第8話：父の審判
第8話：父の審判
ヴァレンシア公爵邸は、居住空間というよりむしろ灰色の石で築かれた要塞といった趣だった。屋敷内に漂うのは、通常の貴族邸宅にあるような芳香ではなく、革、古書、そして権力が混ざり合った息苦しいほどの重厚な匂いだけだった。
私はエリノーラとともに、公爵の書斎の大きなオークの扉の前に立っていた。エリノーラの顔は扉板よりも蒼白で、彼女が必死に震えを抑えているのがわかった。
無理もない。彼女の断片的な説明から、私はすでにこのヴァレンシア公爵の人物像を組み立てていた──家の名誉を何より重んじる伝統派の家長。娘がこのようなスキャンダルに巻き込まれたことは、彼にとって決して許される汚点ではない。これから対面するのは、父親であると同時に、厳格な審判者でもあるのだ。
扉が開かれた。書斎の中は薄暗く、重いカーテンが外光を遮り、暖炉の炎だけが静かに揺れていた。ヴァレンシア公爵は書斎机の後ろに座り、がっしりとした体格に、丁寧に整えられた白髪混じりの髪、鷹のように鋭い眼差しで私たちを見据え、その威厳はまるで空気さえも凍りつかせるかのようだった。
「エリノーラ、」彼の声は低く、かつ力強かった。「おまえが連れてきたのは、下卑た民間探偵だと聞いたが、ふざけるのもいい加減にしろ。おまえが家名にかけた恥辱は、まだ足りないのか？」
「父上！そんなことではありません！」エリノーラは必死に一歩前に出たが、緊張のあまり、言葉が彼女本来の不器用で感情的な口調に戻っていた。「あのリリアン・エステルが私を陥れたのです！私は彼女を突いてなどいません！これはすべて陰謀です！」
「陰謀だと？」公爵は冷たく鼻で笑った。「誰もがおまえが現場にいたのを見ている。弁解しているのはおまえただ一人だ。それで“陰謀”だと？ ヴァレンシア家は、そんな取るに足らない言い逃れをしないはずだ！」
エリノーラの目元が赤くなり、無力感に押しつぶされそうになっているのを私は見た。そして、そっと一歩前に出て、軽くお辞儀をした。
「ご機嫌うかがいます、ヴァレンシア公爵様。」私の声は平静だったが、その沈黙を切り裂くように書斎の緊張した空気を和らげた。「私の名前はミスティと申します。令嬢のご依頼を受けた探偵です。令嬢にかけられた疑いについて、予備調査を終えております。ご報告の機会を賜れますでしょうか？」
公爵の視線が私に向けられた。その目には軽蔑と疑念がうかがえたが、追い返すことなく、私に続きを促すように頷いた。
私は書類を取り出さず、硬直した伝統主義者相手には、まず論理で彼の認識を打ち砕くべきだと心得ていた。
「公爵様、現在広がっている説では、令嬢が怒りに任せてリリアン嬢を突き倒したということですが、この説には三つの致命的な矛盾点があります。」
「第一に、タイミングです。令嬢は事件の前、一日中、数十名の証人が見守る公開授業に出席しており、そんな精巧な仕掛けを事前に設置する時間など全くありません。」
「第二に、物理的原理です。」私は現場での観察を語った。「書棚が倒壊した痕跡は、外力による衝撃とは異なり、内部から支えが抜かれたように自壊した様相を示しています。つまり、現場には我々の知らない“機械仕掛け”が存在したのです。」
「第三に、人証の信頼性の弱さです。」私はさらに続けた。「“突いた”と主張する証人たちに詳細を尋ねると、証言は互いに食い違い、数々の矛盾が見られます。つまり彼らが“見た”と思っているのは、真実ではなく、誰かに誘導された幻影なのです。」
私が一つずつ提示するたびに、公爵の眉はさらに深く寄っていった。彼は真剣に耳を傾けていた。
「以上三点を総合すれば、これは衝動的な事故ではなく、周到に演出された芝居であるという結論に至ります。令嬢は最初から最後まで、表に置かれたコマにすぎず、真の操作者は別にいるのです。」
私は短く間を取ってから、火漆で封をした厚い陳述書を両手で差し出した。
「こちらには、私の調査の詳細、現場から発見された第三者の痕跡、そしてリリアン嬢の本当の動機をまとめています――彼女は個人的怨恨からではなく、大人物たちの前で同情と名声を得るための“苦肉の策”として芝居を打っていたのです。」
公爵は陳述書を手に取り、沈黙のままあらかじめ開いたページを読み始めた。暖炉の火が彼の表情を映し出し、彼はその報告の重みを考え抜くように、一字一句を慎重に目で追っていた。
しばらくして、彼はようやく陳述書を閉じ、机の上に置いた。私を見ることなく、まず娘へ視線を戻した。怒りや失望だけでなく、そこには探るような複雑な色合いが含まれていた。
「エリノーラ、」彼は低く語りかけた。「おまえが連れてきた探偵……なかなか面白いな。」
そして視線を私に向け、威厳は微塵も揺らがなかった。
「おまえの調査、認めよう。今日からおまえはヴァレンシア家の顔だ。手段は問わん。結果だけを求める――この件の背後に隠された真実を、すべて掘り出してこい。」
それこそが、私が望んでいたもの。公爵ご自身からいただいた、最高の権限だった。
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