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破門された神官、ゴブリンの村で第二の人生を送る  作者: 森田季節


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16 抗争勃発

「村長代行の暗殺を計画している三人を処刑しました」




 翌日、村民が集まった中でケケが言った。もっと混乱が起きるかと思ったが、大量の証人が出てきたからか、大きな問題にはならなかった。




 ただ、ケケは事前に話を聞いていなかったのか、ちょっと不満そうな顔をリリのところに向けていた。













 村民への連絡の後、僕の洞窟の家にはケケとリリがやってきた。ケケは全部事後報告だったので、やっぱり思うことがいろいろあったらしい。




「無事だからよかったですが、今回のリリのやり方は独断すぎます。反省してください」


「はーい」




 あんまり反省してないな、これは。




「敵が想定される以外の行動をすることもありますからね。パニックになった敵が思いきり跳びかかってきたりしたら危なかったですよ。ぼくならより安全な策を思いつきましたが、まあ、いいでしょう。全体への通達に関しては大きな問題もなかったので、よかったとします」




 どうやら僕が叱られることはないらしい。よかった。




「それと、結果論として膿を出すことができて、そこはよかったです」




 ケケはいかにも策士という悪い顔をした。




「西の集落の敵が攻めてくる確率は非常に高いです。その前の裏切り行為、これは看過できない問題でした」


「カンカできない? ケケ、難しくてわからないよ。もっと簡単にして」


「無視できないことって意味です」


「やっぱり、西の集落は攻めてくるんだな」




 僕はここに住んで半年だからそのあたりの感覚は薄い。




「必ず来ますよ。おそらく、そろそろ攻め込む判断を下すでしょう。ゆっくりしていて、ドドさんが戻ってきたら無駄になってしまいますから」


「なあ、ケケ、ちょっといいか」


「はい、村長代行。いったい何でしょう?」


「戦争になっても、できるだけ死人が出ないようにしてくれないか」




 甘いと叱られるかもしれないが、やっぱり一緒に暮らしてきた人間がバタバタ死ぬのはきつい。




「勝ち負けがつかないと終わらないから、敵を殺すなとは言わない。ただ、せめて村民があまり死なないようにはしたい。僕は実力でのし上がったんじゃない。ドドから今の立場を預かってるだけだ」




 部外者だから村長代行になったのかもしれないが、そんな奴が民をチェスのコマみたいに消費しようとしていたら、それはダメだろう。腐っても、かつて神官だった奴がすることじゃない。




 それで何とも思わない奴なら、はっきり言って野垂れ死んでいたほうがよかった。その理由が冤罪だったとしても、その後に人を多数不幸にするんだとしたら、そこで終わったほうがマシだ。




「言われなくてもわかっていますよ。戦争における完全な策とは、戦争すらせずに勝てる策だという言葉があります。戦いが起きないようにすることは難しいですが、犠牲者を極力0に近づけるのは鉄則です」




 ケケはゆっくりうなずいた。




「ゴブリンという種族ははっきり言って命知らずな者も多いんですが、争いになった時はできるだけ身を守るように周知徹底するようにしましょう」


「ありがとうな、ケケ」


「なんか、ケケにばかり感謝してる! リリにも『ありがとう』ってもっと言ってよ!」




 リリがほっぺたをふくらませて抗議してきたので、ちょっと笑ってしまった。それから、丁重に、




「ありがとう、リリ。お前がいなかったら死んでた」



 と僕は言った。














 僕が襲撃された2日後の夜。



 僕のところにケケから西の村が動いているという連絡が来た。




「大丈夫です。すべて、こちらの準備が整っているルートです。ぼくたちが完勝できますよ」




 ケケが僕を勇気づけるように言った。




「完勝できるってことは被害も出づらいってことだよな?」


「そういうことになります。前線に立つ者は危険がありますが、そこは論功行賞でいい褒美を与えてねぎらいましょう」


「もうケケは完全に軍師だな」




 言葉の一つ一つが的確だ。




「軍師と呼ぶには早すぎます。まだまだ知識不足ですよ。資料が足らないので、どれぐらい知識不足かもわからないぐらいです。これから努力しないといけません」




 ケケは照れてから真面目な顔になった。




「ただ、スクルドさんは策略を考えるようなことは好きではないようですね」


「ひどい目にあったとはいえ、僕は神官なんだ」


「別にそれでいいです。今のスクルドさんはこの村のトップですからね。トップはあまり好戦的じゃないほうがいいんです。悪役はぼくがやります」




 さらっとケケが言った。




「悪役って……」


「これでいいんですよ。その代わり、治癒魔法でできるだけケガ人を救ってください」


「わかった」




 キュアール神に仕える者としての義務を果たそう。














 山の中には人がほとんど通らないところにも、何本も獣道が走っている。本当にシカだとかイノシシとか獣が作った道もあるが、ゴブリンが作ったものもある。だから、村の大人はあまり獣道を執拗にたどったりはしない。




 その中のゴブリンが本当に作ったとおぼしき獣道を西の集落のゴブリンたちが走って向かってくる。松明(たいまつ)の炎がいくつか灯っているので、それでわかる。



 僕は高い木の上からその様子を見下ろしている。同じ木の枝にはケケも座っている。




「そういや、ゴブリンって夜目は利かないんだな」


「洞窟でずっと生活しているところのゴブリンはよく見えるそうですけど、ぼくたちは関係ないですね。さて、そろそろ問題の箇所に敵が来ますよ」





 前で松明を持って先導するゴブリンの姿がふっと消える。




 落とし穴だ。原始的な罠だが、想定外のところではまれば威力は大きい。




 進撃が途端に止まる。穴にどんどん後続がはまっている。




「さあ、スクルドさん、代行としての仕事をお願いします」


「わかってるよ」




 僕は樹上からドラをジャンジャンジャンジャンと鳴らす。




 獣道の両サイドからこちらの集落の兵が飛び出してくる。同士討ちにならないように腕に布を巻きつけている。




 動きの止まった敵が次々に狩られていく。




「ギャアア!」「ギアアア!」と悲鳴がいくつも響く。




 勝ってはいるな。奇襲のつもりだった西の集落は自分が奇襲を受けて壊滅しそうになっている。




 少し離れたところで、火が上がった。




「あっちの獣道の火攻めも成功したみたいだな」


「はい、少なくとも炎が壁になって、向こうのルートでこっちの集落まで攻め込むことは不可能です」




 もう、近場の一般ゴブリンは逃げ惑っている。これでもうこっちの集落が蹂躙されることはないと思う。




 敵は2つのルートでこっちの集落を攻めに来た。そのルートを2つとも罠でふさいで、ルートに面したところにこっちの伏兵を準備させた。




 策がバレそうなものだが、ケケいわく敵は慌ただしく走ってるから気づかれないと言っていた。ケケの言ったとおりだった。




 あとは、敵方の指揮官クラスを倒せば上出来なんだが。




 ああ、いたいた。いかにもな鎧を着込んでいる連中がたまにいる。おそらく先導役の高官クラスは落とし穴に落ちてつぶれているだろう。



 ――と、鎧を着込んだ奴の首に矢が刺さった。




 ほかの鎧の奴が驚いた時には、そいつの首にも矢が刺さっている。



「間違いなくリリの攻撃なんだろうけど、あいつ、今どこから撃ってるんだ?」


「謎です。あの人は神出鬼没ですから。おおかた、どこかの木の上から撃っているんでしょう」



 さて、敵の進撃は止めたから、ここから先はこっちが攻め込む番だ。

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