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第17話:視覚のトリック

第17話:視覚のトリック


事務所の中、窓の外から差し込む月光が机の上を照らし、私たちが苦労して集めた数点の証拠品に、冷ややかな銀色の縁取りを与えていた。琉璃瓶に収められた土と繊維は、リリアンが本来行くはずのない場所に足を踏み入れたことを証明している。『訪問者名簿』の写しは、彼女のアリバイを覆す決定的な反証。そして、私によるギディアン卿への聞き取り記録は、人格の根本からエリノラが「加害者」である可能性を否定していた。


「証拠はもう十分揃ってるわ。」エリノラは机の上の証拠品を見つめながら、これまでにない確信に満ちた口調で言った。「物証も、人証も、人格の裏付けも。いつでも風紀委員会、あるいは王室にこの完全な報告書を提出できる。」


「いいえ、まだ最後の一片が足りない。」私は首を振り、すべての証拠を慎重にしまい込んだ。「今あるものは、すべて間接的な状況証拠に過ぎません。リリアンに疑いがあることを示しただけで、あなたに動機がないことを証明しただけ。でも、肝心の問いにはまだ答えていない。」


私はエリノラを見つめ、慎重に言った。「もしあなたが突き飛ばしていないなら、どうしてあの場にいた全員が、『あなたが手を伸ばすのを見た』と口を揃えて言ったのか? この問題を解決しなければ、我々の証拠はすべて『偶然』と片付けられてしまう。」


エリノラの眉が再び深く寄せられた。そう、これこそが相手の仕掛けの中で最も恐ろしい点だ。物的証拠には解釈の余地があるが、目撃者全員の「この目で見た」という証言は、揺るぎない鉄壁のごとき重みを持つ。


「人の心にある先入観は、最も越えがたい山だ。」私は静かに言った。「それを崩すには、理屈だけでは足りない。審判者自身にも、実際に目で見てもらう必要がある……『現実』がどのように歪められるかを。」


私は立ち上がった。「エリノラ様、もう一度あの階段へ行きましょう。今回は、被告人としてでも、私の味方としてでもなく……観客として。」


その夜、私たちは再びあの見慣れた中央階段へと足を運んだ。公爵の権威に守られ、周囲には誰一人いない。柱に取り付けられた魔晶灯が静かな光を放ち、冷たい石の階段に私たちの影を映していた。


「では、エリノラ様、」私は言った。「あそこに立ってください。」私は階段の踊り場の斜め下にある一点を指差した。「記録によれば、クララ嬢——リリアンの最も親しい友人で、あなたを最も強く非難した人物——は、そのときまさにそこに立っていた。」


エリノラは指示通りその位置に立った。そこからは、踊り場全体が一望できる。


「では、よく見ていてください。」私は階段の踊り場の上へと上がり、当日エリノラが降りてきた時の動きを模倣した。次に、踊り場の中央、つまりリリアンがいた位置に立つ。


「まずは、仕掛けの第一歩——『予期を作る』こと。」私は階段の下にいるエリノラに向けて説明を始めた。「激しい口論、もしくは一方的な非難。これにより、周囲の目撃者たちの心に、『これから衝突が起こるかもしれない』という予期が静かに植え付けられる。彼らの心は、すでに誘導されている。」


「次は、舞台の構造。ここの手すりは彫刻が複雑で、欄干の隙間も狭い。あなたの位置から見て、」私はしゃがみこみ、彼女と同じ視線の高さになるようにした。「私の足元の動き、全部見えますか?」


「……いいえ。」エリノラは首を振った。「手すりや欄干が邪魔して、一部が見えません。」


「それでいいんです。」私は立ち上がった。「これが、『視覚の死角』を作る条件です。では、いよいよ本番です。」


私はエリノラに想像してもらった。いま、自分の後ろから「怒れるエリノラ」が、つまり階段の上から勢いよく降りてきて、「無垢なリリアン」である私の横を通り過ぎようとしている場面を。


「よく見ていてください。」私は言った。「『私』が近づいてきます。」


その瞬間、私は全身の動きを一変させた。


想像上の「エリノラ」が近づく直前、そのすれ違うタイミングで、私は体を急に後ろ斜めにひねり、左肩を後方に落としながら、右腕を前へと振り出した。まるでバランスを取ろうとしているような動作。口からは短く抑えた驚きの声を発し、顔には何度も練習した、リリアン特有の驚きと哀れみが入り混じった表情を浮かべた。


そして、両足が崩れたように力を抜き、体は自ら生み出した遠心力に身を任せるようにして、地面へと崩れ落ちた。スカートの裾が広がり、その姿勢は、あの日のリリアンと寸分違わぬものだった。


一連の動作は、まさに一気呵成で完結された。


階段の下、エリノラはそこに立ち尽くし、全く動けない。驚愕が顔にくっきりと刻まれていた。口を開いていたが、声は出なかった。


私はゆっくりと立ち上がり、服についた埃を払いつつ、彼女の前へと歩み寄った。


「何が見えましたか?」私は尋ねた。


「わたし……わたしには……」彼女の声は乾いていた。「『あなた』が後ろから来て、そして……押したのが見えた。だから、あなたが倒れたの。」


彼女自身、これがすべて私一人の演技だと知っていながら、それでも彼女の位置から見た光景は、疑いようのない「押された事件」にしか見えなかったのだ。


「これが、視覚のトリックです。」私は種明かしをした。「人の目は、真実をそのまま映す鏡ではありません。脳に騙され、過去の経験や今この瞬間の予期によって、見えなかった部分を自動的に補完してしまうのです。」


「リリアンは誰の目も騙してはいません。彼女は、まず口論で皆の脳に『押す』という脚本を書き込み、そして手すりに隠れた場所で、自分で仕掛けた完璧な転倒演技を行った。あとは、脳がその空白を埋めるだけ。人々は、自分の目で『押す』動作を見たと確信する。それは、脳がこの状況を納得させるために、自動的に再生した映像なのです。」


エリノラの体は、このぞっとするような分析に震え始めた。彼女はようやく、自分が相対していたのが、どれほど恐ろしい存在——人の心を自在に操る幻術師——だったのかを理解したのだ。


「では……」彼女は私を見つめ、目には確かな信頼が宿っていた。「すべての謎が解けたのね?」


「はい。」私は頷き、すでにその秘密を完全に解き明かした階段を見上げた。「役者の布石、芝居の動機、舞台の仕掛け、そして観客の心理。すべてが明らかになりました。」


「今こそ、この芝居の幕を下ろし、私たち自身の——最後の批評を記す時です。」

ここまで物語を読んでいただき、本当にありがとうございます!


もしこの物語を少しでも気に入っていただけましたら、ぜひページ下部の**【★★★★★】で星5つの評価を、そして【いいね】、【コメント】**で、あなたの声を聞かせてください。皆様からいただく一つ一つの応援が、私が次章を書き進めるための、何よりのエネルギーになります。


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【更新ペースと将来の夢について】


現在の更新は、基本的に週に1話を予定しています。

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