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破門された神官、ゴブリンの村で第二の人生を送る  作者: 森田季節


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4 友達との別れ

「うわあああああ! 辞書だー! しかも、発音についての説明した本もあるじゃないですかーっ!」



 ケケは嬉しすぎて、しばらくそのへんを走りまわった。感動して、じっとしていられなかったらしい。



「ところでよ、スクルド、お前、将来神官になるのか?」



 ドドが質問してきた。



「いや、そんなはるか先のことなんて考えられないよ。それに、神官っていうのはどんなに下級でも治癒魔法は必須らしい。僕の村にあるのはキュアール神っていう治癒の女神の教会だからね」



 全国にはいろんな神がいて、それぞれが神殿や教会を持っている。教義もちょっとずつ違うはずだけど、僕の村の住人含め庶民はそんなことに興味を持ってはいない。



 ただ、神官の側はある程度のルールはあるようだ。神官になろうと思う子供がいなかったので後で聞いて知ったことだけど、キュアール教の場合は神官は治癒魔法を使えることが必須の条件らしい。




 まあ、治癒の女神に仕えているのに、神官が何の治癒魔法も使えないなら印象は悪いし、当然だとは思う。




「お前が神官になったら村を離れることにもなるんだよなって思ったんだよ」


「だとしても、すごく先のことだよ。それに……僕は村にずっと留まっても……居場所はない」



 僕の顔が暗くなったのだろうか、リリがびっくりした顔をした。



「どうしたの? 人間は生贄なんて捧げないでしょ? ゴブリンでもこのへんでは生贄を捧げる風習はないよ」


「僕が大人になっても、おそらく兄さん夫婦の下働きしかさせてもらえないからね。僕の死んだ両親の土地の権利は全部兄さんが継承してしまってるんだ」


「つまり、村にいてもお兄さんの家来になるしかないってこと?」


「家来って言葉は違う気もするけど、似たようなものだよね」



 それをどうにか打開する方法が神官になる方法なんだよな。しゃべっていて、気づいた。



 神官になれば村から離れることになるだろうし、身分的にも村の庶民よりは偉くなるはずだ。古老だって若い神官に偉そうな態度はとれていない。



 まあ、どっちみち、とんでもなく先のことだ。



「どうせだったら神官として偉くなれよ。俺もゴブリンの村の中で偉くなるからよ。ゴブリンロードになってやる」



 ドドの目は本気だった。とりあえず、威勢のいいことを言ってるだけという感じではなかった。



「ゴブリンロードってそんなに簡単になれるものなの?」


「スクルドが大人になる頃には全然可能性はあるぜ。ケケとスクルドが勉強してるのをちょっとは聞いてるしな。村の中ではかなり賢くなってる気がする」



「リリは弓矢で偉くなりたいな。遠くからどんな敵でも射殺する、すごい射手になりたい」



 リリも楽しそうに夢を語る。



 その間、ケケは知らない単語を辞書で調べていた。ゴブリンのみんなも偉くなりそうな気がする。こんなに熱心な子供は人間の中にもほとんどいないだろうから。













 僕は治癒魔法の基礎を若い神官から学び、七歳の頃には治癒魔法もどきのようなものが使えるようにはなっていた。



 治癒魔法もどきというのは、魔法の性質は含んでいるものの、回復力が小さすぎて実用性はないということだ。厳密には魔法とはみなされない。明確に魔法と呼べるものとの間にはまだまだ開きがある。



 それでも、七歳でそんなことができるという時点ですごいことらしく、教師役の神官は褒めてくれた。




 兄さん夫婦も僕が神童扱いされるのは家全体の価値が上がることと思っているのか喜んでいた。




「スクルド、君の実力なら、神官の勉強を本格的にするべきだ。十歳になったら子供用の神官養成学校に入って、もっと勉強をしなさい」



 若い神官の言葉はありがたかった。僕も勉強に手ごたえを感じていた。




(もしかして、将来偉大な神官になれるかも)




 そんな妄想じみたことまで考えたりした。少なくとも村では僕より賢い子供はいなかったので、狭い環境では無双状態だったのだ。








 一方でゴブリンたちとの遊びもずっと続いていた。



「どうだ? これぐらいの岩だったら持ち上げられるようになったぜ」



 ドドは僕とケケが力を合わせても無理そうな岩を一人で簡単に浮かすことができるようになっていた。



「最近だと、ぼくたちの村の中でドドより強い子供はいないんですよ。前なんて三人に囲まれても勝っちゃいましたからね」



 ケケもあきれた調子で言った。


「もう、隣のゴブリンの村との小競り合いに兵士として参加しても問題ないぐらいです。伝わるかわかりませんけど、これはすごいことなんですよ」


「ケケも村一番の知識を持ってるって言われてるだろ、前に北のゴブリンの村と衝突があった時も、その作戦会議にケケは呼ばれたんだ」



 ドドの言葉にちょっとケケも得意げな顔になる。



「ええ。持っている本の中に『戦術論』というものが入っていましてね。それを何度も繰り返し読んだおかげで、基本的な策なら建てられるようになったんです。ゴブリンロードに献策する権利を与えられています」



 本当にすごい。ゴブリンの世界とはいえ、子供の軍師みたいなものだ。



「ですが、その小競り合いで活躍したのは、リリですよ。石の矢で五人も相手を仕留めましたからね」


「リリの中ではあれぐらい当然かな~。次の戦では鉄の矢を使わせてくれるらしいから、もっと活躍できるんじゃない?」



 みんな、それぞれ本当に活躍している。もう、子供じゃなくて大人に混じって活動できている。



「あのさ、僕が神官の学校に行ってる間に人間の村を滅ぼすなんてことはしないでよ」



 さすがに冗談のつもりだったが、ゴブリンのみんなが強くなりすぎてる気はしていた。僕の村なんてあっという間に制圧されるんじゃないか。



「おいおい、冗談だとしてもそんなわかりきってること言うなよ」



 ドドは真剣な目で僕を見た。それから足を指差した。



「俺はスクルドに助けてもらったことで今生きてるんだ。『恩義』って言葉はゴブリンの世界にはねえけど、よくしてくれた奴には何かお返ししろって考えはある。それが一番自分の得にもつながるんだってよ。よくしてくれた奴の村を滅ぼすなんてするわけねえだろ」


「ごめん、余計な一言だった」


「それに人間の村に手を出したら、冒険者の討伐隊とか絶対に出てくるしな。下手すると、もっと正規の軍隊が大軍で来るかもしれねえ。欲望だけで動いたって、人間の村を攻めることはねえな」




 たしかにそれもそうか。ゴブリンの村が、ドドたちのところ以外にも複数あるのは人間との大きな衝突がなかったからだ。関わらないことで人間もゴブリンも共存していた。



 ゴブリン側も人間と全力で争うメリットは何もないのだから、戦闘は起きないはずだ。


「ちなみにエルフも山の北にはいるはずですよ。山が険しいですから出会うことはないですけどね。ぼくも一度しかないです」


「へえ。会ってみたいな。耳がとがってるんだよね」


「山の北への冒険はちょっとまだ無理だな。まあ、スクルドが学校に行くまではこのへんで遊ぶか」


 そうだ、今はとことん遊んでおこう。学校に入ってしまったら、森を走り回ることなんてきっとできなくなる。








 十歳になると、子供を神官候補生として教育する学校に入れられることが正式に決まった。


 入学の費用などは村に来ていた神官が取り計らってくれたらしく、一切かからないらしい。そもそも入学金が必要だったら、兄さん夫婦が払えるわけがない。




 村を離れることになったが、兄さん夫婦は食事が一人分減って喜んでいるようだったし、僕も兄さん夫婦に気をつかわなくていいので、その点の寂しさはなかった。村で豊かな家はないし、子供一人分の食事でも用意しなくて済むのがありがたいのは理解できる。




 ただ、ゴブリンの友達と別れるのは本当につらかった。



 学校へと出発する前日も僕は森の中に行った。三人のゴブリンの友達は待ってくれていた。



「神官になって戻ってこいよ。数年後には俺は絶対に、絶対に、絶対にゴブリンロードになってるからな!」




 ドドははっきりとゴブリンロードになると宣言した。



「リリも弓矢の練習、もっとするから! 村一番の射手になってるね!」


「じゃあ、ぼくはゴブリンの世界の学者を目指します!」




 リリもケケも泣きながら夢を語る。




「うん! 僕もすごい神官になれるよう努力する!」



 その時の僕は学校を卒業したら、きっと地元に戻って来られると素朴に思っていたのだ。

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