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やる気、創造者に最初の報告書を送る


◇◇◇◇◇◇




 私は、従者からここへ来た理由を聞いた後、目の前で跪いているのをいいことに栄誉アコレードを与えるが如く、聖域結界内の滞在許可を認める専用眼鏡を渡した。


 これを着けていれば、私に対して、多少の悪意や敵意、小言や諌言を用いても弾かれることはない。もし、弾かれることがあるとすれば、殺意や憎悪を持って直接行動に出た時ぐらいだ。


 一応、従者にはその注意事項と備わっている機能を伝え、眼鏡以外のアクセサリーなどの身に付ける小物であれば要望があれば聞くと尋ねてみたが、専用眼鏡これでいいと答えてくれた。


 それと、従者の挙動不審な態度から星界システムの設定関係を確認してみたら、時間設定だけが弄られていた。意図的にそうしたのか、間違ってそうしたのかは、今さらだし問わないことにした。


 星界内こちらからは権限レベルの関係で時間の流れは変更できないし、どうせ創造者本体が仮眠から起きたときに、なにかしらの行動に出るだろうと思ったからだ。


 余談だけど、亜神となった素体の仕様確認したら、非破壊物体の設定がなされていた。道理で、撃たれ強い訳である。


 メイド服は対象外で、ボロボロになりながら身体に怪我が見られないのは、その所為だった。……なお、下着が破れず残っていたのは、乙女の守秘義務に駆られた情念みたいな曖昧なモノが発動した、と想像している。


 従者にMPコストを使ってメイド服の複製してもらおうとしたけど、天嵐解放で殆どのMPを使い果たしてしまったとのこと。


 これも素体の仕様確認した。私に関しては莫大なMPと祈りによる回復は出来るものの、従者のゲストモードだと限定的なMPと、権限レベルも絞られこの星界で言うところの戦略的魔法の規模までに限定され、更に回復もなしだった。


 仕方がないので、幾らかのMPを譲渡することにしたけれど、この方法が身体の一部を接触させて行うものだったので、従者が難色を示した。最終的に、素体同士ということで話をまとめ、同意してもらい譲渡したのだけど、従者は事後、顔を赤くして惚けていた。


 そのあと、気を取り戻した従者にメイド服を複製してもらい、しばらくは渡した分だけで休暇を過ごすように言っておいた。……これって、なにか手伝ってもらったり、やってもらった時とかの対価に使えそうだな?


 従者のお色直しを済ませ、今度は、創造者本体に送るメッセージを作成する為、巡洋船クルーザーと同じ星界のフリー素材から、優秀な人工知能搭載した撮影用の高機能ドローンを創り出した。


 撮影中、従者の有給休暇の申請発言に「んんっ!?」と思ったけど、あえて口にはしなかった。


「これから私と夢のような休暇を過ごそうじゃあないか、あっはっはーっ」

「はい、マスター。初めての有給休暇をどう過ごそうか、いまから楽しみです」


 撮影を終えて、パラメータ画面から動画を添付したメッセージを送ったあと、凄く濁した言い方にワザとらしい笑いを添えて言葉を掛けたけど、従者は気付いていないかもしれない。


 ……しかも初めての有給休暇とか、ブラック過ぎてとてもココロが痛む。




◇◇◇◇◇◇



 嵐の海を進む一隻のキャラベル船は、突如発生した大自然の猛威に翻弄されていた。


 暴風と大粒の雨、大荒れの波に揉まれ帆は破れ、船体は到る所で軋みを上げ、いつ難破してもおかしくない状態だ。


 船長は、甲板のへりに捕まって身体を固定し激しい雨と揺れに耐えながら、荒れた海を見ている。


「おいっ、航海長っ、島はまだなのか!!」

「そろそろな筈だが、雨と波の所為で全く判らんっ!!」


 海が荒れ始めた時点で、おかより近いと思われた普段から航海の目印に使っていた島に、進路変更するよう指示を出していた。


 しかし、隣で同じような格好で船の揺れに対し踏ん張っている航海長に声を掛けていたが、答えは芳しくない。


 船長と航海長は経験上、天候が崩れる時はなにかしらの予兆や前触れがあることを知っていた。


 海面の揺らめき、空気の匂い、星のまたたき、背の高い雲が遠くに見える、湿り気を含んだ強い風が吹く、等等。


 しかし、今回はそういった気配は無かった。帝国まで無事な航海が出来るだろう。そう思っていた。


 実際、旧王国領の港から商品を載せて出港したあとは、海が荒れる気配もなく文字通り順風満帆の航海だった。


「あんだけ良かった天気がなんで急に荒れるんだよ……」


 船長は、甲板で暴風雨に晒されながら、大きく波うねる海を見て呟いた。




◇◇◇◇◇◇




 同船、船倉内。


 激しい揺れで船体はギシギシと音を立て、中に居た奴隷たちは精神と身体が掻き混ぜられて、漂い酷い船酔い状態で呻き声を上げていた。


 場所によっては、酷い体臭と吐しゃ物が混じった異臭が漂っている。


 そんな中で、一人の少女が、狭い壁際で手枷せで不自由な両手を使い、必死に近場の柱に捕まって身体を固定し、黙祷しながら小さな言葉を呟いていた。


「アンタ、さっきから祈ってるようだけど、そんなのひとつの役にも立たないよ」

「……そんなことない。神様はいる。私たちをいつも見守っている」


 灯りの乏しい薄暗い船倉内。間近で交わされる小さな声のやり取り。


 少女に話し掛けてきたのは、王国が滅んだ際、奴隷として一緒に船に乗せられた女性。


「それなら国が滅んだときに、いいえ、その前に私たちは助けられている筈さ」

「……それは誰も神様を信じていないから……祈りが、足りなかったから」

「なら、その見ているだけの神様にお願いして頂戴。この揺れを早くなくしてくださいって……んぷっ……」

「…………」


 女性もまた、同じように壁際の柱を必死に掴んで身体を固定し、船の激しい揺れと身体の内側から来る気持ちの悪さに耐えていた。


 少女は女性の言葉に答えられない。


 そんな折、船全体がなにか硬いものに乗り上げたような激しい揺れに襲われた。


 船倉内の到る所で、奴隷たちが悲鳴を上げながら壁に身体をぶつけたり、身体を折り重ねたりしていた。


「穴だっ、穴が空いて水が入ってきたぁーーーっ!!」


 奴隷の誰かが叫ぶ。その言葉を切っ掛けに、船倉内に居た全員が混乱に陥り、阿鼻叫喚の絵図を描いた。




◇◇◇◇◇◇




 船長は、突然起こった衝撃に身体を支えきれず甲板上に投げ出された。他の船員も同様だった。


 中には荒れ狂う海に投げ出された者までいた。隣に居た航海長の姿は見えないから、彼もまたどこかに投げ出されたのだろう。


 船長は痛む身体を無理矢理起こし状況を確認しようとするが、船体が傾いて身体を支えながらでないと上手く立てない。


「……な、なにが起きたっ!」

「せ、船長大変だっ、船が暗礁に乗り上げたっ!!」


 船長の問いに、甲板の縁にいた船員の一人がそう叫んで返した。


 この言葉を聞いて天を仰いだ。脳裏には難破の文字が大きくし掛かり、こんな理不尽な大嵐に見舞われた己の不運を呪い、神に対する恨み言しか浮かんでこなかった。


 続いて船内から別の船員が慌ててやって来てダメ押しの言葉を叫んだ。


「船倉に穴が空いて水が入ってきたっ! 中の奴隷たちが大騒ぎしている!!」


 船長は即座に決断を下して、大声で指示を出した。


「総員、退船っ!! 総員、退船だっ!! 船員も、奴隷も、全員退船だっ!! そのあとは何か浮くものに掴まるって耐えるんだっ!!」


 とはいえ、今の状態だと自分はもちろん船員たちや奴隷たちも助かる見込みは少ない。


 船長はもうこれまでかと覚悟を決めた。




我が妄想

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