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破門された神官、ゴブリンの村で第二の人生を送る  作者: 森田季節


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15 神官の結婚

 そのあと、ドドは村長代行になる僕とリリ、ケケだけを自分の屋敷に呼んだ。




 ドドの家は浅い洞窟だ。洞窟というか、崖下のくぼんだ部分を塀と柵で覆って、ちょっとした砦のようにしたものと考えたほうがいい。その浅い洞窟の奥は声も外に漏れないし、背後からの襲撃もないので、重要な会議の場に使われる。




「しばらく代行を頼むぜ」


「何もなきゃいいんだけどさ、近くの村のゴブリンが攻めてきたりしたら面倒だな」




 僕は気持ちを率直に伝える。一番の懸念点はそれだった。




「ああ、攻めてくると思うぜ」




 さらっとドドが言った。



「ええっ!」


「実はスパイを西の集落のほうにやって、調べていた。あいつら、やけに武器を作っている。理由は一つだ。じわじわ豊かになってきたこの村を奪うためだな」




 ケケもリリも驚いてはいない。長年住んでいれば、なんとなくそういう変化はわかるらしい。




「俺が仲裁に出ていけばそこをチャンスと思って多少無理があっても攻めてくるだろう。そこでこっちが屈服させてやれば、当分このへんは平和だ。このあたりはケケの受け売りも大きいけどな」


「村をこれからも発展させていくからには、ここは大事な局面です。でも、負ける気はありませんよ。ほかの村のゴブリンが全部オーガだったら無理ですけど、そうじゃないですからね。城壁があるだけでもものすごく有利です」




 ケケが楽しそうに言った。




「この期間、村はじわじわと戦える準備もしていました。食糧も余裕があります」


「でも、ケケ、僕は離れたゴブリンの村の地形なんて何も知らないぞ。攻め込んで挟み撃ちにあったなんてことはないんだろうな」




 失敗しちゃったでは済まされないからな。




「だから、焦らせて敵から攻撃をさせる。今、俺が北のほうに出て留守にしていれば必ず西の集落は攻めかかってくる。それを撃退するだけでいい。北から来てくれと言われたのは好都合だったぜ」



 ドドはにやりと笑った。



「ドド、お前もケガするなよ」


「そのつもりだ。それと、この村を守るためにも北の問題は無視できねえからな。この村が滅ぶか、さらに発展するか、その分かれ目だ。お前らも気を張ってくれ」




 ドドは豪快に笑った。
















 村長代行になった僕は、かつてのドドの屋敷で寝泊まりすることになった。

 たしかに四方のどこからでも攻め込まれるリスクのあるこれまでの竪穴住居の生活よりずっと安全で安心な気持ちで過ごせた。




 表面上は村長が僕になっても変化はなかった。指導者が変わった途端、天変地異が起きたり、収まったりはしない。




 正直なところ、細かな気配りは僕はできないので、そのあたりはリリとケケにお願いした。それが一番無難だろう。




 あと、罠と武器の増産も急いだ。これもリリとケケに任せたわけなので同じだが。














 数日は平穏な日が続いたが、ドドが出ていって四日後、リリが屋敷にやってきた。誰かにつけられてないか、後ろを確認していた。




「スクルド、ちょっといい?」


「何か、重要な話なんだな」


「幹部クラスの一人が命を狙おうとしてる。現在、協力者は3人。バレないようにそれ以上、頭数は増やすつもりはないらしい」



 リリが僕に耳打ちした。




「そうか。まあ、ありそうな話だな」


「あれ? 驚かないんだね! むしろ、そっちがリリは驚き!」




 リリの声が高く上がった。




「流れ者の、しかも人間がドドの代行だぞ。好かれないほうが自然ってもんだろ。そりゃ、そうなるだろうって感想しかない。ところで、なんでそんなことがわかった?」



 リリは自分の耳を引っ張った。




「リリは耳もいいからね。狩りの最中に密談してるのを聞いたんだよ」


「僕はろくに狩りに参加してないからな。狩り中心の奴らの中には気に食わない奴もいるはずだ」


「治癒魔法で回復してもらった人はすごく好印象なんだけどね。回復してもらってない人からすると、スクルドを褒めてる奴も気に入らないみたいで、かえって溝が深くなってる」


「ありそうな話だな」




 こういうところ、本当に人間社会とまったく同じだな。こんなところまで同じじゃなくてもいいのに。




 厄介なのは、いつ西の集落が攻めてくるかわからない時期ということだ。最悪なのはスパイになって、こっちの集落の情報を向こうに流されたりすること。次に困るのが、緊急事態になった時に僕の命令を聞こうとしてくれないこと。




「で、こういうのってどうしたらいい?」


「リリに任せてくれれば解決するよ」




 リリが胸を叩いた。




「その代わり……スクルドには一つお願いがあるんだけど」




 視線をそらしてリリは言った。




「何だ? 危急の事態だしどんなことでも言ってくれ」


「スクルドって……あのエルフの人と付き合ってるよね……?」




 やっぱりこういうのって広がってるな……。エルカさんの家に入っていってるのでも見られただろうか。




「うん、そうだけど……」


「二人は結婚してるわけ?」


「婚約は……してないな」




 これはウソじゃない。あと、ゴブリンにおける婚約のルールがよくわからないというのもある。




「じゃ、じゃあ、リリと……結婚しよ!」


「へっ? 結婚……?」


「そうだよ! リリが先にスクルドのこと好きだったのにいきなり村に来たエルフの人とくっついちゃうし! リリ、村では偉い立場だから一生困らせないよ! ねっ、スクルド! どう?」


「どうって、え、ええと……ゴブリンの結婚のルールとかってあるのかな?」


「二人が結婚って認めれば結婚。あとは、とくにないかな。まあ、愛人がたくさんいるゴブリンは多いけど、結婚は最大で五人ぐらい?」


「多すぎるだろ!」




 思いっきり重婚じゃないか。人間の世界ではルール違反だ。




「というか、それだったらエルカさんのこと、聞く必要ないような……」


「そういう問題じゃないよ! 五人目の結婚相手になりましたなんて嫌じゃん!」




 言われてみればそのとおりか。




「その……僕なんかでよければ」




 エルカさんは好きに恋をしていいといったことを言っていたし。




「よかった……」




 リリは静かに僕に抱き着いてきた。うっすら香水の香りがした。ゴブリンはそんなもの、めったに使わない。わざわざ香水をつけてきたのだろう。




 リリの胸が、それと髪が当たる。今更見た目をどうこう言う気はないけど、この村に来た時からずっとリリは人間の女性のように見えていた。案外、人とゴブリンの種族の違いは薄いのかもしれない。世の中にはゴブリンっぽい人間も、人間っぽいゴブリンもいるということだろう。




「ええと……暗殺を計画してる奴がいるんだよな……。できれば、そっちをさっきに解決してほしいかなって……」




 気恥ずかしくて、僕はそう言った。




「だったら大丈夫だよ。リリと結婚してくれるんだよね?」


「う、うん。それは、そう言った」


「そう言ってくれると信じてたから、悪い奴は全部やっつけたよ」


「えっ?」




 イタズラっぽくリリは笑った。




「リリの協力者の一人に暗殺計画に参加するから、村外れまで来てほしいって呼び出したんだ。話を聞いてるゴブリンだらけのところで、悪い奴は暗殺計画を改めて話してくれたよ。だから、堂々とリリが弓矢でやっつけた。もう全部解決」


「…………それを先に言ってほしかったな。かなり危ない橋な気がするし」


「成功したら、スクルドに結婚しようって言うつもりだったし」




 なんか危ないフラグだなと思ったけど、リリが無事でよかった。




 僕はリリを強く抱きしめた。


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