最終話 新しい村
僕はゴブリンの侵攻部隊を集めた。大半は敵を攻撃した奇襲部隊だ。
今から西の集落本体に突っ込んでいく。敵の攻撃を留めたから、それで終わりというわけにはいかない。
ケガをしている奴もいたから、そいつらには順番に治癒魔法をかけてやる。
「ありがとうございやす! これでまた戦えますぜ!」
「おっ、すぐ血が止まった! 代行はすごいです!」
回復してやった奴らからそんな声をもらった。回復してややれば、ほぼ感謝まではされるものだが、今日はいつも以上に感謝の声が多い。
それに、ほかのゴブリンたちもやけに自信に満ち溢れているし、僕を信頼しているように感じる。そういうのは空気でわかる。僕が人間だから、うさん臭いと思ってる奴なんてここにはいないようだ。
ケケが僕のそばに来て、そっと囁いた。
「さっきの奇襲で大勝しましたからね。みんな、スクルドさんについていけば間違いないと思ってるんです」
「言われてみれば、そうか」
「おかげでいい調子で戦えそうだ」
「では、みんなを鼓舞する言葉を一つかけてやってください。ここはとことん勢いに乗らせるところです」
ケケに背中を押されて、僕はゴブリンたちの前に出る。
みんな戦勝に沸いて、ずいぶん楽しそうな顔をしている。
しかし、その中にわずかに浮かない顔の奴がいた。笑ってる顔が多いからこそ、余計に目立つ。
「みんな、長の代行のスクルドだ。西の集落の攻撃、見事撃退しくれたこと、感謝する」
ゴブリンたちから歓声が飛ぶ。これぐらいの人間の言葉なら、みんなわかるようになっている。
僕はゴブリンの言葉に切り替えた。こっちのほうがより伝わるだろう。
「ケガ人は回復させてきたつもりだが。ところで死者が出たことを知っている者はいるか? 正直に手を挙げてくれ」
おずおずと浮かない顔の奴が手を挙げて、仲間が一人死にましたと言った。それともう一人も手を挙げた。誰も死なずにというわけにはいかなかったか。
戦いでは圧勝とはいえ、まともな鎧もなしに戦う奴だらけだからな。敵の攻撃で死人も出る。合計2人の兵が死んだらしい。
ゴブリンの一部から「盛り下がること言うなよ」といった声が出た。なかなか酷な言葉だが、戦闘で勢いが落ちれば自分たちも危険が及ぶかもしれない。一気に攻めたいという気持ちもわかる。
僕は少し間をおいて、こう話し出した。
「その死を絶対に無駄にはしない。僕はこれからもみんなが幸せに生きていけるような選択をする。それが治癒魔法を使える僕なりのプライドであり、僕を救ってくれたドドへの恩返しだ」
ゴブリンたちの目が真剣に僕を見つめている。少なくとも、殺戮だけを考える蛮族みたいな顔の奴は一人もいない。リリも真剣な顔で奥からこちらを見ていた。
「スクルド、スクルド!」
「村長代行!」
人間の言葉でゴブリンたちが叫ぶ。
ありがとう。僕もみんなを裏切らない。
「僕は人間だが、心はみんなと共にある。帰る故郷はほかにないって意味でみんなと同じだ!」
それはウソ偽りのない僕の気持ちだ。
「今から攻め込む! 西の集落の長を見つけ出して倒す。敵対しない者は殺すな。僕たちの村に加える。戻ってきたドドのためにプレゼントを用意しておいてやろう」
ゴブリンたちの盛り上がりが最高潮に達した。
そこで僕はこう宣言する。
「今から攻め込む! お前たちの強さを見せてやれ! ケガは全部僕が治してやる!」
ゴブリンたちが獣道を突き進んでいく。
僕もその列に後ろからついていく。
「けっこう、こういうのって気分が高揚するもんだな」
独り言のつもりだったが、いつのまにか近くにいたリリに聞かれていた。
「戦いっていうのはそういうものだよ。でも、あんまり盛り上がってると死にやすくなるからほどほどにね」
僕の横にリリが並んだ。
「スクルドが興奮すると危なそうだから冷静にいてくれてもいいよ。実戦はこっちでなんとかするから」
「ありがとな。でも、僕がまったく戦わないのもよくないとは思うから、やることはやる」
西の村の手前で僕たちは村背後の高台に登った。そこから一気に駆け下りる。
高いところからの敵を止めることは難しい。
ゴブリンの悲鳴がいくつも上がる。どちらのゴブリンかわかりづらいが、おそらく敵のほうだ。
リリがぽんぽんと肩を叩く。いつのまにか、また後ろに来ていたらしい。
「この先にここの村長がいるよ」
たしかに、そこには一回り大きいゴブリンが浮き足立っていた。鎧で胴体に関しては完全武装している。
この争いの総大将をやっている以上、責任は取る。
「悪いけど、お前が先に仕掛けた戦争だからな」
僕は槍を構える。
それから、思いきりそいつの顔に突き刺した。そこが相手で一番部防備な場所だったからだ。
一撃でそいつは絶命した。
「長を倒したぞ!」
僕は自分が出せる最大の声量でそう叫んだ。
思ったよりもケガ人は多くはなかった。それと、死者も一人で済んだらしい。合計三人か。村に戻ったら丁重に墓を作ってやろう。
村に戻って来た時には、もう真夜中どころか、夜明けも近そうだったが、僕は少しだけ仮眠しようと思った。
でも、そういうわけにもいかなかった。
エルカさんが屋敷の真ん前で待っていた。
「お仕事、お疲れ様です。村の警護は無事に済みましたよ」
「ありがとう。おかげで全力で戦えた」
「じゃあ、リリさんが来る前に!」
僕はエルカさんに屋敷に引っ張り込まれた。まあ、リリもエルカさんと別れろと言ってるわけじゃないから、いいか……。
◇
西の村との争いが終わった十日後、ドドが戻ってきた。
ドドは村民を集めたりすることはなく、屋敷に僕やリリ、ケケを集めて話をした。
「北のほうはまだごたついてる。エルフの村が滅んだのは事実だし、ゴブリンの村の中にもオーガにやられたところがある」
僕は顔をしかめた。僕らが平和にやってこられたのはオーガがいなかったという偶然のおかげだ。
「今後、北でやっていけなくなった奴らがこっちの村に来ることもある。エルフもゴブリンもな。その対応はスクルド、お前がやれ」
「うん――えっ? ドドがやるんじゃなくて?」
「俺はぶっちゃけ北のほうでやっていこうと思ってる。大変な仕事は多いけど、その代わりやりがいがある。協力してくれるゴブリンもエルフもけっこういる」
「じゃあ、僕は――――」
「正式にこの村の村長をやれ。おそらく、エルフの流民も入ってくるだろうし、ゴブリンじゃない奴がトップにいてもいいだろ。そうだな、対外的にはクレナ村とでも名乗ればいいんじゃないか。これまでも外の奴らはクレナ川近くの村って言ってたしな」
荷が重いとは思ったが、それがドドの希望なら受け入れようと思った。それに僕一人ではない。リリとケケがいてくれればおそらくどうにかなるだろう。エルフの問題もエルカさんの協力があれば対応できるはずだ。
「わかった。村長をやるよ」
翌日、ドドは自分の意図を村民を集めて話した。そこで僕も村長代行から正式に村長になった。
本来なら自分は森で息絶えていた。
それがドドに助けられて、今こうやって生きている。
だから、きっとゴブリンだらけの村の村長をやるのもキュアール神様のご意志なのだろう。
誰もが平和に生きていける村を作っていこう。
西の村のゴブリンも一部がこちらに住むようになって、これまでの城壁の内側だけでは手狭になった。城壁を壊して、外側に拡張していく作業が始まっている。
村の名前は正式にクレナ村に決めた。
この村はこれからもどんどん大きくなる。
◆終わり◆




