリは狩りに行っている。体を動かすほうが好きだから、極力出払っているらしい。




「あのさ、ドドもケケも人間の言葉がしゃべれるんだから、僕が教える必要ないんじゃないか?」




 人間語教師の仕事中に後ろのドドとケケに言った。




「いや、俺が仲間に伝える時ははゴブリンの言葉を使うから、仲間もろくに覚えてないんだ。不要でも通じるから誰も覚えようとしねえ」


「それに、いくらなんでもスクルドさんのほうが達者ですしね。ぼくの言葉は書物で習った割合が多すぎて、おそらくこのへんの村の人間の言葉とは異なってきますし」




 なるほど、それはたしかに。文語と口語は言葉遣いが全然違う。近場の人間が使う言葉を教えないと役に立たない。




「近くの村の人間がしゃべっている言葉を理解できれば、どこかで使えるはずだからな。それに人間の言葉はエルフとかほかの種族も使ってるらしいから、覚えてて損はねえ。どんどん教えていってくれ」




 こう頼まれてしまったら、断るわけにはいかない。人間語の教師をやってやろうじゃないか。












 ゴブリンの村にしばらくいたことで、ゴブリンの社会がわかってきた。




 まず、人間の社会と比べて身分制度があまり複雑じゃないし、ものすごく流動的だ。ドドは村長をやれているが、前の村長との血のつながりは何もないらしい。人間の社会で次の伯爵をそのへんの有能な庶民にやらせるなんてことは、普通はない。




 ゴブリンの社会は体のデカい奴、ケンカの強い奴、たくさん食糧を確保できる奴がいつのまにか偉くなっていく。そいつについてくる奴が増えてくるのだ。




 それと、適材適所というか、何か一芸に秀でてると、それを仕事と認めてもらえるらしい。ケケや僕はこの一芸枠に近い。




 そうじゃない大多数の普通のゴブリンは狩りや食事担当といったものに配属される。狩猟がメインなことを除くと、僕の地元の村とも大差ないな。




 ただ、実はゴブリンも農耕も行ってはいる。

 肥料みたいなものは何も使ってないが、僕の住んでた村では雑草扱いされていた植物を植えている。小さな粒を集めると穀物に見えなくもない。




 豆も植えている。ゴブリンの集落の豆は野生のものより明らかに大きい。品種改良のようなことを誰かがやったんだろう。




 汚れた体は近くの川で2か月に1回ぐらいのペースで汚れを取りに行く。僕は週に1回ぐらいは行くことにしている。体質の違いなのか、そこまでゴブリンは体臭はないので、そこはありがたい。




 トイレは共同トイレがあるが、非常に臭い。あまり近寄りたくない。

 それはゴブリンもわかってるのか、集落から非常に遠い。集落近くで用を足した者は見つかると殴られる。おそらく集落が汚れると病気などが起きやすいと経験的に知っているのだろう。




 娯楽は……娯楽と呼んでいいのかわからないが、暇な時に適当に踊っている奴はいる。でも、リズムとか音楽とかはないので、あれが楽しいのかよくわからない。

 カエルを見つけてはジャンプするのを眺める奴もいるが、あれも娯楽の範囲に入るのだろうか。




 総じて、質素だけど、暮らせないわけではないという感じだ。




 キュアール教の幹部になるという未来は消滅したけど、結局村でのささやかな生活に戻ったと考えればプラマイゼロだろう。




 ――その時の僕は考えていた。



 だが、ゴブリンの村だけが平和なんてことはありえないのだ。














 集落に暮らして約80日ほどが過ぎ、掘っ立て小屋での寝起きも当たり前になってきた頃、ドドの呼び出しを受けた。ドドは村長だから部下のゴブリンが僕を呼びに来たのだ。



 ドドは竪穴住居ではなく、浅い洞窟の中で暮らしている。洞窟というより、村の中にある小さな丘の崖下の少し奥まった地形という程度だ。そこに木を並べて作った塀や門があって、奥にドドの居室がある。




「おお、スクルド、来たな」


「新しい業務でもやれって話?」





 人払いがされているのか、僕らのほかには誰もいない。多少、薄暗いがランタンがかかっているので、ドドの顔はよく見えた。




「そういうのじゃない。これまでの功労に対して褒美を出そうと思った。モノがこっちにあるんでな。ついてきてくれ」




 ドドが背を向ける。部屋の奥には小さな扉があり、洞窟の中に続く通路があった。僕もついていく。




「この先は武器庫だ。村長の屋敷と武器庫を合体させておかないと、ここを反対派に掌握されたらすぐに村長の地位を乗っ取られるからな」


「それはそうか。村とはいえ、けっこう物騒だね」


「人間は少なくとも村の中で殺し合って村長を決めないからな。ほかの村とも殺し合いにまでなることはあまりないだろ。ゴブリンは前の村長が居座りすぎると、その地位を奪ってやろうって奴も出る。まして近所の村と殺し合うのはしょっちゅうだ」




 着いた部屋はまさに剣や槍が並んでいるところだった。こんなにゴブリンって武器を持ってたのかと驚く。




「これだけ武装できたら人間の村も本当に滅ぼせちゃうな……」


「昔も言ったけど、そんなことはしねえぞ。こっちが勝ったところで人間が本気出して攻めてきたら、村を捨てるしかなくなるからな」




 ドドは壁に掛かってる槍の一本を取り出して、僕のほうに渡してきた。




 人間の兵士が使うような槍だ。ただ、途中折れた部分が紐で補修されている。折れたので人間が捨てたものを、ゴブリンの誰かが拾ったんだろう。




「今後は草の採取とかでも外出時はそれを持っていけ。いざという時の武器にもなるし、なによりお前の地位をわかりやすく説明してくれる。お前はそれだけ村に貢献した」


「わかった。大切に使うよ」




 ドドは僕の地位をこの槍で上げようとしてくれているわけだ。立派な槍を持ってるということは、集落内での大物という証拠になる。




「スクルド、この村を平和に保つのが俺の仕事だが、俺の夢はちょっと別にある」


「いったい、何?」


「どうせなら、もっと村を発展させたい」




 率直な言葉でドドは言った。




「いい夢だと思うよ。今の僕が言っても、追従してるように見えるけどね」


「別にいい奴ぶってるんじゃねえぞ。ただ、キュアール教とかと違って、この村の村長なんてものは死守するほどのものじゃないからな」




 僕は自分の友達がまともな感性を持っていてくれたことを内心で感謝した。




 ゴブリンの村のためなんてだいそれたことを僕は言えないが、少なくとも誰かを裏切るような恥ずかしい生き方はしないぞ。




 どうせ、ドドがいなかったら失くしていた命だ。




 有効に使ってやる。















 その日は朝の人間の言葉の学習がない日だった。



 ちょうどいいので、僕は村の外のほうに出ていった。村の外側の地理を本格的に覚えようと思った。野草を採りに出ることもあるし、狩りに治癒係として同行することもある。詳しくなって損をすることはない。



 これまでもちょっとした散歩をしたことはあるが、今はドドからもらった槍もある。少しばかり遠出をしても安全に対処できる。




 途中、それなりに大きいハトを槍で突き殺して、これはいい手土産になるなと思った時だった。




 視界の先にやけに肩幅の広い男が立っていた。

 最初、冒険者がこんなところまで入ってきたのかと思った。森だからありえないとは言い切れない。



 でも、上半身裸なのがわかった。腰巻ぐらいしかしてないように見える。となると、冒険者ではない? ゴブリンか? いや、あまりにも大きすぎる。




 違った。これはオーガだ。オーガで間違いない。




 なんでオーガがいるんだ? こんな奴が出てくるなんて人間の村でも聞いたことはないぞ。オーガは山の北側にしかいないはずだ。




 となると、野良の奴が降りてきたのか? やけにきょろきょろと周囲を見回している。




 もっとも、そんなことより、そのオーガがこっちを明らかに狙っていることのほうが問題だった。それぐらいオーガの殺気が明白だったのだ。



 向こうにも見られたか? ハトを入れた皮袋に目がいった。しまった、血の匂いにでも反応されたかもしれない。





「グゴガアアアア!」





 突っ込んでくるオーガに僕はあわてて槍を構える。こりゃ、ハトを置いていったからって許してくれそうにないな。僕を餌だと思ってる態度だ。




 このために武装してきたんだ。あっさり殺される気はないからな!

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