タワーの住人
「どうぞ。お入りください。」
毎回この瞬間は心臓に嫌な汗をかく。ピーという機械音が酷く不快だ。だけど、この音を聞ける日はまだいい。私の前に鳴ったのは、濁点の付いた機械音だった。あの子は、誰の手によって...
私たちはみなタワーに住んでいる。東京タワーなんかよりもよっぽど大きい近未来的なやつ。もちろん地下都市もある。こっちの方が安全だから、お偉いさんはみんなこっち。タワーに住んでいるのは労働者、もしくは戦闘員だけ。通常十二になると身体能力が基準を満たしている子は戦闘員か労働者か選べる。私はお腹を空かせたくなかったから戦闘員にした。そんな話をしているうちに下層階に到着した。老若男女、誰ひとりとして目に光を宿していない。薄汚れた顔にはみな同じく表情がない。こうやって見ると、人間って言うよりアンドロイドって言われた方が納得しそう。地獄絵図だね。心底こっちでなくて良かったと思うよ。中層階に着いたよ。バラックに住んでるアイツらと違って、ここは一人ずつ個室が割り当てられている。どうしてって?共食いするから。お腹丸出しで寝てたら明日には中身を床にぶちまけてるね。ここは殺した人が殺された人のものを奪っていいの。あー、戦闘員がお腹を空かせてないのは充分な食料が支給されるからじゃないんだよ。奪うっていう選択肢があるから。ちなみに私の仕事は暗殺系。だから武器も結構良いやつなんだよー。動かないでね。振り向いちゃダメだよ。そのまま歩いて。識別番号GZ85929582。Gクラスか。いいもん持ってないでしょ。あーあ、殺し損じゃん。あ、そろそろ家に向かうから、ここら辺でバイバイだね。ついてきたら殺すから。
デタラメな道を何周もして後ろを警戒する。さっきの人だって自分を狙う一人かもしれない。地下にいた時代が嘘みたいだ。あの頃はこんな世界があるなんて知らなかったな。無邪気な笑顔で空色の天井の下で全力疾走する。木も花も草も風も何もかもが作り物。まさにユートピアだ。あそこにいるのが全部下級市民の子供たちだと知ったのは、タワーに来てからだ。ほとんどの子は親が誰かも分からない。上級市民の子は家庭育ちなんだそう。その家庭ってものは私たちが育った場所とは違って、二人の大人から愛情というものを注がれるらしい。育手さんに言われる愛してると何が違うのだろうか。そもそも、住む場所に一人か二人しか子供がいないというのはどういう感覚なのだろうか。
手のひらを当てると、ピピッと軽快な電子音がした。後ろを振り返って追跡がないことを確認する。左手を横に伸ばす。開いたドア越しに目に入ったのは、生活感溢れる空間。散乱した服の中に頭からダイブする。考える必要は無い。私は下級市民。消えたところで代わりはいくらでもいるような存在。神話を羨ましがってはいけない。こうやって生きるしかないんだから。今日はもう寝よう。明日も朝一番にこの天井が見れれば万々歳なんだから。おやすみ...
中学生の頃のやつ発掘してきました




