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破門された神官、ゴブリンの村で第二の人生を送る  作者: 森田季節


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5/10

5 神童と呼ばれる

 神官養成学校での生活はそれまでの暮らしと比べると、少しマイナスだった。




 ただし、兄さん家族に気をつかわずに済むのはすごいプラスだ。




 とくに寮の食堂ではパンやスープのおかわりができる。これはとんでもないメリット! 家に住んでいた時は、兄さんかカーミラさんがおかわりするかと聞いてきた時しか、そんなことはできなかった。でないと、露骨に図々しい奴と思われてしまう。



 食事担当でもある寮母さんの話によると、



「神殿には農作物も寄進されてくるんだよ。だけど、農作物はお金みたいにずっと置いておくわけにはいかないだろ。いただいたものを腐らせて無駄にするなんて、キュアール神様がお定めになっている悪徳十五条の一つ、『人の善意を無駄にする』に該当する。だから、漬け物にしたりできない分の農作物はどんどん食べてしまうしかないわけさ」



 とのこと。たしかに頼んでもないのに農作物が集まる環境なら、どんどん消費しなきゃという気持ちにもなるよな。



 僕はおかわりの常連になって、町の商人の子供ノルからは「おかわり君」とあだ名をつけられた。事実なのでそんなに悪い気はしなかったし、こいつもそんなに悪い奴ではなかった。




 勉強も難しくはあったが農作業の手伝いよりは楽だったし、僕はかなり本が読めるほうだったので、成績も最初のうちから上から数えたほうが近かった。




 じゃあ、どこにマイナスの要素があるんだという話だが――




 ゴブリンの友達に会えないのは、やっぱりつらい。




「なあ、スクルド、お前の村にはどんな友達がいたんだ?」



 町の商人の子供ノルが聞いてくる。ノルは町で友達が多かったので、それの自慢をするためにこんな質問をしてくるわけだ。



 ここでゴブリンの友達がいたなんて話をすれば恐怖されるのは間違いない。




「ああ、パン焼き職人の家のラックって奴がいてね」




 僕はそこまで仲良くもない同世代の子供のことを語る。ノルが地元の村に確認をするわけはないので、ウソがバレることはないだろう。




 でも、あまり楽しい気分ではない。そりゃ、そうだ。ウソなんてつかずに済むならそのほうがいい。ウソに巻き込んだラックにもちょっと申し訳ないしな。




「へえ、田舎でもパン屋なんてあるんだな」


「いや、逆だよ。田舎すぎて町みたいにパンの店がないから、村人のためにパンを作る仕事の人がいるわけ」


「ふうん。スクルドの話を聞くと、田舎でもそんなに野山で遊んだりはしてないんだな。そういう話、全然出てこないもん」


「ま、まあね……。獣が出て、けっこう危険だったりするし……」




 本当は毎日、森の奥まで行ってゴブリンと遊んだり、一緒に勉強をしたりした。



 キュアール神の悪徳十五条の中には「人を欺く」というのも入っている。ウソを推奨する宗教なんてないだろう。子供のうちから僕はずっとウソをついているけど、将来的に大丈夫だろうか。



「ところで、ノルはなんで神官を目指すの?」



 罪悪感を紛らわすためにこっちから質問した。



「商人って他人の恨みを買いやすいんだ。ずる賢い商売をしてるとか証拠もないのに言われたりしてさ。俺は三男坊で家を継ぐ必要もないから、人から尊敬される仕事を目指せって親に言われた」



 さらっとノルはしゃべったが、なかなか大変だなと僕は思った。



 商人なんて世界中にいるけど、町の八割が商人なんてところは絶対ない。特殊な存在だからやっかみを受けやすいのだろう。だったら、ゴブリンと友達なんてことは絶対に表に出すべきじゃない。




「正式に神官に任命されたら、まずは地元の教区を巡回する仕事を任されたりするらしいぜ。俺の家を悪く言ってた奴らがぺこぺこするって思ったら、今がちょっときつくても我慢できるな」




 最下級の神官に任命されるのはたしか16、17歳ぐらいだったっけ。まだ6年は先だ。




 その間にゴブリンの村が消滅してたりしないよな……? ゴブリンの村の情報なんて絶対に入ってこないからまったくわからない。




 あと、ゴブリンの村が残っていてドドたちも元気だとしても、5年以上たてばスクルドなんて知らないと言われてしまう危険もある。ゴブリンの側も人間の友達がいると知られるのがまずいってことはありえそうだし。




 けど、これは悩んでも意味のないことか。今は神官になることだけ考えよう。












 僕は治癒魔法の習得にとくに熱心に取り組んだ。

 治癒魔法は治癒の女神であるキュアール神の神官には必須のものだ。だから、不真面目な生徒は普通はいないが、その中でも僕の真面目さは群を抜いていた。




 早朝から精神集中のための瞑想を毎日やっていたし、魔力が増えるという俗説のあるセロリも苦手だったけど食事ではたくさん食べた。



 まあ、後者はおそらく無意味でせいぜい健康になるぐらいだろうけど……。




 その成果が出たのか、僕が入学した学年で、最初に治癒魔法を唱えたと認められたのは僕だった。



「では、次。スクルド」



 魔法の教官が名前を呼ぶ。僕は前に出て、ブロンズの胸像の前に立つ。この像を治癒する相手とイメージして、治癒魔法を使うのだ。




 右手を差し出す。そして、力を籠める。

 傷ついたこの者を癒やしてくださいと祈る。




 僕は治癒魔法もどきなら、七歳頃から使えた。素質はあるはずだ。





 僕の手から淡い緑色の光が生まれる。



 しばらくして、その光はゆっくりと空気に紛れるように消えていった。




「うむ! 成功! 今のは魔法として成功したものとみなす!」




 教官がそう言うと、同時にほかの生徒からも歓声が上がった。




「ほ、本当ですか? 治癒魔法もどきじゃなくてですか?」



「治癒魔法もどきだと、光が生まれても即座に消えてしまう。今のお前の光は5秒近く留まっていた。魔法の手前の状態から、魔法の領域に入ったとみなせる」



「やった! これで神官だ!」



「それは気が早いがな。神官の試験では3回連続で治癒魔法と認められるものを使用できなければならん。しかし、お前の成長が速いことは事実だな。スクルド、お前、今、何歳だった?」



「少し前に十一歳になりました」



「十一歳か。たいしたものだ。今後も励みなさい」






 僕が神童と呼ばれているという話は、ほかの生徒の噂話からちらほら聞こえてきた。



 さすがに本人の前では教師も神童なんて言うことはないが、ほかの生徒の前では「スクルドを見習いなさい」なんてことを教師が言ったりするらしい。




 家にいるだけで厄介者扱いされてた僕が人に羨まれる立場になるなんて……。人生って変わるものなんだな。





 十三歳の時には僕は中級の治癒魔法まで使えるようになっていた。



「このままいけば、お前は幹部クラスの神官の昇進ルートに乗るぞ」



 ノルがそう言ってきた。



「でも、僕は後ろ盾が何もないよ。寒村の農民上がりだし、上級の神官になれるとは思ってないよ」



「それぐらい、お前は特例だってことだよ! 十三歳で中級の治癒魔法を使えたなんて話はこの二百年で一例しかないらしい。出自を重視して下級の神官で終わらせるわけにはいかなくなってきてるんだ」



 もちろん悪い気はしなかったけど、ちょっと怖くもあった。何か落とし穴があるんじゃないか。



「あのさ、僕に権力欲なんてないからね。地元の村や町の教会の管理でもできればそれでいいんだ」


「お前に上昇志向がないところが教師からはかえって好評らしい。ただ、黙々と魔法を極めようとしてるってさ」


「へ、へえ……」



 嬉しくはあるけど、勝手に期待されると、もし幻滅されるようなことがあると、一気に信頼失いそうで怖いぞ。



「先に偉くなったら、俺も引き上げてくれよ」



「まあ、それはいいけどさ……」



 地元周辺の下級神官でもやれたらいいなと思ってたんだけど、話がおかしくなってきたぞ。でも、今からやる気なく振る舞うのも変だし、このままいくしかないか……。

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